第17話 衣裳完成

 王都での生活にもだいぶ慣れてきた頃、コーエリンからのお呼び出しがきた。

 ついに、衣裳の完成である。


 俺とミュリエラが目に見えてワクワクしていて、他の三人(主にオリバー)を引っ張るみたいにコーエリンの屋敷へとやってきた。

 迎えの馬車を用意してくれていて、すぐに到着する。


 通された衣裳部屋にはコーエリンと鍛治師のマルヴィクが待っていた。

 ヒーローメットの被り心地やサイズ感の調整に何回か顔を合わせてはいたけれど、いつもボッサボサだった焦茶色の髪の毛が今日は整えられていて、別人みたいだった。


「えー! マルヴィクってこんな顔してたんだ! かっこいいじゃん、もっと出しなよ」


 マルヴィクはすごく嫌そうな顔をした後、首を数回横に振った。

 サイズ調整とかの時からずっとそうなのだが、マルヴィクはほとんど喋らない。

 工房にはお弟子さんが何人もいて、その人たちが通訳みたいにやりとりの中継をしてくれていた。

 今も、一人のお弟子さんがマルヴィクの後ろに待機していて、師の顔を伺いつつ発言する。


「昔は顔を出していたんですが、仕事に無関係の会話を求められることが増えてしまってどんどん前髪が伸び、寝癖が直されないようになりましたね。今日はフォルシュリッツ伯のお屋敷へ赴くということで整えさせていただきましたが、工房に帰る頃には元通りになるかと」

「あー、すごい想像できた」

「ほらほらミュリエラちゃん、マルヴィクのことなんて放っておいて試着してきてちょうだい! みんなもよ、サイズピッタリに作ったし、ある程度は伸縮する素材でできてるから大丈夫だとは思うけど、気になるところがあればすぐに言うのよ!」

「は〜い」


 俺たちそれぞれにメイドさんが付いてくれて(当然のようにオリバーを運ぶ執事さんもいる)、部屋の中に用意された簡易的な個室に案内される。

 中には完成したヒーロースーツと、普段着が置かれていて、早着替えの説明をされた。

 一回全てを脱いでヒーロースーツへ着替えるのは現実的ではないということで、普段着の下にヒーロースーツを着ておこうということになったのだ。

 ボタンではなくゴムのズボン、軽く引っ張れば外れる留め具。

 最初に足を抜くだけで大丈夫な靴を脱ぎ、シャツとズボンを脱ぎ、ブーツとヘルメットを身に付けて完成である。


「こうして……こうして、こう!」

「お上手ですわ、カイル様」

「ありがとう!」


 普段着に戻って個室を出ると、他のみんなもちょうど出てきたところだった。

 みんなの服を見て気付く。

 俺にはシャツに赤い糸で炎に似た幾何学模様の刺繍が施されていて、シュルツのズボンには青い石でワンポイント。

 ミュリエラは薄いピンクのふんわりとしたロングワンピースで、エヴァンスのシャツにはいかづちのような黄色の歪なストライプ模様が透けて見えるし、オリバーのズボンの裾からは植物が伸びてるみたいに緑の糸で刺繍が施されている。


「めっちゃいい……」

「でしょう! 自信作よ」

「本当にありがとうコーエリン!」

「ンフフ、いいのよぉ。さ、早替え見せてちょうだい、練習しましょ?」

「おう!」


 最初はエヴァンスの目眩しはなしで着替えの練習をする。


「変! 身!」


 そう叫びながら一度ポーズを決め、それから着替え。

 撮映写機に映らない距離に置いていたブーツとヘルメットのところまで走っていって、素早くヒーロー姿になる。

 それからまたさっきの位置に戻り、決めゼリフをいいながらのポーズ!


「放つは灼熱! 赤きハートのマホレッド!」


 他のみんなも次々にポーズを決めていき、魔法戦隊の集合絵が完成した。


「う、うぉぉぉぉ……ついに……ついにマホレッドになれた……」

「おい、泣くのはまだ早いぞ」

「そうだよ! まだ戦闘シーンが残ってるんだから!」

「そういやお前、一撃でネビット倒せるようになったんだろ? はなからそっちで行くか?」

「そうだね、ヒーローは最初から強いから、みんなそれぞれの魔法を使った見せ場のシーンを作ろう!」

「ぼくは最初に補助したら寝てていいよね……」


 ヒーローメットを被っていても、視界は良好だ。

 片側からしか見えない特殊な金属を伸ばして作ってあって、相手から顔は見えない。

 発した言葉や、周囲の音はヘルメットの耳の辺りに仕込まれた小さな魔道具の働きによって通常時とほとんど同じような感覚で活動できるようになっている。


 壁に埋め込まれた巨大な鏡の前で自分の姿を見て、俺はまた泣きそうになった。

 マホレンジャーごっこじゃない。

 本当にマホレンジャーなのだ。


 俺が毎週日曜日の朝にテレビの前でワクワクしていたような気持ちを、誰かに与えることができるだろうか。

 マホレンジャーに、マホレッドになりたいと思ってもらえるだろうか。


 鏡の中の自分が小さく自信なさげに見えて、姿勢を正す。


(俺はマホレッドだ。マホレッドなんだ!)


 胸を張り、背筋を伸ばし、立ち姿からカッコよく。

 テレビの向こうで俺に手を差し伸べるマホレッドの姿を思い出し、俺は気合いを入れ直した。


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