第16話 集合ポーズ練習

 数日後。

 リューシードが撮映写機の機能を試したりなんだりしている中、俺たちは全員でのポーズの練習をしていた。


「“マホレッド“が真ん中で両手と右脚を上げてポーズするでしょー、右側に“マホブルー“が、腕を組んで少し斜めに身体を振ってキメるでしょー、その後ろに“マホグリーン“が優しく空に手を伸ばす感じでポーズ取って、俺の左には“マホピンク“が右脚を後ろに折る感じで可愛くポーズ取る。そんでその後ろに“マホイエロー“がシャキーンって空に飛び出して行くみたいなポーズ! 背後でドカーンって爆発! これが“オープニング“なんだ」

「派手だね〜」

「あと決めゼリフもある!」


『放つは灼熱! 赤きハートのマホレッド!』

『放つは氷結! 青くクールなマホブルー!』

『放つは風刃ふうじん! 桃色キュートなマホピンク!』

『放つは緑香りょっこう! 緑の癒しをマホグリーン!』

『放つは雷撃! 黄金こがねに輝くマホイエロー!』

『魔法戦隊! マホレンジャー!』


「これを一人ずつ言いながらさっきのポーズを取っていくんだー!」

「発音が難しいんだ、もう一回言ってみてくれ」

「放つは氷結! 青く“クール“な“マホブルー“!」

「くぅる、まほぶるぅ」

「えーとね、こっちの感じで言うと……クールと、マホブルーみたいな」

「クール、マホブルー」

「あ! 今のいい!」


 そうか、俺が意識してこっちの言葉に当てはめるような発音の仕方をしなきゃいけなかったんだな。

 俺がもう一度意識して発音を繰り返すと、他のみんなもかなり近い音で発話することができるようになった。


 撮映写機の観察を終えたリューシードが、魔素を流して撮影テストを始める。

 俺たちは被写体になりつつ、決めゼリフとポージングの練習である。


「オリバー! とりあえず一回はやって!」

「めんどくさい〜」

「夕ご飯抜きでいいか」

「それは卑怯だと思うなぁ……」


 俺からエヴァンスまでのセリフとポーズが終わり、五人全員決まったところで一旦撮影を止め、映像を確認する。

 俺は結構いい感じに出来てると思ったけど、ミュリエラとエヴァンスのダメ出しがすごかった。


「この腕の角度はこうした方がカッコよく見える!」

「ここは腰を少し捻った方が飾りがきちんと見えそうだな」

「ボクはもうちょっと足を上げて、カイルの方に近付いた方がよさそう」

「シュルツはほんの少しだけカイル側に寄り掛かるように重心傾けた方がいいな」


 何回か練習を繰り返し(もちろんオリバーは最初の一回しかやっていない)、いい感じにポーズができるようになった。

 その頃にはリューシードも撮映写機の扱いに慣れてきて、決めゼリフの時は喋っている一人だけをしっかり映し、魔法戦隊!のところから全体を映すなんてことをすごい自然にやってくれていた。


 変身シーンのポーズに関しても、何回か練習した。

 早着替えの練習はまだだけど、エヴァンスの目潰しが放たれる瞬間に後ろを向いて眩しくないようにするのもバッチリ。


 あとは衣裳ができたら、完璧だ!



 ダンジョンに行くという授業は、各属性ごと順番に行われるらしい。

 俺たちの他にも数組が同じ日にダンジョンに来ていて、全部で五十人くらい。


 ヒュロスさんに聞いたところによると、毎年この時期は学院の新入生が大勢くるとみんな知っていて、他の人たちは別のダンジョンを使うのが暗黙の了解になっているらしい。

 でも敢えて、自分たちのチームに引き抜くやつを探しに来る人はいるみたい。

 引き抜くといっても、すぐにどうこうというわけではなく、『卒業後はぜひうちに来てくれよ』程度のことのようだが。


 俺たちは先生と一緒に修練の森に入った。

 最初の授業から毎日訓練していたから、たぶん魔素の量は増えているはずだ。

 先生がいない状態で強くなっている(はずの)魔法を使うのは少し怖かったから、まだ全力を出したことはない。

 毎日出るゴミを燃やしてはいるけど、ゴミ処理には大きな火は必要ないからな。


「じゃあみんな、ネビット相手にやってみろ」


 他のみんながネビットを見つけて魔法を放つ。

 俺も一匹のネビットに狙いを定めた。


「ヂヂッ」

「いくぞー! 必殺! “ボルカニックエクスプロージョン”!」


 またしても小さな炎しか出なかったら恥ずかしいので、今回はポーズはなし。

 必殺技名だけを叫び、魔素を集めるイメージ。

 テレビの中のマホレッドは、敵の立っているところに炎の柱みたいなのを出現させて爆発させていた。

 俺もそれがやりたい。


(レッドに、なりたい)


 そう思った瞬間、手のひらに集まっていた魔素を感じなくなったかと思うと、俺の視線の先にいたネビットを囲むように四本の火柱が出現した。

 火柱はネビットを追い詰めるようにどんどんと近付いていき、ネビットを巻き込んで小規模な爆発を起こした。


 小規模とはいえ衝撃はそれなりで、まさか出来ると思っていなかった俺は力が抜けていたのも相まって尻餅を付いた。

 少し離れたところにいたネビットは、跡形もなく消滅している。


「で、きた」

「ずいぶん必殺技らしくなったじゃないか」

「先生のおかげです!」

「最初の授業やって今日までにこれだけ出来るようになってるなら、俺なんかすぐに追い抜くな」

「がんばります!」


 ネビットを一発で倒せた俺は、学院に帰ってきてから嬉々としてみんなに報告にいくのだった。

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