第14話 初めての授業

 衣裳の出来上がりをソワソワして待ちながら、初めての授業である。

 こっちはこっちでワクワクが止まらない。


 しかも、一番最初の授業が属性魔法の授業なのだ。

 元々は、一般教養がそれなりに身に付いてから属性魔法の授業をしていたらしいのだが、そうすることで生徒のやる気の減少が凄まじく、ある時から魔法の授業を先にすることになったそうだ。

 気持ちはすごくよく分かる。


 とはいえ、最初から実践ではなく教室での授業だ。

 シュルツたちと別れ、炎属性の教室に入る。

 もうすぐ授業の始まる時間だというのに、教室の中には俺を含めて十人くらいしかいない。


「あれ? 筆記テストの時はもっといたような……」

「筆記テストの時は、熱属性とかの人たちも一緒にやっていたからね」


 俺の独り言見たいな呟きに、入口近くの机に座っていた人が答えてくれる。

 メガネをかけて、パリッとしたシャツを身に付けた、いかにも頭が良さそうな人だ。


「僕はウェリン、よろしく」

「俺はカイル! ありがとな!」


 ウェリンの隣の席が空いていたので、そこに座ったところでローブ姿の先生が教室に入ってきた。

 俺の必殺技に爆笑していた試験官の人だった。

 試験官をしていた時は撫で付けてセットされていたオレンジ色の髪が下ろされていて、パッと見は別の人かと思ったけど、顔立ちで分かる。


「はーい、よろしく。俺はアシーフ。炎属性の魔法使いだ。君たちの炎は入学テストの時に一度見せてもらったが、なかなかだったぞ。俺は、入学式の時に使った部屋を炎の海にするくらいの魔法しか使えないから、君たちが俺を追い抜くのを楽しみに待ってるぞ」


 あの部屋を火の海に?

 充分すごいと思うんだけど、そんなことはないんだろうか。

 ウェリンの方を見ると、「すごいことだよ」と言っていた。

 やっぱり!


「せんせー! 先生くらいになったらネビットなんて一発で消えちゃいますか?」

「ん? あー、君か。相変わらず元気だなー。ネビットなら一瞬で消せるぞ。むしろ手加減が難しくて、肉として納品したい友人たちにお前は手を出すなと言われたな」

「おおお、すげー」

「ネビットの話をするってことは、もうダンジョンに行ったのか?」

「あ、友達とちょっとだけ行きました。ネビットとしか会ってないです」

「他に、ダンジョンに行ったやつは?」


 振り返って見ると、ほとんどの人が手を挙げていた。

 修練の森には十種類の魔物が出るらしいのだが、一番進んだ人でも三種類の魔物に合ったところで止めたようだった。

 みんな俺みたいに、目の前で魔物が燃えていくのが結構キツかったみたい。


「そうだなー、炎は大きいものが出せるようになるまで小動物っぽい魔物を倒すのは精神的にキツいかもな。大型の魔物になると、多分めちゃくちゃ必死になるからそれどころじゃなくなって、気付いた頃にはその辺の感覚が麻痺してると思うぞ。まぁ、魔物を倒して生活するようになるならって話だが」


 別に魔法学院に通ったからといって、戦うような職に就かなくてはいけない訳ではない。

 料理人になったっていいし、実家に帰ったっていい。

 ただ、授業の中で貯蓄できる魔素量を増やす訓練をするから、戦わない場合はその分しっかりと毎日魔素を消費しないと、暴発した時の被害が大きくなってしまうのだそうだ。


「魔法の授業を三回受けるまでは、入学を取り消せる。入学金も戻るから、まぁ、教科書代はかかっちゃうけどな。でも引き返すこともまだできる。次回の授業では俺の引率でダンジョンに行くから、そこで魔物に攻撃してみて、考えてもいい。他の属性に比べて、炎はキツいんだ、色々。覚悟ができてるなら、それでいい。後悔しないように、きちんと考えて答えを出してくれ。君たちはもう、大人だから」


 教室内が静まり返る。

 先生はにっこり笑って、パンと手を叩いた。


「はい、真剣モードはここまで! 次回のダンジョン授業に向けて、みんなには一つ魔法の威力を上げるコツを教えてあげよう」


 俺は少し前のめりになった。

 室内の空気もやや緩む。


「それは、想像力だ」

「想像力?」

「そう。魔法は全て、魔法使いの想像力にかかってる。昔は呪文があったんだ、この呪文を唱えたら、この魔法が出るっていうやつな。でも、その呪文によって魔法使いの限界が生まれてしまった。本来ならもっと力を出せるが、新たな呪文を生み出すまでの熱意はない魔法使いたちが大量に出たんだ。その時々、天才と呼ばれる魔法使いたちが新たな威力の高い呪文を生み出す度、その限界値が引き上げられるだけ。それで、呪文が廃止された。その頃には無詠唱魔法なんてのも流行っていたらしく、呪文の廃止には大した反対はなかったみたいんだな。むしろ、呪文がなくなったことによって世界中の魔法使いが強くなった。自分の中から、どれだけの大きさの炎が、どれだけの時間放出されるか、そういう想像力を磨くんだ。もちろん、自分の魔素量も理解しとかなきゃダメだが」


(想像力、それなら俺、かなり得意分野な気がする)


 入学テストの時も、しっかりマジレッドの必殺技シーンを思い浮かべていたはずなのだが、小さな火の玉しか出なかったのは魔素量のせいだったのだろうか。


「成人の儀を終えたばかりの君たちは、まだ体内に蓄積された魔素量が少ない。だからいくら想像力だけ磨いても意味がない。魔素量を上げる方法も教えるから、器と相談して訓練しなさい」


 それから、全員の魔素の器を測定した。

 器も訓練で大きくすることができ、その分だけ当然溜め込めて放出できる魔素量も増えることになる。

 一度器の大きさを実感すると、常に自分の中にどれだけ魔素が溜まっているのかが分かるようになった。

 器を知らずとも限界近くまでくれば分かるらしいが、魔法使いとしてやっていくなら器を知らねばお話にならない、ということのようだ。


 俺は教わった蓄積魔素量を増やす方法を毎日の日課に追加した。

 器を大きくする訓練も、教わったら日課入りさせよう。


 必殺技が打てるように頑張るぞ〜。

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