第13話 衣裳デザイン

 ミュリエラとコーエリンは衣裳の話を詰めるそうで、その間、俺たちの採寸が行われることになった。

 ミュリエラは全身のサイズを把握しているらしい、すごい。


 俺たちはメイドさんたちに別室に案内された。

 その部屋も壁紙から絨毯からシャンデリアから一目見てお金がかかっていると分かる代物で、エヴァンスの目なんてもう完全に金貨になっている。

 細かな装飾が施された丸テーブルの上には果物やクッキーなんかがたくさん置かれていた。


「お一人ずつ採寸致しますので、お待ちの間はお茶をどうぞ」


 そう言ってメイドさんがお茶を淹れてくれる。

 紅茶みたいないい匂いがした。

 オリバーが寝てしまう前に採寸してしまうべきだということで、最初はオリバー。

 真っ直ぐ立っていられるのか疑問だったが、執事さん?お手伝いさん?がしっかりと支えて立たせておくみたいだった。


「うま!」

「こんな雑味のないお茶、飲んだことねぇよ……茶葉だけでいくらするか。っていうかこの茶器も……頭が破裂しそうだ」

「そんなにすごいのか……」


 シュルツはマスカットみたいな果物が気に入ったらしく、房ごと手に持って一粒一粒もぐもぐと食べている。

 俺も同じやつを食べてみたけど、ちょっと酸っぱかった。

 隣にあった薄ピンクのマスカットみたいなやつの方が、甘くて好きだ。


 オリバーが帰ってきたので、俺の番。

 頭の大きさから何から全部測られる。

 メジャーを持ったメイドさんたちがサイズを口にし、メモするメイドさんが嘆息する。


「みなさま、抜群のスタイルでございますね」

「そうですか? 嬉しいなー」


 シュルツの横に立ってると、自分の足が短い気持ちになるんだよね。

 俺もちゃんとスタイルがいいらしい。


 全員の採寸が終わってミュリエラたちのいる部屋に戻ると、床やらテーブル上に大量の紙が散らばっている。

 そのどれにも絵が描かれているようだ。 

 紙も貴重だって聞いたけど、さすがお金持ち。


「おかえり〜、めっちゃいい案が完成したよ!」

「さぁ、あなたたちの意見も聞かせてちょうだい、これよ!」


 コーエリンが俺たちの前に五枚の紙を見せてくる。


「お、おおおお!!!」


 なんとそこには、ヒーロースーツが描かれていた。

 スカーフとか腰布とか、そういう装飾は付いているものの、ほとんど完璧に俺の思い描いたヒーロースーツである。


「流行は作り出すものだってコーエリンが言うからさぁ〜」

「あなたたちの肉体だって完璧なんだから、その線がくっきり分かる衣裳なんていいじゃない。顔が隠れちゃうのはちょっともったいないんだけど、普段とのギャップを出すっていうのもアリと言えばアリだしね」


 するとエヴァンスが一歩進み出た。

 デザイン画とコーエリンを交互に見て、真剣な表情である。


「なぁ、この頭の部分って、服飾扱いなのか? 防具ではなく?」

「あぁ、それはアタシの知り合いの鍛冶屋に防具として作ってもらおうとしてたんだけど」

「その鍛冶屋、防具専門か? 腕は?」

「なんでも作ってるわね、とにかく金属素材を叩くのが好きな人なのよ。腕はいいから安心して?」

「そうか。そいつが卸してる武器屋とか防具屋、どこだか分かるか?」

「確か……コランダ武具店と、ジュリラヤ防具店だったと思うわ」

「ありがとう、鍛冶屋と会って話がしたいんだが、発注の時に一緒に行ってもいいか?」

「えぇ、いいわよ」

「ミュリエラ、お前アクセサリーとか武器、防具のデザインもするか? できれば俺たちだけが身に付けているっていう特別感が欲しいんだ」

「あ、ボク、エヴァンスがやりたいこと分かったかも。そういうことならボクがやるしかないよねぇ〜。リンちゃんも手伝ってよ、ボクたちで流行を作るんだ!」


 リンちゃん。

 そう呼ばれたコーエリンは嬉しそうに頷く。

 結局、みんなで豪勢な夕食を食べながらヒーローメットと武器や防具のデザインについて意見を交換し合うことになった。


「こ、こんなのご馳走になっていいのか……?」

「もちろんよ、どんどん食べてちょうだい」

「俺たち、マナーなんて知らないんですが」


 シュルツがそう言って、俺はハッとする。

 確かに、たくさん並んでいるナイフもフォークも、使い方とか使う順番とかがあるんだとしたら何も分からない。


「大丈夫よ。それに貴方たちも学院に入学したのでしょう? 選択授業にマナーの授業もあるはずですよ。気になるのなら受けてみたらいいわ」

「そういう授業もあるんですね、検討してみます」

「取っといた方がいいぞ、何かと重宝するからな」


 そう言うエヴァンスは、慣れた手付きでナイフとフォークを使い、綺麗に料理を食べていた。

 手掴みで肉を食べていた姿とは全然違う様子に思わずまじまじと見つめてしまう。


「礼儀正しい方が好感度が上がるなと思ったらそうするって話だよ、俺はな」

「なるほど」


 防具は篭手とすね当て、魔素の自然回復量を増加させる効果のあるアクセサリーを付けるのはどうかという話になった。

 ただ、それをするにはお金が足りないということで、当面の間はコーエリンが作ってくれるコスチュームだけで活動することにする。


「お金ならアタシが出してあげるのに」

「いずれ出資者を募るよ」

「あら、それは名案ねっ」


 コスチュームが出来上がったら、あとは変身の方法をどうにかするだけか。

 別々の映像を組み合わせて一本の映像にすることは出来るんだろうか。

 もしくは、何かの魔法で一瞬で着替える?


「雷の魔法で目潰しとか出来ないの? 眩しくしてさ、その間にめっちゃ早く着替えるとか!」

「あー、出来ると思うわ」

「早着替えね! そういう仕組みも大好きよ、燃えてきたわ……!」


 もし映像ではどうしようもできなくても、何とかなりそうだ。

 マホレンジャーのデビューが着々と近付いてくることにテンションが上がる。

 もうすぐマホレッドになれるのだ!

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