第12話 入学式

 魔術学院の入学式。

 学院の中の一番大きいらしい部屋に新入生が全員揃い、サンタさんみたいなヒゲを蓄えた学院長がお祝いの言葉を送ってくれる。

 学校に通うのは初めてだから、すごく嬉しい。


 入学式の時点ではクラス分けなんかはされてなかったから、みんな適当に固まって話を聞いている。

 それなりの人数が入学するようだが、マホレンジャーのみんなはやっぱりずば抜けて見た目が良かった。

 女子たちがそわそわとこちらに視線を投げていることが分かる。

 ミュリエラに対しては視線の意味が両極端だ。好意か。敵意か。


 お祝いのキラキラした魔法が放たれて、入学式は終了する。

 広間から出る際に、係の人がクラスを教えてくれた。


「カイルさんは5の組です」

「はい!」


 筆記テストの結果で1から5までに分けられるらしく、俺とシュルツとオリバーは5の組。

 ミュリエラとエヴァンスは1の組だった。


「オリバーは王都の人じゃないの?」

「……王都の人」

「なんで5の組なんだ?」

「寝てたから、かな」

「あ、そうだよね」


 定期的に行われる小テストの結果で組み分けは頻繁に変わるらしいから、きっとシュルツはすぐに1に行きそうだな。


 一般教養の授業はその組み分けで行われるが、実技の授業はそれぞれの属性ごとに行われる。

 俺たちは自分に適性のある魔法しか使えないから。


 初日は学院内部の案内で終了した。

 机がずらりと並んだ教室、魔法の練習場、魔法植物園、魔法動物の飼育室、巨大な図書館などなど。

 常に繋がっている通路もあれば、行き先を告げて初めて繋がる通路もあったりして、油断すると迷子になってしまいそうだ。


「一人で歩き回るなよ。迷子になるからな」

「う、今そう思ってたとこ。地図あるかな」

「防犯上地図はないらしい。だからしばらくは俺から離れるな」

「分かった」


 こっちを見てきゃあきゃあ言っている女生徒が数人いる。

 さすがシュルツだな。

 村にいるときから絶対にモテると思ってたけど、やっぱりだ。


 案内が終了し、みんなで帰ろうと思ってミュリエラたちを待っていると、なにやら騒がしい。

 何事かと思ってそっちを見れば、まさかのミュリエラたちだった。

 ミュリエラの足元に散らばっている数枚の紙を、一人の生徒がとんでもない勢いでかき集めて舐めるように読んでいるのだ。


 それだけならまだそんなに騒ぎにもならないだろうが、注目すべきはその生徒の見た目だった。


「あの人、ミュリエラのお友達かな」


 彼と呼べばいいのか、彼女と呼べばいいのか。

 めちゃくちゃムキムキなんだけど、まつ毛はすごい濃くて長いし、口紅も塗っている。

 顔立ちはハッキリしていてカッコいいけど、綺麗でもあって、なんというか性別を超えている感じがした。


「ミュリエラの反応を見るに、違うようだな」


 確かに、ミュリエラの顔は引き攣っている。

 あ、すごい勢いで手を握られてる。そしてぶんぶんと振られている。

 エヴァンスに助けを求めようと振り返ったとき、こっちに気付いた。


「カイル! ちょっと来て!」


 呼ばれてしまっては仕方ない。

 俺たちはミュリエラの方へ向かった。

 オリバーは立ったまま寝ていて、手を引っ張るととことこと歩いてはくれる。器用。


「ボクの考えた衣裳の絵を見てさ、この人がどうしても自分に作らせてほしいっていうんだよ」

「あ、散らばってた紙は衣裳案だったんだ」

「これ! 最高よ! しかも何? あなたたちが着るの? ちょっとちょっと、そんなのそこら辺の針子に任せるなんてダメよ!」

「ヒエッ」


 遠くから見ても強かったのに、間近で見るとますます迫力が。

 圧がすごい。


「あの、あなたは?」

「あら! ごめんなさいアタシったら自己紹介もせずに。アタシはコーエリン、ここの三年生よ」


 コーエリンは俺たちに深々と礼をして、最後に華麗にウインクをした。

 エヴァンスの口から変な声が漏れ出る。隠しなよ。

 しかも歳上だし。


「アタシ、裁縫が趣味なの。趣味って言っても、お店に卸して販売してもらってるくらいの腕前よ。あ、そうだ、あなたたちもう案内は終わったのよね? アタシの服、見にきてちょうだい!」


 あれよあれよという間に、コーエリンさんのご自宅訪問である。

 コーエリンさんは王都に昔から住んでいるお家柄らしく、学院から王城の方にしばらく行った場所にある立派なお屋敷に住んでいた。

 学院との行き来は、俺たちも乗せてもらったのだが、専用の馬車を使っていた。

 お金持ちってすごい。


「まぁ! あなた! あなた!! コーエリンがお友達を連れてきたわ、しかも五人も!!!!!」

「なんだって!? ああ、今日はなんて素晴らしい日なんだ! ようこそ我がフォルシュリッツ家へ! 夕食を食べていかれるといい、是非とも!」

「いやだわ二人とも、恥ずかしいじゃない」


(友達、いなかったんだね)


 少しの親近感と、歓迎ムードがとんでもないご両親の圧によって良く分からない感情になりながら、コーエリンに案内されて屋敷の一室へと足を踏み入れた。


「うわぁ……!」

「えええええすごい……すっごい……! かっわいーい!」


 開かれた扉の先には、白やピンクや薄い黄色やのフリルが大量にあしらわれた女性ものの洋服が大量に並んでいた。

 魔法少女のコスチュームみたいで、すごい可愛い。

 お姫様みたいなのもある。

 部屋の隅には男性用の服も数点飾られており、こっちはこっちですごかった。


「シュルツ、あれ着てみてよ! 絶対似合うじゃん」

「お前に似合いそうなのもあるぞ、あの派手な色の。お前とエヴァンスで着たらいい感じじゃないか」

「これ、生地にいくらかかってんだよ……ボタンも……うわ……」

「興味を持ってもらえて嬉しいわ! アタシの腕は分かってもらえた? あなたたちの服、作ってもいい?」


 俺たちは顔を見合わせ、それから頷いた。


「お願いします!」

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