第9話 耳
オーディブル、である。
入ったはいいけれど、忙しかったこともあり、しばらくは見も聞きもしないで放置プレー。そうした所、またまたしつこく「見てよ、聞いてよ」とぐいぐいくる。ようやく一段落付いたところで、はいはい、と重い腰を上げた。
オーディブルとは、言ってみれば、音版の書店。初めて覗くその店頭に気になっていたタイトルがいくつか並んでいたので、早速自分の本棚に入れてみた。
問題はここから。
さて、読むならいつがいい?
色々と考えてみたけれど、これ、と膝を打つようなシチュエーションが思いつかない。だって仮にも読書、いや違った、聞書? である。他で頭を使っている時には聞けない。
ということは、聞くことに専念するか、ながらでも大丈夫なことをしている時に聞くかの二択になる。専念するなら自分のわがままペース(※1)で読める目からの方を優先したい私としては、ながらメインで考えることになる。
一番最初に浮かんだのが料理中。でも、だいたいがテレビニュースを流しているのと、あんまり集中して聞いてしまうとケガをしそうな気がするのとで、試す気になれない。自転車や車の運転中はもってのほか、掃除機がけだとそれこそ音が聞き取れない。
ということで、まずは入浴中に試すことにした。元々お風呂で本を読むのが好きなのだ。
これがあんまりしっくりこなかった。そもそもお風呂に電子端末を持ち込むのが落ち着かない。濡れた手で触るわけにもいかず、都度都度、手を拭いてジップロックを開けたり閉めたりしなくてはならないのも面倒だ。これが紙の書籍ならタオルにくるむだけで済むのだもの。どっちがラクかと言ったら、ねえ?
次に試したのが寝る前。これはいいかな、と思ったのだけれど、やっぱりよろしくない。というのも、眠くなった時、止めるタイミングを図るのが難しい。うっかり寝落ちした時にはどこまで話を聞いていたか探すのも難しそう。本なら栞を挟んで閉じるだけ、寝落ちして落としてもばさっというくらい、どこまで読んだかも割とすぐに見つけられる。こちらも私的には紙の勝利(※2)。
ふたつ試した時点で、あんまり私には合わないのかなー、と思っていた矢先。もっと重要な現実の課題に引き戻されることになった。
……そう。
今は~、もう秋~♪ どころじゃない、11月。今年も残り2ヶ月を切ってしまった。
ということは?
台所、風呂場の掃除、溜めに溜め込んだ片付け物や書類の山、手入れや修理しないといけない細々とした物たち……。いい加減にほったらかしていた家事のあれこれが、私を一斉に責め立ててくる。
「こんな状況のまま年を越すつもり?」と。
仕方ない。
少しばかり暖かい日、早速、腕まくりして掃除&片付けを開始することに。
その相棒としてオーディブルを採用してみようと思いつく。ちょっと一挙両得感? いや、違うか。
ところがこれが試してみると悪くない。水を流したりゴシゴシとこすったりした時にその音でかき消されないようボリュームを大きめにしていたので、音がしない時に多少うるさく感じるのが気になるくらいで、後は無心に手を動かしながら話に没入できた。
しかも、本にはそれぞれ所要時間が書かれているので、費やしたい時間に合わせて選ぶこともできる。例えば、2時間掃除をするつもりなら、それと同じくらいの長さの本を選ぶとタイマー代わりにもなるって訳だ。もちろんそんなことをしなくても、途中で止めてブックマークしたって構わない。ただ、「この本を読み終わるまでに片付けるぞ!」というのはひとつのモチベーションとなって割と手が動いた部分はあったので、この使い方は悪くないと思った。
そんなこんなで、やっとオーディブルの私にとってのいい使い方が見つかったのだけれど。この使い方、やけに心のツボを突いてくる……。
というのも、この所要時間、ってやつが曲者で。
溜め込んでいたタスク量=所要時間=オーディブル積ん読山
サボっていたタスクが『本』という可視化できる形を取って私を責めてくるような気がしたのだ。
これは全くの言いがかり、被害妄想みたいなものだと自分でも分かっている。だってふつうの読書ならそもそも『ながら仕事』なんてできない。頭を使わない仕事とは言え、本を読み(聞き)ながらタスク処理できるのは、ありがたいはずなのだ。それを素直にそうと思えないどころかめげるのはなぜだろう。
ついでに言うと、リアル積ん読山なんてそりゃもうもっと酷い。あちこちに山脈まで形成しているのに、それを目にしてめげるどころか日夜新たな山脈作りに勤しむ体たらく。そんなやつが何を今更オーディブルのエア山くらいでめげるのだ。
とまあ、相変わらず役にも立たないことをぐじゃぐじゃ考えているヒマがあったら、とっととオーディブルを使いながら働け、という話である。じゃないと本当にあっという間に年末、ということになりかねない。
溜め込んだあれこれを片付ける間に、どれだけの本を聞くことができるか。楽しみのような、情けないような、今はそんなとほほ気分でオーディブルの本棚の中身をせっせと増やしている。
📖 📖 📖 📖
オーディブルを眺めていたら、いくつか気が付いたことや気になったことがありました。中でも一番気になったのは、『著者本人朗読の作品』というコレクション。一体どんな作者さまがどんな自作を読んでいるのだろう? と覗いた所、中に、紗倉まなさんと石田衣良さんの名前を発見。
あれ? このおふたりって……?
そうです、カクヨムで今年、珍しく私も参加した自主企画を主催した方たちでした。それも、どちらも色っぽい感じのタイトルです。『働くおっぱい』と『娼年』。
ということは、これ、どんな感じで読まれてるんだろう? と余計に気になる気になる。でも、このおふたりの話を聞きながら作業している所、ひとにはあまり見せられないというか聞かせられないというか。だからと言ってわざわざイヤホンして聞くのも何だしなあ。あ、それとも、その方が色っぽい体験ができていいのかな?
個人的にはこの『著者本人朗読の作品』の中で一番興味を惹かれたのが、『ROLAND/俺か、俺以外か。』
元気が出て、諸々はかどりそうな気がしたんです。お尻を引っ叩く必要が出来た時の隠し玉として本棚に入れておこうかな?
ちなみに、
これが有料だったら?
そりゃもうお察しの通り、『むにゃむにゃもにょもにょ』ってやつです。ええ。
あとは無料期限だけ忘れずに確認しておかないと。そしてそれまでに諸々片付けるつもりで、腕まくり、ならぬ耳まくり。
……とまあ、ここまで書いておいて、それでようやく気がつく私の愚かさよ!!
オーディブルを使うのに一番ぴったりな機会を忘れているではないか(汗)
そうです、ランニングです。
走りながら読書、なんでこの最適解を忘れるかなあ?
ってそりゃ私が走るのをずっとサボってたからですね。はい。おかげで秋前に少しばかりすっきりしたからだがすっかりリバウンド。どころか、さらに……。要は溜め込んでいたのは本と片付け物だけではない、ってことでして。
ということで、食欲の秋経由年末年始の暴飲暴食? に備えて、今からエア積ん読と脂肪の解消してきます💨💨
何せ今夜は皆既月食、貴重な天体ショーを見上げながら走れば一石三鳥以上。ついでに贅肉全部月食効果で消えないかなあ。なんて。
もしも、あんまり見かけないなー? と思ったら、それはきっと耳学問ならぬ耳読書ついでに片付けと走るのに勤しんでいると思ってくださいませ。
※1 再生速度は0.5~3.5倍の間で変更できます。私は1.35倍で聞いています。ちなみに私の周囲には、アマプラのアニメや映画、録画した地上波テレビドラマなどを倍速再生するような人間が片手以上の数、存在しています。
※2 「スリープタイマー」というのがありまして、自動ストップする時間を自由に設定できます。予め入力されている数字(例えば10分とか30分とか)から選ぶこともできますし、自分の好みで細かく設定することもできます。「章の終わり」なんて設定もあります。なので、寝落ちしそうな時はこれを使うのがお勧めです。
結論 オーディブル、試す価値は十分にあると思います。特に年末に向けてのこの時期には。
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