第8話 余計なお世話


ある日のことだ。

風呂に入ったら、リモコンパネルのデジタル数字が「8 88」になっていた。本来なら現在時刻が表示されているはずの場所である。風呂から上がった後、台所のメインリモコンを適当にいじってみたのだが、元に戻らない。

「もう。誰? 変なことしたのは」

心の中で悪態を付きつつ、取扱説明書(以下、取説)を見て直すのは翌日回しにした。


次の朝。

取説を持ってきて、エラー表示一覧を見てみると。

「ご使用頂いてから十年が経ちますので、一度点検()をお願いします。ご連絡先はこちら」

という文章と共に、フリーダイヤルの番号が書かれていた。家族を尋問しなくて良かった、と安堵のため息をひとつ、つく。

が、しかし、すぐに正気に戻る。

何よ、コレ! ってことはとにかく電話しないと元に戻せない、ってこと!? 現状どこも壊れてないんだし、そもそも給湯器なんてものは壊れたら即、修理ないし買い換えなければ困るものだから、わざわざこんな余計なことしなくていいのに。しかも有料ってどういうことよ(汗)


うんざりしながら表記されている番号を即プッシュ。すぐにつながったので、こちらも電話することになった理由をさっさと説明する。と共に、追加情報も伝えた。

たしかに今の給湯器を使い始めて十年になるが、途中で訳あって一度、点検してもらっている。なので今回の点検は不要ではないか、と。

電話口の男性が「なるほど」と相槌を打ちながら、「ただ、」と続けた。


「その時の点検項目と今回のものは違いますので、本来ならやはり点検を受けて頂きたいのです。でも、仰ることも分かりますので、解除方法をお伝えしますね。

解除方法はふたつありまして、ひとつは点検を受けること(それはもうよく分かりましたから、そしてもう結構ですから)、もうひとつは『むにゃむにゃもにょもにょ』(他のひとに教えないでくださいと言われたので、ここは敢えて伏せ字に)してください」


言われた通りに『むにゃむにゃもにょもにょ』すると、あーら不思議。さっきまで「8 88」だった数字が、一瞬で現在時刻に変わっているではないか。てっきり時刻合わせからし直さなければいけないのだろうと思っていただけに、手品みたいな戻りっぷりに拍子抜けした。


ただ、この手品、但し書きが添えられている。

「(点検を受けないと)1年後にまた同じことが起きます」と言われたのだ。

要は、手品には有効期限があって、それが1年、ということらしい。何だか昔話とかファンタジーみたいな設定じゃないの。

だがしかし、一度タネ明かしを聞いてしまえばこっちのものである。1年後、同じ手順を繰り返せばいいだけでしょ。チョロいチョロい。

1年後の自分が慌てなくて済むよう、説明を聞きながら取説に手順をしっかりと書き込んでおいた。何だかコレでバカバカしい異世界ループ物短編でも書けそうだなー、と思いつつ。





元に戻った数字を眺めていたら、ああ、そう言えば同じような話があったなー、と思い出した。

去年、手紙が届いていたのだ。食洗機メーカーから。

こちら、ご丁寧なことに封書である。

届いた時に一応、開封して斜め読みしていた。

内容は「お使い頂いてから十年になるので一度、点検してください」。

ただ、今まで一度も不都合も何も起きていないので、斜め読みしたままうっちゃってあった。そうして今の今まですっかり忘れていたのである。

あー、もしかして、こっちもそのうち給湯器みたいな脅しをかけてきたりはしないよね? 急に不安に襲われた。


不安はビミョーに当たった。

ある日、気が付いたのである。

食洗機のパネル前面部分で、使う度、何かが赤く光っていることに。

恐る恐る覗き込む。何せ老眼の身、小さい文字などはてんで見えない。ので、メガネを外して顔を近付けてよく見てみると。

「点検」の2文字が赤く点滅を繰り返していたのだった。

もちろん、そんなボタンはない。通常の「電源 入/切」のボタンの上に、使用中だけ「点検」の2文字が被さるようにして点滅しているのである。隠しコマンドでもあるまいし、ほんと余計なお世話、勘弁してほしい。

でも、これくらいで済んでて良かった。

ホッと一息つく。ついてからの、


慌てて送られてきた封書を探す

見つけて中を確認する

読んで慌てる。あれ?


だってこちらの手紙、文言厳しめ、なんだもの。





手紙によると、食洗機ってやつはですね、


「消費生活用製品安全法(消安法)における特定保守製品に指定されており、製品に表示している点検期間内に点検を行うことが求められている」


んだそうな。どうやらこれを「点検」と呼ぶらしい。消安法という令でめられている分だけ、文言厳しめ、になってるみたい。

しかも、手紙の一番最後あたりで、


「経年劣化による重大事故を防止するため、点検期間を過ぎたご使用での整備・修理はお断りする場合がございます」


とやんわりとだけれど脅してきているではないか。

そして当然のように、太字かつ赤文字で「点検はとなります」と書かれている……。

手紙の2枚目は表になっていて、製品名、費用とその内訳、所要時間の目安など。ちらっと見ただけでもううんざり。胸も懐も痛い。

ついでに言うと、点検期間は2年あるのだけれど、同封されていた点検センター宛の申し込みハガキの切手不要期間を念の為、確認してみたところ、なんと1年分しかカバーしていなかった。ということは、「切手代払いたくないなら、とっとと点検申し込めや!」と言うことなのだろうか。ケチ。大手電機メーカーなのに。

あ、でも、フリーダイヤルでも申し込めるので、ハガキを使うひとは限りなく少なさそうではある。

ちなみに、既に買い換えていたり、買い換え予定だったり、使っていないなどの理由で「点検を申し込みません」という選択肢もハガキには書かれている。そういうひとは、わざわざこのハガキ出さないと思うけど、ってそれこそ「余計なお世話」ですか?








そんな訳で? バタバタしているうちに9月が終わっていました……。

一体、何をやっていたんだろう? と我ながら情けなくなるくらい、予定していたことが未消化だった9月。あまりにもあんまりで、ビミョーに凹んでいます。

こんなんでいいのか私。いや、いかんだろ。だってもう今年も残り100日切ってるんだぞ? ほんとマジで色々ヤバいと頭を抱える10月頭の私なのでした。

ということで、食洗機の点検もまだ申し込んでいません……。







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