第17話 悪夢?
長閑は守衛室を横切り、ビルの外に出て星空が煌めく暗闇の空を見上げていた。
(タエちゃんの境遇ってやっぱちょっと可哀想だな……)
そんな風に考えながらも、自分と瑠璃、ひいてはタエとその家族の為にも出来うることをやって行こうと奮起し、長閑は久慈の待つ駐車場へと足を向けた。
車中、久慈がふとした話題を口にする。
「タエちゃんはお洒落とかに興味ないんだよね? 勿体無いよ? 凄く可愛いのに」
唐突に久慈が話した言葉を心の中で復唱してみる。
(お洒落に興味ない、めちゃくちゃ可愛い……)
確かに身なり、この場合、髪型やメガネを指してのことだが、それがタエの美麗な部分を邪魔しているのも事実。
そもそも一度タエの顔を鏡で見て以来、その顔を見ていないが……。
(まぁ、あの姉妹達の親の血が半分でも通っているのだから、素材は確実に悪いわけではないはず)
長閑はそんなことを考えながら、明日は学校へ行き、それからのタエの人生を良い方に大きく修正しながら、自身の心の強さや環境を変えて行くことを想い目を閉じていた。
そこから久慈の運転するオンボロ車に身を委ねていつの間にか眠っていたのだった。
「誰だ……」
暗闇に浮かぶ自身の体。それは元の河辺長閑の体。
「こ、これは……夢?」
今その状態にある長閑の眼前に、病院の鏡で見た少女、タエの姿があった。
「初めまして……」
その声は生身の人間が呟いたようにリアルな響きを持って長閑の耳に届く。
「は、初めまして……」
しばしの沈黙の後、目の前の少女タエが意を決っしたように口を開く。
「このまま私になって生きて行くのですか? 戻りたいんですよね? 私のままで居れば居るほど元に戻りづらくなりますよ……それでもあなたは……」
タエの表情が固くなり、目を閉じる。すると、暗闇に裂け目が現れ始め、その裂け目から声が漏れ聴こえてきた。
『タ、ちゃん! タエちゃん……タエちゃん!』
目を開けると、久慈の顔が目の前にあった。
「あ、久慈さん……すみません、俺……寝てしまってたんですね……」
と言って、俺と発言した自分に気づく。
「あ、いやあの……」
そんな風に言ってあたふたする自分を見る久慈は安堵した表情であるものの、長閑の失言に気が付いていないようであった。
「大丈夫? 何かすごくうなされてたんで……信号待ちの間に慌てて起こしたんだけど……もうちょっとで家に着くよ」
「あ、はい……ありがとう」
タエの言葉を聞いて、噛みしめるように笑顔で口を引き結び、久慈は前を向いて運転を続けた。
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