第1章 覚醒の前兆は”魔獣”とともに

第8話 新米姉の魔法教室(よくある設定紹介の回です)

 由紀ちゃんと私が武双姉妹コユニゲース契約を結んだ翌日。私は由紀ちゃんの教室に訪れていた。

 他の生徒は外で自分の武双姉妹コユニゲースと訓練しているようで、教室には私と緑先生しかいない。私達も外や訓練場でやるのが普通なんだけれど、まず由紀ちゃんには魔法の理論を説明しといた方がいい気がして教室に残ってもらった。それでもやっぱり一人で教えるのはプレッシャーがあるので緑先生にも同席してもらった。


 席に着いた由紀ちゃんと緑先生を前に、私1人で教壇に立つ。少し緊張する……というかなんで緑先生も生徒の席に着いてるんですかね。まあ、いいんだけど。


「魔法なんてとにかく実践あるのみ、みたいな脳筋もいるんだけど、私はある程度理屈を詰めたい派だから、少し勉強っぽくなるかもしれないけど許してね。」


「落ちこぼれに優等生が脳筋よわばりされる学校って……。」


 緑先生がなんか言ってるけれどまあこれも無視しよう。


 そして由紀ちゃんの方に目を移すと、由紀ちゃんは緊張のためかガチガチに固まっていた。少しでも緊張をほぐしたいな、と思って


「別に私は由紀ちゃんに対して成果を求めたりするつもりはないから、まあこれからの話も気楽に聞いてほしいかな。私達って姉妹なんだし。」


と声をかけると、その気持ちが伝わったのか、少しだけ由紀ちゃんの表情が緩んだような気がした。それを見て私も少しだけ嬉しくなる。


「確認したいんだけど、由紀ちゃんが魔法を発現してからまだ1年くらいしかたってないんだっけ?」


「は、はい。高校受験の年にいきなり発現しちゃって、何が何だかわからないままこの学校に入ってきちゃった、って感じです。」


「そっか。じゃあ猶更焦らないようにいこうか。まず、魔法の構成要件が何かって由紀ちゃんは知ってる?」


「魔力と術式、でしたっけ。」


 由紀ちゃんの答えに私はうなづいて、用意してきた数枚のルーズリーフを取り出す。そこには術式が書かれていた。もちろんこれは私が昨晩大急ぎで書いたもの。


「術式っていうのはもともと魔法少女の頭の中にあって、今も魔法少女が魔法を使うとき、大抵は頭の中に入っている術式を使うんだ。元々はそれぞれの魔法少女が生まれながらにして「知っている」固有魔法と呼ばれる術式の魔法しか、魔法少女は使えなかった。


 でもある時から、単純な「固有魔法」術式は模様として外部化して他の魔法少女と共有できるようになったの。このようにして広く普及したのが「一般魔法」ね。で、紙に書かれた術式に直接魔法の結果をイメージしながら魔力を注ぎ込むと……。」


 私は発火術式の書かれたルーズリーフを1枚、左掌に載せて意識的に魔力を注ぎ込む。するとルーズリーフから10センチほどの炎が上がり、すぐに消える。


「こんな風に魔法が発現する。由紀ちゃんもやってみて。」


 私の言葉に由紀ちゃんはこくんとうなづき、私からルーズリーフを受け取ると意識を集中させるように目を瞑る。


 するとボッと派手な音がして50センチ大の青い炎がルーズリーフ上に現れる。それに対して由紀ちゃんは腰を抜かしてしまってルーズリーフを落としてしまうが


「術式発動:氷結」


と私は詠唱し、床に落下する直前に燃え上がっていたルーズリーフは氷の塊となる。それを見てほっと胸をなでおろす由紀ちゃん。そして私は何事もなかったかのように続ける。


「今ので術式に魔力を流し込む、っていう感覚はわかってくれたんじゃないかな。この感覚が魔法の基本だから覚えておいて。次に実際に頭の中に既にある術式や、本とかで共有されている術式を頭の中に入れて、外部化された術式で魔法を発生させることが必要になってくるんだ。


 外部化された術式なしで魔法を使う練習として、もともと覚えている”はずの”固有魔法を使ってもいいし、一般魔法の術式を新しく覚えてもいいんだけど、今見せたような術式に近い、”覚えた記憶がないのになぜか知っている”文様って由紀ちゃんは何かあったりする?」


 私の問いかけに由紀ちゃんは暫くうなりながら考えていたけれど、結局


「ごめんなさい……。」


と体を縮こまらせて答えた。


「気にするようなことじゃないよ。いきなり固有魔法術式を思い出せ、なんて言われても困るよね。私もそうだからその気持ちはわかる……って、それはどうでも良くて。固有魔法なんて思い出した時に使ってみればいいだけだから、じゃあ先に一般魔法の覚え方とかを教えようかな。」


 そう言って私は一般魔法の資料集を取り出す。ここには80種類ものの一般魔法の術式が書かれている。


「術式の頭の入れ方だけど、結局は漢字の書き取りとかと同じで模様をどれだけ頭の中に正確にイメージできるようになるか、っていうことに尽きるんだよね。だから私なんかはひたすら書き写す練習をして頭に入れることが多いな。由紀ちゃんも自分の方法を探してくれればいいけれど、まずはこの方法を試してみよう。」


「白雪せんせー、ひたすら書いて覚えるっていうのは脳筋じゃないんですかー?」


 緑先生が茶々を入れてくるけれど無視! こんなキャラだったっけ?と思わなくもないけど無視!



「由紀ちゃん、筆記用具とノートを出してもらっていい?」


 私の言葉にノートを開いて鉛筆を握った由紀ちゃんの背後に私は周り、資料集の適当なページを開いて由紀ちゃんの鉛筆を持った右手に自分の手を添える。そして由紀ちゃんの顔のすぐ隣からノートをのぞき込んで


「まずはこの術式が汎用性高いかな。原素系派生魔法の1つ、発火魔法。」


と喋りながら私は由紀ちゃんの手を取ってノートに書き写そうとしたけれど、由紀ちゃんの手は動かない。


 由紀ちゃんの顔を見るとなぜか紅潮していた。そこで私は気づく―――これは踏み込みすぎちゃったアレかな。


 そう思うと私は慌てて由紀ちゃんから離れる。


「ご、ごめん、流石に今のは子ども扱いしすぎだったよね。私、友達すらあんまりいないから後輩との距離感とかよくわからなくて……。」


 平謝りする私に慌てて由紀ちゃんは


「あ、い、いえ、嫌とかそういうんじゃないんです。でもいきなりのことで私も驚いちゃって、それでいて、嬉しすぎて。……お姉様が死ぬ前は、お姉様にこんな風にしてもらうこともよくあったから。子供っぽいですよね。でも、もしお姉様がいいんだったら、せめて最初に一回くらいは手取り教えてほしいかな、なんて……。」


とうるうるした瞳で訴えてくる。


 流石に高校生になってまで文字通り手取り教えるのはやりすぎな気がする。でも、どうせ私は落ちこぼれ。誰かに見られたって失うものなんてないし、今の時間は誰かに見られるようなこともないかな。


 そう結論付けて、私は微笑んで答える。


「由紀ちゃんがそういうなら。―――だって、私達は武双姉妹コユニゲースなんだからね。」




 それから日が暮れるまで、私はずっと由紀ちゃんの一般魔法の書き取りを見ていた。


 最初の数枚は私が手を添えて書いてみたり、私が書いたのをなぞってもらったりしてもらって術式の形を掴んでもらう。そして、ある程度覚えたら書いたものを見ないで意識を集中させて魔法を使えるか試してみる。魔法が成功したら次の一般魔法に移り、まだ覚えられていないようだったらもう少し書き取り練習をする。


 魔力量調節をまだ教えてなかったので度々由紀ちゃんの魔法で大惨事になりかけたけれどその度に私が一般魔法で、そして場合によっては緑先生が物理的に止めて、ということを繰り返していたので、下校時刻になるころには、由紀ちゃん以上に私と緑先生がぐったりとなっていた。でもそのおかげで、由紀ちゃんは発火魔法・水流魔法・浮遊魔法・身体強化魔法を(出力調整を無視したならば)使えるようになっていた。


 帰り際、緑先生にはげんなりとした顔で


「あなた達、明日以降は外でやりなさい。」


とお小言を言われてしまったけれども。




 寮に向かって連れ立って歩く私と由紀ちゃん。


「そういえばいくつか気になっていたことがあるんですけど、聞いてもいいですか?」


「いいよ。」


1類魔法少女ミアとか2類魔法少女デュオとか3類魔法少女トリアって何なんですか?」


「そっか、それも由紀ちゃん知らなかったか。この国の魔法少女の格付けみたいなものだよ。魔力量とか魔法行使技術とか、固有魔法の強力さとかが総合考慮されて、特に優秀な魔法少女が指定されるの。指定される中では3類が一番下で、1類が一番上。1類魔法少女ミアに関しては公国でも10人もいないって言われている。まあ、3類に指定されるものでも大したものだと思うけどね。」


「お姉様は指定されてたりするんですか?」


「まさか。私はただの落ちこぼれだよ。そんなものとは程遠い。―――私が落ちこぼれだって話、してなかったっけ?」


 私の問いに由紀ちゃんは小さくうなづく。


 そっか。その話はまずしとかないといけなかったな。そう思って私が口を開きかけた時だった。


 寮の門が視界に入り、わたしはふうーっ、と長い溜息をついてから言う。


「その話はちょっと長くなるから、また明日、ね。」

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