「最強」に見限られた落ちこぼれの私が、魔法少女偏差値70のゆるふわ少女に「姉妹になってください!」と求婚されたのですが、何かの間違いですよね?〜魔法少女たちの遺した終戦前史〜
第4話 魔法少女偏差値70の少女に求婚された件(←求婚じゃないです)
第4話 魔法少女偏差値70の少女に求婚された件(←求婚じゃないです)
「あー、どうしよー!」
夢川さんから
明日の朝に返答をすると約束して逃げるように帰ってきて以来、私はベッドの上に寝ころびながら、見悶え、悩んでいた。
落ちこぼれの私が姉として
そう言ってたっぷり数十分間1人でうんうんうなっていたが、うまい解決策は出てこなかった。
1人で抱え込むのも限界だな。そう感じた私はごく自然に
「術式発動:友人キャラ召喚。」
と呟いていた。次の瞬間、私の目の前にうんざりしたような表情あかりが土足のままの現れる。
「前も言ったけど、こんな風に人の都合無視して人のこと召喚するのやめない?普通の魔法少女じゃほとんど成功させられない人間転移の魔法があんたには使えることはよくわかったからさ。」
「人の都合って言ったって、どうせあかりだって落ちこぼれなんだから暇でしょ。それに、なんだかんだ言って私の相談事聞いてくれるんだろうし。」
私が期待した視線を送ると、あかりは折れてくれたのかため息交じりにこたえる。
「で、今度は何やらかしたの?」
「それがさあ、魔法少女偏差値70くらいの優良物件が何をとち狂ったのか落ちこぼれの私に
「あ、魔法少女偏差値ってネタまだ生きてたんだ。」
「うん。それがすごくてね。入学時の席次が5位らしいから実力は申し分ないけど、それだけじゃなくて特筆すべきはその容姿よ。小学6年生でもギリ通りそうな小柄な容姿にあどけなさの残った童顔。ヒロイン調としたふわふわした髪の毛。見た目的にも魔法少女偏差値滅茶苦茶高くて、唯一足を引っ張ってる点としては魔法“少女”にしては胸が大きすぎるってことくらいかな。」
「なるほど、白雪は彼女にするなら貧乳じゃなくちゃダメだと。」
「何よ~、彼女にするって。私に彼氏ができないみたいじゃない!」
「はいはい、彼氏にするにしても貧乳がいいってちゃんと覚えておきますよ。で、そんな酔狂な新入生の名前はなんて言うの?」
「夢川由紀さんっていう子。」
「なるほど夢川……って、え?あの夢川由紀?」
由紀ちゃんの名前を出した途端、これまでふざけ半分で私の話を聞き流していたあかりの表情が豹変する。そのあまりの変わりようにこっちまでびっくりさせられる。
「夢川さんか……あの子、体内の魔法内蔵量がえげつなくて、魔法の行使や魔法知識は殆どないのに魔法内蔵量だけで席次5位で入学してきた天然物の天才だよ?よくそんな魔法少女引き当てたわね。」
そう言ってあきれ顔になるあかり。
「で、白雪自身は
「それは……。」
あかりに聞かれて、私ははじめて自分の気持ちを直視していないことに気づいた。解決策を考えることばかりに頭が行っていて、自分がどう思ったのかを考えていなかったことに、ようやく気付かされた。
私は深呼吸してから、静かに語りだす。
「そうだね、正直、嬉しくないと言ったら噓になる。ほら、私、中学2年の時に記憶を失って以来、私と強いかかわりを持とうとしてくれる人が少なかったでしょ。養護教諭の清水先生と風紀委員の半ば白雪係になっている水山さん、そしてあかりの3人ぐらい。だから、他ならない私を選んでくれた、っていうのはすごく嬉しかった。でも。」
そこで私は一呼吸置く。
「それと同時に、私がなっちゃうと夢川さんに迷惑かけちゃうな、って思う。あかりも知っている通り、私、自分が
「そっか。」
そう言うあかりはどこか寂しそうだった。
「実は私、白雪が自分が認められた、って言って喜んでいるのを見て、少し嬉しかったんだよね。白雪が記憶を失って以来、周囲が白雪を腫物のように扱うようになって、それから白雪は人とのかかわり・自己承認欲求に飢えていたことを、傍でずっと白雪を見てきていた私も痛いほどわかってるつもりだから。人とのかかわりに飢えているが故のお節介で、自分のことをほとんど顧みなくなっていたのを知ってるから。だから、私個人としてはめったにない白雪自身を大切にして決断してほしいと思ってた。でも、口にしたことで自分でもどうするべきか、ちゃんとわかったよね。本当に白雪がしたいことは、やっぱり“お節介”なんだよね。だとしたら、その気持ちを正直に伝えるしかなくない?」
諭すように言葉を紡ぐあかり。
「ありがとう、あかり。でも、口で伝える自信ないな……。」
「だったら、手紙を書いてみればいいんじゃない?それだったら、口頭で伝えなくてもいいでしょ。」
あかりのその言葉に、私は夜道が照らされたような気がした。
「ありがとう、あかり。やっぱりあかりに相談してよかった!」
「それはどうも。」
それから、私は夢川さんに対する断りの手紙を書き始めた。何度も何度も表現に迷って、書いては破り捨て、書いては破り捨て、を繰り返し、気づくと……私の意識は眠りに落ちていた。
私が目を覚ますと、カーテンを開けっぱなしになっていた窓からは既に西日が差し込んでいたな。それで私は悟る。手紙を書きながら私は眠りこけて、放課後まで寝ちゃったんだ、と。
流石に朝に学校に行かない時点で夢川さんは断ったって受け取ってくれただろうな。実際に会ったところで断るつもりだったし、口頭でそれを伝えなくてよくなって、逆に良かったかも。
そう思う反面、夢川さんに対して申し訳ない気持ちと、ちょっぴり残念な気持ちもまた、心の中にあった。私が下級生と特別な関係になる。その、ありえたかもしれない世界線が完全になくなってしまったのは、口ではいろいろ言いながら、少しだけ心残りだった。
まあ、今更考えても仕方ないことだ。そんなことを考えるくらいなら、残り少ない今日という日をどう過ごすかについて思いをはせよう。そう思ってドアの方を振り向いた時だった。
そこに立っていた少女を見て私は愕然とする。ふわふわとした桃色の髪。守ってあげたくなる小柄な体。少しあどけなさの残る童顔の顔。それでいて、自信なさげにおどおどしている。まぎれもなく夢川さん本人だった。
「夢川さん、なんで……。」
「ご、ごめんなさい。そ、その、あ、朝、一緒に登校しようと思って部屋の前に来させてもらったら鍵が開いているようだったので、ず、ずっと待たせてもらっていました。そ、その、ごめんなさい!」
そう言って俯く夢川さんに私はちょっと慌てる。
「いやいや、それは別にいいんだけど……ってことは、今日1日、ずっとここにいたってこと?」
私の問いに夢川さんはこくん、とうなずく。
その瞬間、私の中に夢川さんに授業を1日休まさせてしまった申し訳なさとともに、筆舌しがたい喜びが湧き上がってきた。特別な関係ってこういうことなのかな。そう思った時だった。
次の夢川さんの言葉で私の淡い喜びは一気に砕け散る。
「が、学校を休んでお姉様を待つぐらい、お姉様に本当の妹……じゃない、姉になってもらえるなら大したことじゃないですよ。」
そこでようやく私は自分に都合が悪い部分を聞いていなかったことに気づいた。そう、最初から夢川さんはちゃんと私に伝えていたんだ。夢川さんが見ているのは私じゃない。私のことを年上とも見ていない。私はあくまで「妹さんの代わり」なんだ。
そうわかると、昨日から心のどこかで浮かれていた自分がやたら滑稽に見えてくる。
「夢川さん。」
感情を悟られて下手に気を遣わせないように、と意識しながらも、冷たくなってしまった口調に、流石の夢川さんも何かに気づいたようだった。
「私、今日は断りに行こうと思ってたの。そして今、改めてわかった。私達は
そう口では言いつつ、胸がギュッと握られるように痛みを感じた。それは、他ならない自分を見てくれている後輩がいると勝手に思い込んで、勝手に裏切られた反動だった。これは、夢川さんのせいじゃない。理性ではそう思っていても、がっかりした気持ちは抑えようがなかった。
私の答えに、夢川さんははっとしたようだった。そこで、ようやく彼女も自分が自分で思っている以上に私を「妹」と扱っていたことに気づいたんだろう。
夢川さんはそれから一瞬何かを言いかけたが、言葉が上手く出てこないようだった。そして
「ほ、本当に、ごめんなさい。」
とだけ言い残して、逃げるように私の部屋を出ていった。
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