第三幕 その明日は、本命一途にて。


 ――ご察しの通り、やや複雑な過程の家庭なの。……僕の、家族の過程と家庭は。



 お母さんの胸の内にあったこと。僕は知らなかった。言ってくれなかったから、あの日まで知らずにいた。僕が梨花りかをお家に連れてきたその日まで。あの冬の寒い日……


 二年前の二月。衝撃の事実を知った日から。


 その日から、僕とお母さんの心の距離が近くなったような気がするの。梨花が生き別れた双子の姉と知ったこと。実のパパと出会えたこと。そしてパパとお母さんが従姉弟ということも、お母さんは包み隠さず、その事実を認めて話してくれたこと。従姉弟同士という壁を越えても、生まれた僕と梨花を愛してくれたこと。胸が熱くなる思いは……


 感謝の思いと、お母さんの「生まれてきてくれて、ありがとう」という言葉。



 ――そんな中で誕生したの。


 ビッグなバレンタインチョコ。お母さんと一緒に作った世界で一つの手作り。溢れる涙は想いの深さ。愛されているという心からの、本命一途に伝えたい思いを重ね。


千佳ちか、大好きな想いを大切に、

 しっかり明日、自分の気持ちを伝えるのよ。太郎たろう君に」


 霧島きりしま太郎君。――僕の彼氏だ。そして明日、太郎君は僕の通う学園に来る。人生を左右する大勝負に。高校受験という大義名分を抱えて。背負うのではなく抱える。駅のホームで最近、リュックを前に抱える人を多く見かける。背中ではなくお腹の方に。


 大事に抱えてくれる方が、

 女の子としては嬉しいの。ちゃんと顔を見てくれるから、僕の顔を、その方が……


 そして僕は抱える、二月十四日の本番に。お母さんと一緒に作ったバレンタインチョコが、太郎君をおもてなしする。それは受験が終わって、まだ黄昏時には早い、テラスの午後三時に――僕は、君のもとへ届けるの。君を想う僕の気持ちを、そっと添えながら。


 それはね、『ありがとう』というビッグな、感謝の思いを、しっかりと伝えながら。


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ホッと温まる、千佳のバレンタイン。【……令和四年仕様】 大創 淳 @jun-0824

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