第4話 月曜日は憂鬱だが、始まったら意外と早く終わる

 月曜日というものはどうしてこんなにもしんどい気持ちになるのでしょうか……。

 うつらうつらと眠たい目を擦りながら、教科書を眺める。

 追い打ちをかけるように春の日差しが温かく、窓から入ってくる風が心地いい。

 ぼーっと意識が朦朧としていると、


「じゃあ、次綾瀬。続き読んでくれ」

「はっ、はい……あ……」


 ほんとこういう時に限って指名されるんだよね……。

 今、僕を指名した女性教師は僕達のクラスの担任である東先生だ。眼鏡を掛け、サバサバした雰囲気が特徴的。また美人で男子のみならず女子にも「王子様」と人気が高い。


 ってかそんなことより早く教科書読まないと……。ってどこ読んだらいいんだ? じわっと嫌な汗が額を伝った時だった。


「綾瀬君、綾瀬君。二十三ページの三行目からだよ」


 横から小さい声で教えてくれたのはもちろん桜木さんだ。


「私が思うにこれは事実とは異なるのではないか。なぜなら――」


 無事に教科書を読み終え、安堵しながら着席すると、桜木さんがニヤニヤと笑っている。きっとさっきの慌てぶりを面白がっているのだろう。

 恥ずかしい気持ちを紛らわすために、教科書をじっとにらめっこしているとコツンと、何かが肩に当たった。


「紙ヒコーキ……?」


 横を振り向くと、飛行機を飛ばしたと思われる桜木さんは手をパカパカと開いている。どうやら紙に何か書いているらしい。その予想通り、紙ヒコーキを開くと中には文字が書いていた。


『何か言う事があるんじゃないかなー?』


 確かに。これは僕の失態だ。

 ノートから紙を破り、『ありがとう』と書いて、紙ヒコーキにして飛ばすと、数分後また紙ヒコーキが返って来た。


『良いよー良いものが手に入ったから』


『良いものって何?』


『さぁー何でしょうー?』


『わからない』


『スマホ見てみてよ』


 こっそりスマホを取り出すと、SNSには桜木さんからのメッセージが。……ん? 写真? 何の写真だ……? !!

 ロードの後、画面に表示された写真に写っていたのは僕だった。意識が朦朧としているのか半目で、少し涎を垂らしているこの上ない醜態がそこに写されていた。


 ……マジか。これ、マジか。


 もう恥ずかしすぎて、きつい、やめて、もうやめてよお!

 顔を赤くしながら桜木さんの方に視線を向ける。彼女はまるで小学生のような無邪気な顔でしてやったりと言わん様子だ。


 ……やれやれ。ため息を吐きながら黒板の板書をノートに書き写す。外からは他のクラスが体育の授業をしているのか掛け声が聞こえる。教室には心地よい風が時折頬を撫で気持ちが良い。つらつらとシャーペンを動かしながら、少し気になることについて考えていた。

 

 何を隠そう僕はあの後、ぐっすりと寝落ちしてしまった。……ただ、桜木さんとゲームした楽しさによってアドレナリンが出ていたのか、はたまたエナジードリンクの影響か(多分後者)あまり眠りが深くなかったように思える。おかげで今も眠気が凄い。時を止めてガッツリ寝たい。寝させろ。それはともかく……。


 ただ、今日の朝とても懐かしい気分で目を覚ました。どこか遠い昔にタイムスリップしたような……多分夢でも見ていたのだろう。でも、どんな夢を見ていたのかは全く思い出せなかった。まぁ、思い出したところでただの夢だしな。ちょっとモヤモヤするけれど。


***


 こんなに気だるい月曜日も意外とあっという間に過ぎるもので。最後の授業を知らせるチャイムが鳴り、帰りの会が終了すると、生徒はぞろぞろと教室を後にする。いつもなら真っ先に帰宅するところだが、今日は用事を済まさなければならない。


「綾瀬君、今日は帰らないの??」


 隣の席から桜木さんの声が飛んできた。


「借りてた本があってね……。これを返さないと。……もう実は二日くらい延滞しちゃってるんだよね……」

「ダメじゃん!!」

「これは三十対七十で僕が悪いね」

「いや、百パーセント綾瀬君が悪いよ!!」


 ちょっとの間が空き、お互いにクスクスと笑った。……やった、ウケた。今のボケは割と頑張った方なので嬉しい。


「それなら私も借りたい本あるから一緒に図書室行こうよ!人気の本だからあるか分からないけれど……いいかな?」

「い、いや全然大丈夫。全然」


 だからその上目遣いはやばいんだって。あまりの可愛さに思わず目を反らしそうになる。


「やった~! じゃあ、早速行こう!」

「う、うん」


 すっかり夕方になり、オレンジ色に染める廊下をコツコツと足音が鳴り響く。隣には少し鼻歌を歌っている桜木さん。歩くたびに黒い綺麗な紙がふわりと揺れる。

 その状況に段々緊張していくのを感じ、何か話題を探す。


「そういえば桜木さんは何の本を借りようとしているの?」

「え~っと、『何度だって君を』っていう小説かな。感動系の小説。最近ドラマでやってる」

「……え~っと……その……それってもしかして……」


 心当たりがあり、立ち止まったところでそっとカバンから一冊の本を取り出す。すると桜木さんの表情が変わった。


「あー!綾瀬君が借りてたの!?通りでずっと貸し出し中になってるはずだよ!もう~!!」

「も、申し訳ございません……以後気を付けます……」

「もうっ、ほんと仕方ないなあ~」


 ぷくーっと頬を膨らます桜木さんに僕が苦笑していると、廊下の向かい側から一人、誰かこちらに近づいてきているのが確認できた。……あ、あれは東先生だ。

 相変わらずきりっとした表情だが、少し早歩きをしている様子。


「お、いいところに!この後時間あったら職員室まで来てくれないか?」

「「へ?」」


 ぽかんとしている僕達にお構いなく、東先生は話を続ける。


「いや、時間あったらていうか無くても来い。絶対来い。先生との約束だ。特に綾瀬、今日授業で寝てたよな。成績がどうなっても知らんぞ」


 その時、学校の放送のアナウンスが鳴った。


『東先生、職員室までお越しください』


「あーもう今行くところだってもう。……ということでよろしくな」


 そう言い、足早に東先生はその場を後にした。まるで台風のごとく過ぎ去っていったわけだが……。


「なんか忙しそうだったね。東先生。それにしてもこの後職員室って……、何があるんだろ」


 う~んと首を傾げる桜木さん。

 何が起きるかは分からないが、あまり良いことではないような気がする。

 僕のこれまでの経験が僕にそう語りかけた。


 ただ、断るという選択肢はなさそうだ。


***


 どうも砂月です。例のウイルスですっかり暇になったのがきっかけで始めた執筆。規制が緩和され、思う存分大学生してました。またぼちぼち書こうと思うのでよろしくお願いします。




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学年一の美少女である桜木さんに僕は敵わない 砂月 @sunatuki7878

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