06 スキルは使い放題か? 調べてみた結果……! 【スキル検証】【分身の術】

 ステータスウィンドウを改めて確認する。

 このウィンドウは「ステータスを見たい」と考えるだけで視界内に現れる。

 表示する位置も思いのままだ。


 ウィンドウにはステータス、職業、スキルと残ポイントの表示がある。

 ヒットポイントとマジックポイントの表記はない。


 ゲームではヒットポイントは受けても大丈夫なダメージを数字で表すものだ。なくなると死んだりする。

 これが現実的にあるとする場合は攻撃が当たらなかったり、防具なり魔力の壁なりで防いだりするんだろう。


 俺が表示できるステータスには、そういう表示はない。

 ということは殴られればケガをするはずだ。棍棒や刃物で攻撃されたら、普通に死ぬ可能性がある。

 当たり前と言えば当たり前のことだ。ゲームみたいなステータスやスキルがあるとはいえ、ゲームじゃないんだ。


 ヒットポイントが得られるようなスキルはまだ見つかっていない。

 防御力とか耐久力とか、耐性のようなスキルも見当たらない。


 俺の行動か、職業による条件を満たしていないから選択肢に上がっていないのかもしれない。


 安全に行きたいのでヒットポイント的な物は欲しい。

 防御力や生命力が増えるようなスキルが欲しい。

 死んだら終わりだ。ケガをするだけでも結構なリスクがある。


 まずは命を大事に、安全第一をモットーでやっていこうと思う。

 ビビってるって?

 いやいや、勇気と無謀は違うものなのだ。


 ステータスに魔力があるのなら、マジックポイントとか「リソースとしての魔力」があってもおかしくない。


 例えば忍術を使うとき、そのエネルギーはどこから来ているんだ?

 魔力を使って発動しているんじゃないのか?

 タダで使い放題ということはないはず。そんなうまい話、ないよな?


 これまでつかったスキルでは、魔力を使った感覚はない。

 もしかすると消費のないスキルもあるのかもしれない。


 試してみるか。

 まだ使っていないスキルを試してみる。


「【分身の術】! おお、でたっ!」


 【分身の術】が発動した。

 自分に重なるように、"分身"が現れている。


 すこし、疲れに似た感覚。これが、魔力を使うということなんだろうか。


 【壁走りの術】よりも【分身の術】のほうが魔力なり体力なりを使うのかもしれない。


 一歩下がって分身と向かい合う。

 分身はさっきまで俺が取っていたポーズで固まっている。

 鏡で見る自分と違って、左右が逆転していないので少し違和感がある。それでも見慣れた自分の姿にそっくりだ。


 俺、ちょっと眼つき悪いか……?

 目の下にクマが……ブラック労働の勲章ってやつだな。


 今日も寝不足だったっけ。

 あれ、なんで俺はこうしてダンジョンの中で働いちゃってるんだ。


「おっ、消えた。持続時間は短めか」


 そんなことを考えている間に、分身は塵になって消えてしまう。

 ゴブリンを倒したときに似ている。


 再度、分身の術を発動させる。


 俺の見た目をそのままに、動かない人形。自分の等身大フィギアだ。

 側面や背後へ回り込みながら確認すると、ちゃんと全身が再現されている。


 正面以外から自分を眺めるのはちょっと新鮮な気持ちだ。朝の身支度がはかどりそう。

 後ろ頭の寝ぐせとかも発見できるぜ!


 実体はないようで、触れても感触はない。

 触れた部分は霧のように散ってしまう。

 触らなくても、数秒で分身は消えてしまう。


 自分の居た位置に"分身"が現れるらしい。効果時間は数秒。

 力を込めて発動すると、少し長く持続させることができる。しかし、疲労感が大きい。


 やはり、何かを消費して忍術は発動しているようだ。


「ということは、やはりマジックポイントのようなリソースはあるんだな」


 ステータスに数字として表れてくれたら分かりやすいんだけどな。


 試してみた限り、分身の術は自分の位置にしか出せない。

 力を込めても念じても、自分の身体に重なるようにしか出ない。


 ポーズも今の俺をコピーした姿になる。

 スキルのレベルが上がれば、いろいろできるようになるのかもしれない。


 とりあえず、現状の分身でも使い道はある。


 動きながら【分身の術】を使えば、アレができるわけだな。

 そう、忍者モノで有名なアレですよ。


 さっそく試そう!


 洞窟をうろついて、新たなモンスターを探す。

 ゴブリンを発見。しかし、ゴブリンしかいないのかここは。


 【隠密】を発動して忍び足で近づく。ぜんぜん気づかれない。

 もはや【隠密】だけでもゴブリンには無双できてしまう。


 【暗殺】すれば一撃で倒せることだろう。

 俺ツエー! 勝利! となるわけだが……それでは検証にならない。

 今は【分身の術】を試したいのだ。


 鈍いゴブリンさんでも、声をかければ隠密中でも発見されるはずだ。


「もしもーし」

 と、声をかけながら肩を叩く。


「アギ? アギャァア!」

 振り返り、俺を発見したゴブリンは棍棒を横なぎに振るう。


 しかし、俺はもうそこにはいない。

 分身を残して、俺自身は逃れている。


 ゴブリンの棍棒を受けて、分身は霧散する。

 目を剥きだして驚くゴブリン。少しコミカルに見えるのは心のゆとりのなせるわざか。


「ア? アギァ?」


 ゴブリンは混乱し、俺を見失っている。


「それは残像だ! そして俺は上だぜ! うりゃあ!」


 壁を駆け上がっていた俺はゴブリンの頭上にいる。

 落下しながら脳天に金属バットをたたきつける。


 確かな手ごたえ。


 ゴブリンは即死し、塵と化す。


 すたっと華麗に着地する俺。


 スタイリッシュキル!


 うーん。ニンジャ感がでてきたぜ!


「空蝉の術からの空中殺法! からの暗殺! コンボ成功だな! これはかなり忍んでるぜ!」


 空蝉の術は忍者モノでは服を脱いですり替わったりするアレだ。セミの抜け殻みたいなイメージ。

 分身と入れ替わるという意味では変わり身の術とも言える。


 分身を出して、隠密で姿を隠す。壁を登って死角からの奇襲。


 先ほどの一撃は、検証のために【致命の一撃】をオフにしてみた。

 結果、手応えは変わらず。


 【致命の一撃】をオンにしていた前回と違いはない。ということはたぶん、この二つのスキルの効果は重複しない。

 【致命の一撃】も【暗殺】もリソース――仮に魔力と呼ぶ――の消費はない。常に両方オンにしても損はないので、気にせず使っていこう。

 何か違いがあるんだろうけど、わからん。


 今後、スキルを取るときは重複しないものを選ぼう。


 どうせなら無駄なくスキルを取っていきたい。

 少ないポイントでやりくりするのも攻略の醍醐味だよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る