05 【朗報】スキル、つよい! 【スキル検証】【隠密】【暗殺】【壁走りの術】

「せっかくスキルを手に入れたし、試さない手はない。危なくなったらアパートへ戻ればいいしな!」


 ダンジョンとアパートの部屋をつなぐ黒い水面――出入口は今もそこにある。

 つまり、いつでも行き来できる。危なくなったら戻ればいい。


 ダンジョンに入ってすぐのこの部屋。

 ここから一本の通路が伸びている。


 他の通路はないので、先に進んでも後ろから襲われる心配はない。

 もちろん、帰り道に迷う心配もない。


 いわゆる「異世界転移」だと行ったきりで帰れない。


 俺の場合はダンジョンと日本を好きに行き来できる。

 退路がある安心感は大きい。

 帰れる場所があってこそ遠足できるわけだよ。


 危険があることはわかっている。

 漫画やアニメでは怪物モンスターを簡単に倒す。

 ケガをしても簡単に治ったりもするし、ときには死んでも生き返ったりする。


 そんな幸運を期待して無茶はできない。

 危険を承知の上で、その危険を減らしていく。


 雑に探索をするつもりはない。

 より安全に、確実に生きて帰る。できればケガもしないように。

 まずは危険の程度を把握しておかなければ。


 そのためにも探索が必要だ。

 調べておかないと、安心できない。


 このダンジョンの先がどうなっているのか。

 どんな怪物が現れるのか。


 ステータスとスキルはどういうものなのか。

 どの程度使えるものなのか。



「よし、探索開始!」


 最初の部屋を出て、先へ進む。

 金属バットを構えて、慎重に洞窟を進む。


 発光するキノコやコケのおかげで、歩くのに充分な明るさはある。

 通路は直線ではなく、曲がりくねっていてくぼみやでっぱりも多い。


 【隠密】の【消音】のスキルを発動させる。


 スキルを発動するには頭の中で意識すればいいようだ。

 簡単だ。口に出したりウィンドウを操作する必要はない。


 【消音】により、俺の足音が小さくなる。

 気を付けなければ聞こえない程度に小さな音だ。

 全くの無音にしてくれるわけではないようだ。



「……ん。来たな」


 通路の向こうからゴブリンが来る。一匹だけ。

 まだこちらには気づいていない。

 警戒心はまるでなく、ぶらぶらと歩いてきている。


 【隠密】を試すチャンスだ。


 物陰に潜んで、息をひそめる。

 岩のでっぱりのかげに身を隠す。


 【隠密】の【隠術いんじゅつ】を発動させる。


 俺の見た目には変化はない……と思う。

 自分の手を見ても、姿が消えたり透明になったようには見えない。


 ……これで効果を発揮してるのか? 大丈夫だよな?


 ゴブリンが近づいてくる。


 物陰に隠れているとはいえ、しっかりと隠れられるほどではない。

 スキルがない状態なら、見つからずに済むとは思えない。


 たのむぜ【隠密】さん。

 強スキルだと信じているぜ!


 俺はしずかに、ゴブリンが通り過ぎるのを待つ。


 隠れながらも、心臓はバクバクだ。

 心臓の音がうるさくて、バレやしないかと思うくらい。


 戦えば勝てると分かっていても、身を隠すスリルにアドレナリンがドバドバと分泌される。


 ゴブリンがちらりと、俺の居るあたりを視界にいれる。

 しかし、俺には気づかなかったらしい。

 何事もなく通り過ぎていく。



 ゴブリンの探知性能がショボい可能性もある。

 だが気づかれないならヨシ!



 【隠術】と【消音】でゴブリンには気づかれていない。


 次は攻撃だ。

 無防備な背中をさらしているゴブリンにゆっくりと忍び寄る。


 隠密の【致命の一撃】と【暗殺】の威力はいかに。


 どちらも「不意打ちでの攻撃に補正」という効果だ。

 今のように気づかれていない状態で攻撃すれば、この効果が発揮されるはず。


 ゴブリンの背中へ向けて、金属バットを振り下ろす。


 鈍い手ごたえ。

 そして、感覚的に【致命の一撃】と【暗殺】が効果を発揮したとわかる。


 ゴブリンは声も上げずにその場で絶命する。

 殴打した瞬間に即死だ。

 倒れる時間すらなく、塵と化す。


 一匹目のゴブリンを倒したときは即死じゃなかったから、これはスキルの効果のはずだ。


 これぞクリーンキル。声も立てず、床に倒れる音すらしない。


 ゴブリンが塵となる。

 それと共に空中に現れた魔石を空中でつかみ取る。


 なかなかスタイリッシュな動きで、気に入った。

 これも敏捷のステータスが可能にする器用な動きだ。


 両方のスキルが発動した感覚があった。

 だが、二つのスキルのどちらが作用したのかはわからない。


 両方効いているのか、片方だけ効いているのか……。

 ゲームみたいにダメージの数値表示でもあればいいんだが、そんなものはない。



「ヨシ! 【隠密】と【暗殺】の組み合わせは強い! 間違いない!」



 ゲームに似たスキルやステータスは確かに存在する。

 たしかに使えるし、強いことも分かった。


 でもこれはゲームではない。

 攻略本もWIKIもない。ないはずだ。


 自分の手で丁寧に検証していくしかない。


 これは俺にとっては間違いなく現実。命がけの冒険だ。

 スキルを理解して、使いこなすことが大切になってくる。


 スキルの性能や使い方は自分次第だ。

 手探りで攻略するのも悪くない。


 俺は、そういうのが好きなんだ。



 手持ちのスキルを検証していく。

 敵もいない安全な状態であることを確認する。


 洞窟の通路は十分に広く、高さもある。

 ここで【壁走りの術】を試す。


「おお! 走れる! ……すげえ!」


 物理法則すら無視しているようだ。壁を地面のように走ることができる。

 重力どうなってんだよ。


 いろいろと試した結果、壁に向かって走ると壁に足が吸いついて走れることが分かった。

 効果は十歩走れるほど。

 そして、壁を走るのは難しいということも。


「スキルを取るだけでいきなり使いこなせるわけじゃないか。慣れが必要だな」


 壁に吸い付くことはできている。

 しかし、重力が邪魔をしているのだ。

 下方向へ引っ張られてバランスを取りにくい。


 平地であれば、片側に重りを持って走るような感覚だろうか。

 足がもつれてしまう。


「うーん。【歩法ほほう】を取れば変わるか?」


 先ほど目を通したスキルのなかに、移動に関連するスキルがあった。


 足さばきや体重移動なら【歩法】で改善できそうだ。


 残しておいたポイントを振って【歩法】スキルを取得する。

 これで残ポイントはなくなった。


「お、スムーズになった! 足というか、身体の動かし方が感じだな」


 不思議な感覚だ。

 さっきまでは難しかった足運びや、重心移動がやりやすくなった。

 やり方やコツのようなものが理解できる。


 物理を無視するようなスキルもあれば、知識や感覚を覚えさせてくれるものもあるのか。


 スキルは奥が深い!



 スキル取得後のステータスを確認しておこう。

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 名前 : クロウ ゼンジ

 レベル: 2

 筋力 : C

 体力 : B

 敏捷 : B

 知力 : C

 魔力 : C

 生命力: C


 職業 : 忍者

 スキル:

  【忍術】1

   【壁走りの術】1

   【分身の術】1


  【隠密】1

   【隠術】1

   【消音】1

   【致命の一撃】1


  【暗殺】1

  【投擲】1

  【歩法】1

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「よーし! 忍者っぽくなってきた!」


 スキルは使える!


 ところで、スキルはいくらでも使えるんだろうか?

 マジックポイントみたいなものは、ステータスには見当たらないんだよなー。

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