第5話 警備してますか?

 今では当たり前の、機器やセンサーを使った機械警備が出始めた頃のお話。


 世界的なコンピューター会社の日本法人社長が、当時ベンチャーだった機械警備会社の若き社長から話を聞き興味を持った。


 コンピューター会社の社長は、頭の切れる法務部長に、機械警備を自社導入するための社内調整を指示をした。


 法務部長は悩んだ。まず会社の警備を管轄する総務部長を味方にしなければ導入は進まない。

 しかし、総務部長は前例主義で、新しいことにはアレルギーが出るタイプだ。

「機械に警備ができるものか!人による警備が安心だ。当社規模の大企業での事例もない!」と言うに違いない。どうしたものか、書類や会議で説得できる相手ではない。


 法務部長は一計を案じ、外国人と日本人の友人に連絡を取った。


 コンピューター会社は警備員を常駐させ、玄関等に配置し、部外者が会社内に入らないようにしていた。


 ある日、外国人が玄関の警備員に、外国語でまくし立てるように話し掛けた。外国人が珍しくないコンピューター会社でも、警備員が外国人から詰め寄られることは殆どない。警備員は二人ともそちらに気を取られてしまった。

 その隙に、日本人が侵入し、エレベーターで法務部のフロアへ上がった。廊下でタイミングを伺い、教えられていた総務部長の席へ行き、机の上の書類を持ち出すことに成功した。


 その日の夕方、法務部長は、近くのホテルのラウンジに総務部長を呼び出した。


 法務部長は切り出した。

「お呼び立てして申し訳ございません。こちらをご覧頂けますか」と総務部長の机にあった書類をテーブルの上に置いた。

「これは!どうして、この書類をあなたが持っているのですか?」置かれた機密書類を見て、総務部長は驚き青ざめた。

「驚かせてすみません。実は社長から機械警備を調査せよとの命令で、ちょっとした実験をしてみたのです」とネタばらしをした。


 総務部長としても、実験とはいえ外部から侵入され、機密書類を持ち出された事実は重く受け止めなければならない。

 両部長は話を続けた。


 結果、二人は機械警備の導入を、総務部長の提案として会社に申請することにした。

 総務部長は、警備員と機械警備システムをバランスよく配置することにより、警備効果の向上とコストダウンの両立に成功した。


 導入に合わせ、コンピューター会社と機械警備のベンチャーは共同のプレスリリースを出した。

 コンピューター会社は先進性及び、セキュリティ重視の企業体質をアピールした。

 機械警備のベンチャーは、この導入実績を梃子に躍進した。「ケ・イ・ビしてますか?」のキャッチフレーズで、法人市場だけでなく個人市場も開拓。大企業の仲間入りを果たした。


 一役買った頭の切れる法務部長が、日米スパイ訴訟で名を馳せるのは、まだ先の話。

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