第48話 エピローグ2

 ――神の真理を得た者は多くが短命である。

 その原因のほとんどは神の真理の侵食に、器側の精神が耐え切れずに発狂し、自らの命を断ってしまうからだ。

 そうなれば、そこで終わり。

 神の真理は人知れず、また誰かの内に巣食って、発狂させて、巣食って、発狂させて……と、そんな呪いが延々と続いていく。

 だが、稀にそんな悪夢のような神の真理を知ってか知らずか、使えてしまえる人間がいる。

 明日斗くんは、その一人だった。

 昨日、グラシャラボラスを倒した後に、自分で自分の頭を爆散させた時は正気を疑ったが、それ以上の異常な光景がそこには広がっていた。

 爆散した頭がまるで生き物のように集い、混ぜ合い、映像を巻き戻すかのように再生していく。

 その姿は、本当に人間なのかと疑う程の光景だった。

 恐らくは、神の真理によるものなのだろう。

 そして、手慣れた感じで自分の頭を粉砕した明日斗くんの様子にも違和感を覚えてしまう。

 多分、明日斗くんは神の真理からの侵食に対抗するために、日頃から自分の脳を破壊して自分の意識を守っているのではないだろうか。

 あの日、明日斗くんに記憶の混乱は生じていないかと確認したところ、明らかに心当たりがある様子だった。

 その時は、神の真理に侵食されているのが原因だと考えたが、あの手慣れた感じや、躊躇の無さを見ると、日常的にやっていることだと思えてしまう。

 つまり、明日斗くんの記憶が混乱しているのは、自分で自分の脳を破壊する事で、神の侵食を防ぎ、その代償に日々の記憶を欠落させて生きているのだろう。

 そんなことで神の真理の侵食が防げるのかは謎だが、実際に防げているのだから有効なのだろう。

 私の脳裏に、詰められそうになった将棋盤をバーンとひっくり返しては直す明日斗くんのイメージが思い浮かぶ。

 まるで一人遊びだが、詰められたら終わる中での投了拒否は、力技でありながらも正解のひとつではないだろうかという気がしてならない。

 なんにせよ、脳を破壊して記憶を欠落させているのは、明日斗くんの意思だ。

 だったら、その行動を想起させるような言葉は私から言うべきではないのかもしれない。

「いや、生きてるから。転校二日目でいきなりイジメとか勘弁して欲しいんだけど?」

 私がそう言うと、明日斗くんは目を丸くしてから、プイと明後日の方向を向いてしまった。

 もしかして、本人は少し気を使ったつもりなのだろうか。

 いや、そんな事はないかな? あれは、単純に疑問だったから聞いてみただけだよね?

 でも、明日斗くんが声を掛けてくれた事で、皆も声を掛けやすい環境にはなったみたい。

 あっという間に大勢に取り囲まれる中、私は一人だけ隅に追いやられる明日斗くんの不満そうな顔を眺めるのだった。


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俺を愉しませて、そして逝け ぽち @kamitubata

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