第24話 殺人の真理を極めし者2

 俺の目つきが鋭くなるのと同時に鼓動が一段階早くなる。興奮しているのか、荒くなる息を隠すので精一杯だ。

 だが、近くにいるイブリースはそんな俺の異変に気が付く事なく、テレビ画面を食い入るようにして見ていた。

「この顔どこかで……」

『突然の無作法済まないね。この紅い空間に驚いている者も多いだろうと思い、少し話をしようと思って繋がせて貰ったよ』

 イブリースの言葉を遮るように、男が底意地の悪そうな顔で嗤う。

 その顔を見て、俺は喉元まで迫り上がってきた殺人衝動を何とか抑え込む。

 嗚呼、くそ。何て嗜虐心を唆るクソ生意気そうな顔なんだ。気持ちが昂って仕方が無いじゃないか。

『この紅い空間は、私が作り出した結界でね。外から中に入る事は出来ないし、中から外に逃げる事も出来ない。そんな結界で建物全体を覆っている。ふふっ、窓ガラスを割ろうとしても無駄だよ? 私の結界に捕らえられたが最後、脱出方法は二つしかない。私がこの結界を解除、破壊するか、それとも私を倒すかだ。まぁ、後者は恐らく不可能だが』

 そこで、男は笑みを深める。

 余程自分に自信があるのだろう。

 その顔をグチャグチャにしてやりたいと思うのは、俺の悪い癖だ。

 何とか感情を抑える。

 隣にイブリースが居てくれて助かった。

 彼女に行った酷い仕打ちを思い出して、何とか堪えられるのだから。

『ここまで聞いて、自分たちの理不尽な境遇を嘆いている者も多いだろう。だが、これは決して理不尽な仕打ちではない。そうだな。見てもらった方が早いか。紹介しよう……私の弟だ』

 画面を見ていたイブリースの喉から思わず引き攣ったような声が出る。

 壁越しではあるが、隣の部屋から微かな物音が響いたので、動揺したのだろう。

 画面に大映しになったのは、男の生首だ。

 真っ白な髪に紅い目。そして、巌のような顔は苦悶に歪み、まるで無念をその身に刻み込んだかのようだ。

 どこかで見た事があるな、とは言えない。

 その生首は、俺が殺した悪魔そのものだった。

「この男の人の顔、どこかで見た事があると思ったら、公園の悪魔に似てたんだ」

 イブリースに言われて気が付く。

 確かに、画面に映る悪魔の顔は弟であるという生首に面影が似ている。

 もっとも、生首を持つ男の顔は弟とは違い、邪悪とも言えるような狂気の笑顔が貼り付いていたが。

『君たち人間には分からないかもしれないが、弟はコンプレックスを拗らせてしまっていてね。私に内緒で格を上げる為に、こんな極東の島国にまでわざわざ出向いてきたのだよ。恐らく、誰にも内緒で力を付けて格を上げ、私達を見返したかったのだろうね』

 格無しという言葉から、爵位無しという言葉が脳裏に浮かぶ。

 ならば、この悪魔は弟よりも格上?

 つまり、爵位を持っているということか?

 ……ふふっ。フヒヒ。

『あぁ、勿論、弟の動きは私には筒抜けだったよ。その動き、実に滑稽だったね』

 愛おしげに男が弟の頭を撫でる。

 その行為にイブリースは怖気をもよおしたようだが、俺は興奮を覚える。

 嗚呼、この弟の首の隣に兄の首を揃えて、コレクションにしたいと思ってしまうのはいけない事だろうか。

 他人はその行為を「気持ち悪い」というかもしれないが、俺にとってはモデルガンを部屋に飾ったり、スニーカーを集めたりするのと何ら変わらない行為だ。

 何だったら、プラモデルを飾るようにして、部屋に生首を飾っておきたいぐらいである。

 なかなか良い趣味をしている兄は言葉を続ける。

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