第22話 悪魔の王5

「…………」

 いや、そもそも、あの悪魔は殺せたんだよな?

 殺されても死ななかったイブリースという例を目の前にして、急に不安になってきた。

 俺がその事を相談すると、イブリースはあの悪魔は死んだと太鼓判を押してくれる。

「肉体転写の真理は、結構高度な真理だから、少なくとも低級悪魔には使えないよ」

「肉体転写?」

 俺にも分かるように言って欲しいのだが?

 そう思っていたら、顔に出ていたのだろう。イブリースが説明してくれる。

「爵位持ちの悪魔は、本体となるアストラル体を別の世界だったり、別の星だったりに隠していたりするの。そこから複製を作成して、地球に転写しているのが私たちなのよね。私の傷が簡単にくっついたり、治ったりするのも、別次元の本体とリンクしたりして、保存していた情報を得て修復しているといった感じだから」

 言うなれば、サーバーに本体を格納し、ローカルにコピーして存在しているのが、今のイブリースという存在らしい。

 クラウド環境のようなものと言った方が、分かりやすいだろうか?

 とにかく、そういうものらしい。

「それじゃ、イブリースは不死身なのか?」

「一応、分体が殺されるとそのダメージが本体にキャッシュバックされるから、何億、何兆って殺されたら、蓄積されたダメージで死ぬかも? それ以上に、分体を生み出すのにも力がいるから、疲労困憊で倒れるかもしれないね」

 悪魔というのが、つくづく人間とは別の生き物だと認識出来る話だ。

 傷付けるかもしれないから、本人の前では絶対に言わないが。

「低級の悪魔は、そういった肉体転写の真理を正しく理解していないから、多分、本体へのキャッシュバックダメージが防ぎ切れずに本体まで死んじゃうと思うよ」

「希望的観測という奴か」

「どちらかというと経験則かな?」

 前にも同じような事があったらしい。

 しかし、イブリースが殺しても死なないような存在だとなると……。

「それだと、公園での涙は何だったんだ? 芝居なのか? 殺されても死なないなら、別に俺に殺されても怖くは無いだろう」

 俺がそう言うとクッションが投げつけられた。

 それを受け止めて、ソファーの上に横たえると、イブリースは泣き出しそうな顔でこちらを睨む。

「結果的に死ななくても、痛いし、怖いし! ダメージだって入るし! 友達になったと思っていた同級生に殺されるって、何よりも心が痛くて、悲しくなるんだからね!」

「すまない。軽率な発言だった」

 涙目で睨まれてしまえば、流石にこちらが謝るしかない。

 存在自体は人間とはかけ離れているが、精神的な構造は意外と人間と似通っているのかもしれない。

 そんな事を思う。

「……返して。クッション」

「あ、あぁ」

 俺がクッションを放り投げてやると、それを受け止めたイブリースがそのクッションに顔を埋めてしまう。

 犬などは自分の臭いが付いた物があると落ち着くというが、イブリースもそれに近い感じなのだろうか。

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