第20話 悪魔の王3
「意思たちは次々と世界の真理を解き明かしていったんだよ。次元の真理や異界の真理、可能性の真理、とにかく世界の理を全て紐解き、自分のものにしていった。そして、その過程で彼らは気付いてしまったんだ」
「気付いた? 何を?」
「全ての真理を解き明かしたものだけが、全てを手に入れられるってことだよ」
「はぁ?」
俺は生返事だが、イブリースは抱きしめていたクッションをがばりと離して、オーバーアクション気味に語る。
「考えてもみてよ! 全ての真理を理解し、更にその全てを使いこなせるのだとしたら、それはもう森羅万象を司るという事だよ! つまり、完全なる全知全能! 言うなれば、神の生誕だよ!」
「神ねぇ」
イブリースとのテンションの落差が酷い。
彼女にとっては実感出来る話なのだろうが、俺にとっては御伽噺にも近い話だ。気持ちに差が出るのも当然だろう。
話半分に聞きながら、お茶を飲む。
「伝承によると実際に神は誕生したらしいんだよね。それで、まずは他の者にはこれ以上の真理の探究が出来ないように、多くの真理を知覚出来ないようにした。それから、原初の光を連発。沢山の世界を作って、天文学的な確率の中から生命が誕生するのを見守っていたとされるんだ」
「何か、スケールの大きな話だが……。悪魔はどこにいったんだ? 当初の質問に答えて貰っていないんだが?」
「その時、真理の解読競争に負けた意思たちが悪魔だよ」
「は?」
俺はイブリースの言葉が良く分からずに固まってしまう。
理解の範疇を越えたというか……どういう事だ?
「神が他の意思を悪魔だと定めたんだよ。神の敵対者であり、決して耳を貸してはならない存在。それが悪魔。そういうものに他の意思は決定付けられた。神は絶対だからね。誰もそれに逆らえない」
イブリースは訳知り顔で腕を組んで頷いているが、俺はどこか納得がいかない。
「それってつまり、神が全ての真理を理解したから、未だに真理を解いている者たちを妨害し始めたってことか? 相手が全ての真理を理解出来ないように、自分が永遠に一番であるようにって……。それが、全知全能のやる事か?」
「でも、神のやっている事は分かるよ。自分が折角頑張って一番に真理を解いたのに、後からのんびりやっても一緒の立場に立たれちゃ、早く解いた意味がないじゃない? それって凄い悔しい事だろうし」
「だからといって、妨害までするのはやり過ぎだろう」
しかし、これで悪魔というのが単純な人間でない事が分かった。
俺が行ったのは人殺しではないと、そう思いたい。
「私が悪魔の王と呼ばれているのは、そんな真理解読レースの二番手だったのが、私の御先祖様だったからって話だね」
なるほど。
悪魔たちの一番上だから、悪魔の王か。
「真理を解読した量はそのまま力になるから、単純な真理解読レースの二番手だから偉いってだけじゃなくて、普通に強いってのもあるんだけど」
「その割には、あの悪魔にやられていなかったか?」
「力の加減が難しいんだよ。ちょっと力むと周囲一帯が消し飛んじゃうし。明日斗くんを投げるのにも失敗したでしょ?」
俺は木にぶち当てられた時の事を思い出す。
「あれは、普通の奴だったら下手したら死んでいたぞ。俺が怪我が治りやすい体質で良かったな」
「そうなんだ。まぁ、大事なくて良かったよ」
昔から大怪我というものをした事がない。
しても治ってしまうというか。
小学生の時に腕を骨折したんだが、一週間我慢してたらいつの間にか治っていたからな。
成長した今なら数時間もあれば、治る自信がある。
イブリースのように、胴体切断からの復活までは流石に無理だと思うが。
…………。
俺、まさか、悪魔じゃないだろうな?
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