第18話 悪魔の王1
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昔ながらの活気を取り戻そうと躍起になる商店街を抜けて、駅に程近い場所に出ると場違いな程に背の高いタワーマンションがある。
バスターミナルと地続きのそのマンションは丘の上の自然公園とは比較にならないが、都市相応の緑化が行われてはいた。冬場も青々と繁る常緑樹の林道を抜け、色付きのタイルで綺麗に舗装された道を道なりに歩けば、やがて分厚いガラスで遮られたオートロックの入り口が見えてくる。
俺は勝手知ったる何とやらとばかりに、背負っていたイブリースを軽く揺らす。
「着いたぞ」
最初は背負われて恥ずかしいだの、見られているだのと文句を言っていたイブリースも騒ぎ疲れたのか、今では柔順なものだ。
俺の要求通りにカードを翳し、セキュリティ堅固であろうタワーマンションの内部に導いてくれる。
電子カードを使って一階にエレベーターを呼び出し、二十階へ。
最新のセキュリティの堅牢さに驚きながらも、俺は恐る恐る進む。
前回はオートロックの所で別れたから、あまり実感が湧かなかったが、イブリースはもしかしなくても金持ちなのかもしれない。
掃除が行き届いた小綺麗な廊下を歩きながら、俺はそんな事を思う。
「……そこ。2009号室が私の家」
「家の人は居るのか?」
それを想像して、俺は声を掛ける。
「お父さん役とお母さん役の使い魔が居たんだけど、さっき聞いた話じゃあ望み薄……多分、誰もいないよ」
「マンションの廊下でする話じゃないな。鍵を開けてくれ」
「女の子の一人暮らしの部屋にスッゴい自然に侵入しようとしているよね? 明日斗くんって、もしかして女たらし?」
「まともに立てもしないくせに口だけは回るな。俺だって疲れているのを無理してお前を送り届けてやってるんだぞ」
「女の子にあんな怖い思いをさせたんだもん! 当然だよ!」
背中でプンスコ怒るイブリースの軽い体重に女の子を少し覚える。口ではあぁ言ったものの、少しだけ意識していないといえば嘘になる。
だが、女の子の家というよりも、悪魔の棲家という言葉の方が印象が強過ぎて、浮かれた気分にはなれなかった。
改めてイブリースに言葉にされると、変な緊張感を覚えてしまうのは、俺にも人並みの感情があるという事だろうか。
何だろうな。
凶悪な殺人事件を起こしながらも、絶対に証拠を残してはいけないような、そんな変な緊張感がある。
「入るぞ」
「いちいち言わなくても良いよ。こっちが緊張しちゃうよ」
緊張は伝播するとも言うしな。
俺の緊張が伝わったか。
「?」
何か首筋の後ろにチリリとした妙な感覚を覚える。
イブリースを背負っているから、彼女の髪の毛でも当たったのだろうか?
(まぁ、気にするほどの事でもないだろう)
俺はイブリースを背負ったまま、彼女の家の門戸を潜る。
「明日斗くん、靴脱がせ――どうかした?」
俺が変な顔をしているのに気が付いたのだろう。玄関先に下ろしたイブリースがキョトンとした顔で俺の顔を覗き込む。
あまり近くに来ないで欲しい。
自己嫌悪で何とか理性を保っているが、殺人衝動がいつ鎌首をもたげて来るのか分からないのだから。
「いや、何でもない」
「そう? じゃあ、靴お願い?」
「やれやれ、ダラシのない奴だ」
俺はイブリースの靴を脱がせて、肩を貸しながら彼女をリビングへと運んでいく。
つい先程、殺しかけただけに強く出れないのが歯痒いな。
「狭い家だけど寛いでいってね。今、何か飲み物を……」
「動けないくせに、もてなそうとするな。取って来てやるから、お前は
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