第21話 私:語り部のお話 2/2 ~ロマンス王国にて~

ごきげんよう。

どうされましたの?そのように急いでいらして。

え?

私のお話の続きが気になってしまって、ですって?

大して面白いお話でもございませんのに。

本当によろしいのですか?私のお話の続きで。

では、先日の続きをお話しいたしましょうか。



※※※※※※※※※※


「これはレーヌ嬢っ!チェルシー女王へご用でしょうか?」


城に入ると、ロマンス王国王室付騎士団隊長のライトに声を掛けられ、レーヌは足を止めた。


「ごきげんよう、ライト様。ふふふ・・・・随分逞しくなられましたわね。ええ、チェルシー女王にお会いしたいのですが、どちらにいらっしゃいますか?」

「チェルシー様は中庭にいらしゃいます。お供いたしましょうか?」

「いいえ、結構ですわ。あら、あちらにブルーム様がいらっしゃいますわよ?お待ちになっているようですから、行って差し上げてくださいませ」

「あっ・・・・はっ、では、失礼しますっ!」


レーヌの言葉に、ライトは顔を真っ赤に染めてブルームの元へと走り出す。

そのライトに、ブルームは。


「どうしたのライト?そんなに急いで」

「えっ?いや、さっきそこで・・・・ん?あれっ?おれ、さっきそこで誰かと話してたような・・・・?」

「大丈夫?疲れているんじゃないの?」

「うん、そうかも。疲れたおれを癒してくれないかな~、ブルームちゃん?」

「もうっ、ライトったらっ!」


一方、中庭へと向かったレーヌは、すぐにチェルシーの姿を見つけて声を掛けた。


「ごきげんよう、チェルシー様」

「・・・・レーヌ嬢ではありませんか!」


レーヌの姿を目にとめると、チェルシーはレーヌへと駆け寄り、両手でレーヌの両手を握りしめる。


「お会いしとうございましたのよ、レーヌ嬢。今までどこにいらしたのです?!」

「申し訳ございません、チェルシー様。結界の外におりまして。ですが、この国の事はいつどこにいても見守っておりますのよ」

「あぁ、レーヌ嬢・・・・そのお言葉が、私にとってどれほど心強いものであるか」

「大袈裟ですわ、チェルシー様。今や私など、見守る事しかできませんのに」

「それでも、です、レーヌ嬢。あなたの存在自体が、我らにとって、どれほどの支えになっていることか」


目の前で、涙を浮かべるチェルシーに、レーヌの目からも再び涙が溢れだす。


「本当に、この国の民も・・・・なんということなのでしょう・・・・」

「レーヌ嬢、今日はお泊りになられますわよね?!」

「いえ、私はこのまま」

「もう遅いですし」

「まだお昼間ですわ、チェルシー様」

「積もる話もございますし」

「・・・・私と今こうしてお話になった事も、私と離れてしまえば一時の間お忘れになるのです。お分かりのはずですよね、チェルシー様。私はもう、両王国に干渉することはできないのです。私にできることは、ただ見守ることだけ。お赦しくださいませ、チェルシー様」


そっとチェルシーの両手を外し、レーヌはその手をギュッと握って笑顔を向ける。


「また、参ります。ごきげんよう、チェルシー様」


そして、レーヌはチェルシーを残して中庭を後にした。


「あら?私今誰かと話して・・・・えっ?何で泣いているのかしら?」


後ろから聞こえるチェルシーの言葉を耳にしながら。



結界の出口へと向かいながら、レーヌはかつて自分が神として守護していた両王国への想いを新たにした。

両王国の民は、他のどの国の民よりも真っ直ぐで健やかな魂を持つ人間ばかりだと、自慢に思っていたものだ。

だが、レーヌは過ちを犯してしまった。

両王国を愛するあまり、禁忌を犯してしまったのだ。

人間が持たざる力を与えるという禁忌。

他の国々の穢れた魂から、愛すべき真っ直ぐで健やかな魂を守りたいがために、レーヌは様々な力を両王国の民達に与えた。


魂の色を見る力。

魂の闇を察知し、闇を払う力。

結界を張る力。

時間を操る力。

記憶を操る力。

精霊たちの協力を得る力。


結果。

レーヌは神としての資格をはく奪され、受けるべき罰の選択を迫られた。

ひとつは、神としての全ての記憶を抹消され、ひとりの人間としてその生を終えること。

そしてもうひとつは、神としての記憶をすべて持ちながら、全ての力をはく奪され、両王国に干渉することも許されず、ただ両王国の行く末を-己の犯した過ちの行く先を見守り続けること。

レーヌは迷うことなく、後者を選択した。


かつて、『レーヌ嬢』として人型をとり、両王国の民たちと自由に交流することができていた守護神レーヌは、今でも両国民に『レーヌ嬢』として語り継がれるシンボル的存在ではあるものの、干渉することは許されてはいない。

民たちと言葉を交わす自由までは奪われはしなかったものの、どれだけ言葉を交わしても、どれだけ熱い想いを交わし合っても、レーヌと別れた瞬間に、レーヌと共有した時間は相手の人間の記憶に蓋をされてしまう。

次にレーヌに会うその時まで。

それも、干渉することを禁じられた、レーヌに与えられた罰のひとつ。

レーヌは甘んじて受けるしか無かった。


(それでも、私は信じているのです。この愛すべき両王国の民達が、正しい道を自ら選び取って進んで行く未来を)


結界の出口で振り返り、そこから見える景色を目に焼き付けると、レーヌは素早く出口をくぐり抜けて外の世界へと戻って行った。



※※※※※※※※※※


ね?退屈なお話でしたでしょう?

あら、どうかされましたか?

え?

元神様なんて恐れ多い、ですって?!

いやですわ、私、今では何の力も無い、ただのしがない小説家ですのよ。

でも、そうですわね。

なぜ、他の人には知り得ない事を私が知っているのか、という謎は、解けたのではございませんか?

ふふふ・・・・そんなにかしこまらないでくださいませ。

あなたには、今までどおりに接していいただきとうございます。

そして、これからも。

私の愛する両王国のお話に、耳を傾けてくださると、とても嬉しいです。

驚かせてしまったようで、ごめんなさいね?

今日はゆっくりお休みになってくださいな。

そしてまた、元気なお顔をお見せくださいませ。

ごきげんよう。

またのお越しを、お待ちしております。

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