第20話 私:語り部のお話 1/2 ~ギャグ王国にて~


ごきげんよう。

あら、どうかされたのですか?

そのような深刻なお顔をなさって。

え?私にお願い、ですか?

私にできることであれば、なんなりと・・・・

は?

私のお話、ですか?

困りましたわね・・・・私のお話など、そう面白いものでは・・・・

それでも、構わないですって?

ふふふ、おかしな方ですね、あなたは。

そうですわね、ちょうど先日、結界の中に戻って参りましたの、私。

ですので、その時のお話でも、いたしましょうか。


※※※※※※※※※※


「おお、レーヌ嬢。久しく見んかったが、どこぞへでも行っとったのかね」

「ごきげんよう、ミヅハのおじいさま。私は今、結界の外に住んでおりますのよ。今日は用がございまして、戻って参りましたの」

「そうじゃったのか。昔のように、偶にはこのじぃの話し相手にでもなって欲しいものじゃが・・・・」

「はい。また戻って参りますので、その際には、是非」


ギャグ王国内。

時計屋のミヅハじいさんと笑顔で挨拶を交わすと、レーヌはその足で真っ直ぐに城へと向かった。

レーヌの用の相手は、ギャク王国のマイケル国王。そして、ロマンス王国のチェルシー女王。

両王国ともに、自由で開かれた王室であるとは言うものの、さすがに国王や女王へのアポイント無しの謁見は、許されてはいない。

通常であれば。


「あれっ?レーヌ嬢?久し振り!なに、また親父に会いに来たの?」

「あっ、レーヌ嬢!わ~、久し振りだねぇ!でも全然変わってないや!」

「あら、カーク王子にユウ王子。ごきげんよう。お二人ともお元気そうで何よりでございますわ。ええ、おっしゃるとおり、マイケル様に会いに参りましたの。私室にいらっしゃるかしら?」

「うん。いると思う。僕、呼んで来ようか?」

「ご冗談を。一国の国王を呼びつけるなど」

「でも、レーヌ嬢は特別だから」

「いいえ、私の方から参ります。お心遣い有り難うございます。では、失礼いたしますわね」


両王子に会釈をすると、レーヌは真っ直ぐに国王の私室へと向かう。

レーヌの後ろでは、こんな会話が成されていた。


「あれっ?今誰かと話していたような・・・・」

「うん、僕もそんな気がする。兄さん以外の誰かがいたような・・・・?」


マイケルの私室の前でノックを3回。


「マイケル様。レーヌでございます」


ほどなくして、扉が開く。


「レーヌ嬢!久しいな・・・・さぁ、お入りくだされ」


レーヌの顔を見るなり、マイケルの顔に喜びが広がる。

通された私室。

壁に掛けられている亡き王妃リアラの肖像画の前に立ち、レーヌはじっとその肖像画を見つめた。


「お変わりは、無いですか?」

「ええ、もちろんです。お尋ねにならなくとも、レーヌ嬢にはお分かりでしょうに」

「そうですわね」


肖像画を見つめながら、レーヌは言葉を継ぐ。


「それでもやはり、あなたに直接お尋ねしたくなるのです。元気でいらっしゃるか。お変わりはないか。直接、あなたの口から聞かせていただきたいと、思ってしまうのです。私には、全てが手に取るように見えているというのに。・・・・おかしいですか?おかしいでしょうね。笑って下さって構いません、愚かで脆い私を」

「なにをおっしゃっているのですか、レーヌ嬢。あなたに気にかけていただけることは、我らにとってこの上ない幸せ。そのような事は、お分かりでしょうに」

「ですがっ」


肖像画に向けた視線を、レーヌはマイケルへと向けた。

その目には、哀しみの滴が溢れている。


「私の愚かな過ちにより、王妃は命を落としたようなものです。王妃だけではありません。多くの術師達も。あなたは私が憎くはないのですか?」

「レーヌ嬢」


マイケルはレーヌに歩み寄り、そっとその手を取る。


「この王国に、あなたを憎む人間など、誰一人おりません。あなたが我らに与えてくださった力は、我らを守るための力。その力の為に起きた悲劇は、我々人間の愚かさが引き起こしたもの。あなたのせいではありません」


レーヌはこれまで、何度もマイケルに同じ事を問うてきた。

そして。

返される答えは、いつも同じ。


「本当に、この国の民ときたら・・・・」


泣き笑いを浮かべ、レーヌはそっとマイケルの手を外す。


「また、参りますわ。それでは、ごきげんよう、マイケル様」


部屋から出てそっと閉じた扉の中からは、こんな言葉が。


「ん?今、誰かと話していたような・・・・?疲れているのか・・・・?少し休むとするか」


その言葉を後に、レーヌは城を出て、ロマンス王国へと向かった。



※※※※※※※※※※

え?

私の名前、ですか?

そう言えば・・・・今まで名乗りもせずに大変な失礼を!!

本当に、申し訳ございません。

ええ、私はレーヌと申します。

両王国の方々からは、レーヌ嬢とお呼びいただいておりますの。

ですが、結界の外に出てしまえば、私には名前など不要なのです。

なぜなら私は・・・・・

いえ。

このお話は、次の機会にいたしましょう。

それにしても、本当に今まで大変な失礼を・・・・重ね重ね申し訳ございません。

これに懲りずに、どうかまたいらしてくださいな。

それではまた。ごきげんよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る