第32話 愛してるゲーム【奈美編】

 奈美の誕生日から一週間が過ぎたある日のこと。


「ねぇねぇ、誠司君! 愛してるゲームって知ってる!」


 そう言いながら仕事帰りの奈美が少し興奮気味にリビングに入ってきた。


「一応知ってますけど、それがどうかしたんですか?」

「今日ね。マネージャーさんに動画見せてもらったの!」


 手に持っていた荷物を床に置いた奈美は誠司の座っているソファーまでやってくると横に座った。


「そうなんですね」

「もうね、動画見ててきゅんきゅうしちゃった♡」


 今にも一緒にやらない?と言い出しそうだなと思っていたら案の定「やろうよ♪」と言われた。


「その動画見た時から誠司君とやりたいな~ってずっと思ってたんだよね~」


 奈美は瞳をきらきらと輝かせて誠司のことを見つめた。


「だからやってみない?」

「いいですけど、すぐに勝負つくと思いますよ?」


 ハッキリ言って誠司には奈美からの「愛してる」を耐えれる自信はない。

 誠司はすっかりと心のそこから奈美に陶酔していた。

 まぁ、それは奈美も同じことなのだが……。


「耐える自信がないの?」


 奈美やニヤニヤと笑ってそう言った。


「奈美さんは耐える自信があるんですか?」

「う~ん。無理だね!」


 奈美はそう言い切った。


「じゃあ、やる意味なくないですか?」

「耐える自信はないけど、やりたいの! やることに意味があるんだよ! ほら、思い出になるでしょ?」

「まぁ、そうですね」


 後にあの時「愛してるゲームお互い恥ずかしがったね~と」年老いた時に笑いながら語るんだろうなと誠司は頷いた。


「だから、やろ♪」

「分かりました。やりましょう。その代わり三回戦にしませんか? 先に三回照れた方が負けってのでどうです?」

「いいわよ。じゃあ、負けた方は罰ゲームで相手に何か一つ好きなことをしてもらえるってのでどう?」

「了解です」


 ルールが決まったところで二人はじゃんけんをして先攻は奈美に決まった。


「それじゃあ、いくわよ? まずは小手調べね」


 奈美は微笑んで「愛してる」と誠司に言った。

 奈美の「愛してる」に無意識ににやけそうになった誠司は手の甲をつねってなんとか耐えた。


「耐えたわね~」

「ギリギリですよ。じゃあ、次は僕の番ですね」


 誠司は一つ小さくい息を吐くと奈美の瞳を真っ直ぐに見つめて「愛してます」と言った。

 誠司の「愛してる」に奈美は抗うことができず頬をへにゃっと緩めた。


「えへへ。嬉しい」

「奈美さんの負けですよ?」

「あ、しまった!」


 気づいたときにはもう遅い。

 奈美に黒星が一つ付いた。


「悔しい! けど、嬉しい! でも、悔しいから少し本気出す!」


 本気を出すといった奈美は女優の顔になった。

 二回戦目。先攻の奈美のターン。


「私の愛してるに溺れなさい」


 そう言って奈美は誠司の耳元とに顔を近づけると「愛してるわよ」と囁いた。

 耳元で囁くのはずるいだろと思いつつ誠司は頬をゆるゆるに緩めた。


「それ、ありなんですか?」

「もちろんよ! 愛してるを言う以外は細かいルールなんてないもの」

「そうなんですね」


 次は黒星が一つ付いた誠司のターン。

 なんでもありということが分かったので、誠司はどう攻めようかと考える。

(まぁ、やられたことをやり返すのが定石だよな。知らんけど)


「じゃあ、僕の番。いきますよ?」

「絶対に照れないから!」


 誠司は奈美の耳元に顔を近づけると「奈美さんのこと愛してますよ」と囁いた。

 名前付きで愛を囁かれた奈美は照れ不可避のようで先ほどと同様に嬉しそうに頬をへにゃと緩めた。


「名前を呼ぶなんてズルいわ!」

「なんでもありって言ったじゃないですか」


 今まで散々からかわれて来た分をこれから返していこうと思っていた誠司はしてやったりとニヤッと笑った。 

 これで奈美に黒星が二つ付いた。

 あと一つで誠司の勝ちだ。


「こうなったら手段は選んでられないわね」


 そう言って一度立ち上がった奈美は誠司の足の上に座った。

 そして、誠司にぴったりと体をくっつけて上目遣いに「愛してる」と一言ずつ区切りながら言った。 

 さすがにそれを耐えれるほどの精神力を誠司は持ち合わせていなかった。 

 可愛すぎる奈美を思わず抱きしめてしまったほどだ。


「奈美さん。愛してますよ。これからも僕のそばにいてくださいね。というか、離しませんから」


 そのままの勢いで誠司は最後の攻撃をした。

 文字通りそれは最後の攻撃となった。

 奈美はこれまでで一番嬉しそうに頬を緩める。


「私だって誠司君のことを離すつもりはないから安心して♪」


 と、誠司のことを強く抱きしめながら言った。

 もはや奈美は『愛してるゲーム』のことなどどうでもよくなっていた。

 誠司に「愛してる」と言われるたびに子宮は疼き、幸せに包まれていた。

 そもそも奈美にとって誠司からの愛の言葉に照れないというのは不可能なことなのだ。


 誠司が奈美に陶酔しているように奈美も誠司に陶酔しているのだから。

 結局、勝負は最初の一回を耐えた誠司の勝ちとなった。

 そんな誠司が奈美にくだした罰ゲームは『これからもこうしてお互いに愛を伝えよう』というものだった。

 

☆☆☆


 作者はある作家さんのSSで『愛してるゲーム』の話を読んで自分でも書きたいと思った。

 なので、いろんな作品のいろんなキャラで『愛してるゲーム』の話を書いてます(笑) 

 次は響子編です!

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