第28話 奈美さん。響子さん。好きです。これからもよろしくお願いします

 そして、夜なった。

 街中は昼間よりも賑やかになり、花火大会会場にはかなりの人だかりができていた。

 浴衣を着たカップルや家族連れが多く見られた。


「凄い人だな」


 目の前を通り過ぎていく人たちを眺めながら僕は二人がやってくるのを待っていた。

 先に行ってほしいと言われたので、僕は先に花火大会会場に来ていた。

 そろそろ来ること思うんだけど……。

 そう思っていると、何やらあたりがざわざわとしだした。


「なんだ?」


 そのざわつきの正体はすぐに分かった。

 美人姉妹だった。

 響子さんと奈美さんだった。

 浴衣姿の。


「お待たせ~♪」


 白色の浴衣を着た奈美さんが小走りで僕のもとにやってきた。

 そのすぐ後に黒色の浴衣を来た響子さんがやってきた。

 どちらの浴衣にもバラの詩集が施されていた。奈美さんが赤で響子さんが黄色。


 うん。これはざわざわするのも頷けるわ。

 二人ともいつもあまりしていない化粧をしていて、ストレートヘアは浴衣に合わせて結い上げられていた。

 いつも美しい二人だが、浴衣姿の二人さらに美しかった。


「どうかな私たちの浴衣姿?」


 正直言葉に言い表せなかった。

 なので言葉に詰まっていると「ねぇ、何か言ってよ」と奈美さんに腕に抱きつかれた。


「もしかして似合ってない?」 


 奈美さんが不安そうな瞳で見上げてきた。


「い、いや……よく似合ってると思います。綺麗です」

「よかった~。何も言ってくれないから似合ってないのかと思っちゃたじゃない」


 僕が何とか言葉を絞りだすと奈美さんは嬉しそうに微笑んだ。


「誠司。私の浴衣姿はどう?」

「似合ってると思います」

「ありがとう。それじゃあ行きましょうか。とどまってると人が集まってきて大変だし」


 響子さんの言う通り、僕たちの周りにはすでに人が集まりつつあった。

 いくら二人が美人だからってこんなに人だかりができるのはおかしいと思た。


「あの、なんでこんなに人だかりが……」

「まぁ、それはあんまり気にしないことね」


 その口ぶりは何かを隠しているように感じたが、響子さんは僕の手を取り歩き始めたし、気にしないでということだったので、何も聞かなかった。


「あ、私も誠司君と手を繋ぐ♪」 


 そう言って奈美さんは響子さんとは反対の僕の手に自分の手を重ねた。

 まさしく両手に花状態になった僕は会場にいる人たちに見られながら屋台を回ることになった。


「何食べようか?」

「誠司は何か食べたいものある?」


 正直食べ物どころではなかった。

 この視線もそうだが、この後に僕がやろうとしてることを思うと今にも心臓が口から飛び出そうだった。

 昼間はあんなに冷静だったのに、今はガチガチに緊張していた。


「誠司君?」


 何も答えない僕を心配して奈美さんが僕の顔を覗き込んできた。


「は、はいっ!」

「もしかして緊張してる?」

「そ、そんなこと……」

「きっと私たちの浴衣姿が魅力的過ぎて緊張してるのよ。ね、誠司」


 次は響子さんが僕の顔を覗き込んできてウインクをしてきた。


「それもそうね♪ あ、りんご飴だ! あれ買ってもいい?」


 自由な奈美さんは瞳を子供のように輝かせて、りんご飴を売っている屋台へと向かって行った。


「まったくあの子は。お祭りに来ると子供みたいになるだから」


 そんな奈美さん背中を響子さんは微笑ましそうに笑って見ていた。


「それで、誠司。なんでそんなに緊張してるの?」

「そ、それは言えません」

「ふ~ん。そう。まぁいいわ」


 そっけなくそう言うと響子さんは奈美さんの後を追ってりんご飴の屋台に向かって行った。僕もその後を追った。


「わぁ~どれにしよう~」


 りんご飴の屋台には、りんご飴以外にもイいちごやぶどうやパイナップルも売ってあった。そんなフルーツ飴を見て奈美さんはさらにテンションが上がっていた。


「ねぇねぇ、誠司君はどれにする~?」

「ぼ、僕はいちごにします」

「いちごか~。いいね! 姉さんは?」

「私はいらないわ」

「言うと思った。じゃあ、私はりんごにしようかな~」


 奈美さんは店主にりんご飴といちご飴をくださいと言った。

 奈美さんに二つの飴を渡した店主は驚いた顔をしていた。


「はい。誠司君のいちご飴♪」

「ありがとうございます」


 僕にいちご飴を渡した奈美さんは幸せそうな顔でりんご飴にかぶりついた。


「うん♪ やっぱりお祭りに着たらりんご飴食べないよね♪」 

「りんご飴好きなんですか?」

「好きっていうか、お祭りっていったらりんご飴かなって。お祭りに来ると毎回買うんだ~」

「そうなんですね」


「誠司君は? お母様と一緒に来てるときは何買ってたの?」

「あんまり屋台では買わなかったかもです。一緒に花火を見るのが目的だったので」

「そうなんだ。じゃあさ、今日はいろんな屋台を回ろうよ! ダメ?」

「いいですよ。むしろよろしくお願いします」

「じゃあ、決まりね! 姉さんもいいよね?」

「もちろんよ」


 響子さんが頷くと奈美さんは屋台を見渡して「どこから行こうかな~」と呟いた。


「誠司君はどこ行きたい?」


「じゃあ」僕も周りにある屋台を見渡して「射的とか?」と言った。

「だって、姉さん。腕の見せ所ね!」

「私より有紗の方が上手いんだけど」


 そう言いながらも響子さんは乗り気のようで射的の屋台に向かって行った。


「姉さんは射的上手なのよ!」

「そうなんですね」 


 僕と奈美さんも後に続いた。

 射的用の銃を持った響子さんの姿はカッコよかった。上手そうな人の雰囲気が出ていた。


「誠司。どれが欲しい?」

「じゃあ、あのラムネ菓子で」

「了解」


 響子さんは水色の容器に入ったラムネ菓子に狙いを定めると一発で撃ち落とした。


「おー。凄いですね」

「あれは簡単な方よ。はい。次は誠司がやってみなさい」


 響子さんから銃を手渡され、僕は響子さんの隣に立った。

 響子さんの真似をして銃を構えてみる。


「こんな感じですか?」

「そうね〜。もう少し銃を台と平行に持って」


 そう言いながら響子さんは体を密着させてきた。


「後はしっかりと腕を固定。片目で見る方が狙いは定めやすいかもね」


 響子さんの指示に従って僕はキャラメルに狙いを定める。


「撃ってみなさい」

「は、はい」


 トリガーに手をかけて、そのまま引く。

 弾はまっすぐに飛んでいき狙い通りキャラメルの箱に当たり倒れた。


「倒れましたよ! 響子さん!」

「よかったわね」


 僕が子供のようにはしゃぐと響子さんは母親のように微笑んだ。

 ラムネ菓子とキャラメルを受け取った僕たちはそれからいろんな屋台を回った。

 ヨーヨーの屋台に行ったり、わたあめを買ったり、キャラクターお面を買ったり、とにかく三人で屋台を回っている時間は楽しかった。

 それこそ、緊張を忘れてしまうほど。


「あ、そろそろ花火始まりそうよ」

「もうそんな時間ですか」


 僕は名残惜しそうに呟いた。


「何? もしかして、まだ屋台を回りたかった?」


 響子さんがからかうように笑って僕の顔を覗き込んできた。


「そうですね」

「また来ればいいじゃない。これで最後ってわけじゃないんだしさ」

「そうよ♪ 他のお祭りにも一緒に行こうよ♪」

「ですね」


 そんな約束を交わした僕たちは花火を見るために場所を移動した。

 二人が穴場スポットを知っているようで、そこに向かうことになった。

 そこは人気のあまりない高台だった。


「毎年ね。ここで見てるのよ」

「そうなんですね」

「私たちの思い出の場所ね」

「そんな場所に連れてきていただいてありがとうございます」


 僕は二人に向かって頭を下げた。そして、意を決して言う。


「あの、こんな時に言うことじゃないと思うんですけど、二人に聞いてほしいことがあります」

「何?」


 不思議そうな顔をした二人が僕の方を向く。

 四つの綺麗な瞳が僕を見つめる。  

 さっきまで忘れていた緊張が僕の中で暴れ回っている。


「ずっとどうすればいいのかって考えてたんです。お二人が僕に向けてくれている好意にどう向き合えばいいのかって」


 二人が静かに頷く。それを確認して話を続けた。


「そしてそろそろけじめをつけないとと思ったんです」

「けじめなんてそんなの・・・・・・!?」

「奈美。聞きましょう。誠司の言葉を」


 驚いたように声を上げた奈美さんのことを響子さんは静かに制した。

 そうこれはけじめだ。これなら、二人と真剣に向き合っていくための。


「正直今でもなんでこんな僕なんかをお二人が好きでいてくれているのか不思議でなりません。お二人なら僕なんかよりカッコよくて、頼りになって、面白い人と付き合えるはずです」

「そんなこと・・・・・・」

「奈美」


 そんなことの後に続く言葉を僕はなんとなく予想できた。

 本当に僕は幸せ者だ。

 母さんが亡くなって生きる意味なんてもうないと思ってた。だけど、今は違う。


「僕は幸せ者ですね。こんなにも僕のことを思ってくれてる人が二人もそばにいてくれてるんですから。母さんが亡くなって生きる意味なんてないと思ってました。だけど、今は違います。こんな言い方したら重たいかもしれないですけど、お二人のことを僕の中で生きる意味にしてもいいですか?」


 奈美さんがそのルビー色の瞳に涙を浮かべて抱き着いてきた。


「そんなの当たり前! 誠司君が一緒にいてほしいっていうならずっと一緒にいる。生きる意味にだってもちろんしてくれていい。私は誠司君のことが大好きなんだから」


「そうね。私、昨日言ったわよね。いつでも受け入れる覚悟ができてるって。遠慮も気遣いもいらないって。生きる意味? そんなの勝手にしなさい。その代わり私たちも誠司のことを生きる意味にするから」


 そう言いながら、響子さんは僕と奈美さんのことを抱きしめた。


「二人ともありがとうございます」


 僕が鼻をずるずると言わせながら二人に笑顔を向けた。


「僕、二人に釣り合えるようなカッコいい男になりますね」

「何言ってるのよ。もう、十分カッコいいわよ」

「そうね。誠司は十分カッコいいわよ」


 二人にカッコいいと言われたところで一発目の花火が夜空に上がった。


「奈美さん。響子さん。好きです。これからもよろしくお願いします」


 花火の音で二人には聞こえないように。花火が上がった瞬間にそう言ったのだが、二人の耳にはしっかりと届いてしまったようで、


「私も誠司君のことが大好き♪」

「愛してるわ♡ 誠司♡」


 両耳に愛の言葉を囁かれた。

 その後は三人でベンチに並んで花火を見上げた。

 そして別荘に帰った後、僕たちは・・・・・・。


☆☆☆


 何をしたのかはご想像にお任せします笑


 一旦ここで完結です!


 とうとう二人に気持ちを打ち明けた誠司。

 さぁ、この後どうなるのか?

 引き続きお楽しみいただけると嬉しいです✨

 よろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る