第22話 私たちも楽しいことしよっか♡ せーじ♡

 広々とした空間の真ん中に大人数でも座れる大きなテーブル。天井には煌びやかなシャンデリア。数人で料理しても余りあるダイニングキッチン。十人くらいが座っても余裕そうなソファー。壁には絵画と大型テレビ。本棚には本がびっしりと詰まっている。部屋の奥には二階に続く階段やバスルームやトイレがあった。


 庭もついているらしく、その庭には大きなプールが設置されていた。

 別荘内を見渡していると響子さんと己龍さん以外にもう一人女性の人がいた。


「奈美さん。あの人は?」

「あの子は有紗ありさちゃん。あの子も姉さんが毎年呼んでいる人よ」


 てことはあの人も響子さんが信頼している人ってことか。

 そう思いながら有紗さんのことを見ていると目が合って、ぺこっと頭を下げられた。 

 ぴしっと背筋を伸ばした有紗さんは己龍さんのもとへと歩いて向かった。 


「有紗ちゃんに目移りしたらダメだからね!」

「しませんって」

「ならいいんだけど。ま、有紗ちゃんは己龍さんにしか興味がないから大丈夫か」

「あの二人ってそういう関係なんですか?」


 僕は二人のことを見た。 

 己龍さんは少し顔を引きつらせて笑っていて、有紗さんは幸せそうな笑みを浮かべていた。


「う~ん。私たちと同じ関係じゃない?」

「というと?」

「片思い中かな♪」

「そ、そうなんですね」

「そうよ♪ 私が誠司君に片思いしてるみたいね♪」


 本当に遠慮をする気が無くなったようで、奈美さんは己龍さんたちがいるにも関わらず僕の腕に抱きついてきた。


「ほら、二人ともイチャイチャするのは後にして、昼食の準備を手伝いさない」

「は~い! 今行く~」

「分かりました」 


 僕は荷物をソファーのそばに置くと、響子さんのもとに向かって昼食の準備を手伝うことにした。

 女性陣はキッチンで食材の準備。男性陣は庭に出て火起こしをすることになった。

 お昼ご飯はバーべキューだった。


「さて、火起こし頑張りますか」

「よろしくお願いします」

「おう! よろしくな」


 己龍さんは慣れた手つきで火起こしを終わらせた。僕がやることはほとんど何もなかった。


「にしてもいい天気だな~」

「ですね」

「海気持ちよさそうだな」

「己龍さんは泳ぐの得意そうですね」


 火起こしが早々に終わった僕たちはプールに足を付けて雑談をしていた。


「得意だな。誠司は?」

「僕は苦手です」

「教えてやろうか? せっかくプールもあるし」

「いや、いいで・・・・・・」


 バチャーン!

 急に己龍さんに背中を押されて僕はプールの中に落ちた。


「い、いきなり何するんですか!?」

「あはは、気持ちいいか?」

「『あはは、気持ちいいか』じゃないですよ! ビックリするじゃないですか!」


 僕をプールに落として楽しそうに笑っている己龍さんはスーツを脱ぎ始めた。

 どうやらスーツの下に水着を着ていたようで、上半身裸で水着姿になった己龍さんはプールに飛び込んできた。

 バチャーンと水飛沫が舞う。


「うわぁ!」

「おー冷たくて気持ちいいな!」


 水面から顔を出して濡れた髪の毛をかきあげる仕草が妙に色っぽい。

 男の僕でもその仕草に少しドキッとした。


「誠司も服脱げよ。そのままだと泳ぎづらいぞ」

「無理ですよ。僕は己龍さんみたいに服の下に水着を着てないんですから」

「あ、マジか。それはごめん。てっきり着てると思ったんだよ」


 己龍さんは申し訳なさそうな顔をして、顔の前で手を合わせて謝った。

 

「まぁ、いいです。着替えればいいだけなので」


 そう言って僕は服だけ脱いだ。

 流石にズボンは脱げないけどな。


「悪かったな。で、どうする? 泳ぎの練習するか?」

「いや、いいです。どうせ泳ぐ機会もないので」

「てことは、姉御たちが海で溺れても見捨てるってことか?」

「それは、話が飛躍しすぎでは?」

「分かんねぇだろ。人生は何が起こるか分かんねぁんだから」


 たしかに、二人が海で溺れる可能性もあるのか。

 この後も海で泳ぐかは分かんないけど、海に入るだろうし。


「分かりました。じゃあ、少しだけ」

「おう! そうこなくっちゃな!」


 己龍さんはノリが軽いというか、フランクというか、まるで友達のような感じで接してくれていた。

 僕に気を遣わせないためだろうか。


「じゃあ、まずは軽く泳いでみるか」

「は、はい」


 すいすいと泳いでいく己龍さんの後を僕はゆっくりなクロールで追いかけていった。


「も、もう無理」


 己龍さんの半分も泳げずに僕は顔を上げた。


「まぁまぁだな」

「己龍さん泳ぐの早すぎです」

「そうか? これぐらい普通だろ」


 ニカッと笑った己龍さんの真っ白な歯が夏の日差しに照らされて眩しかった。

 そんは眩しい笑顔を見ていると突然「己龍!」と大きな声が響き渡った。


「は、はいっ! 姉御!」


 その声の主の響子さんに名前を呼ばれた己龍さんはピーンと背筋を伸ばしてきをつけをした。


「あんた何やってんのよ。誰がプールに入って遊んでいいって・・・・・・」


 プールサイドまで歩いてきた響子さんと目が合った。

 その視線は僕の顔から上半身へと舐めるように這っていった。そして頬を徐々にゆるゆるに緩めていくのが分かった。

 おそらく僕の上半身を見ている。

 そう意識した瞬間に僕の顔は熱を帯びる。そして、響子さんの視線から逃れるように後ろを向いた。


「誠司の・・・・・・裸♡」


 響子さんが静かに僕の名前を呟いた。

 嫌な予感がする。


「姉御?」

「己龍。誠司のことを捕まえときなさい」

「えっ・・・・・・」

「了解っす」


 そう言って響子さんに敬礼をした己龍さんに僕はガッチリと腕を掴まれた。


「き、己龍さん?」

「悪いな。姉御の命令は絶対なんだ。だから、姉御がいいって言うまで大人しく捕まっていてくれ」

「そ、そんな・・・・・・」


 抵抗しても己龍さんからは逃れられないだろうか。 

 腹筋なんて綺麗に六つに割れてるし、無駄の一切ない筋肉のつき方してるし、その体の至る所に戦いでできたと思われる傷もある。

 僕の腕を掴んでいる力も強い。とてもじゃないが僕の力では振り解けそうになかった。


「それにしても、誠司はよっぽど姉御に気に入られてるんだな。あんな乙女の顔をした姉御を見るのは初めてだ」

「乙女の顔・・・・・・」


 僕には何かを企んでいる顔に見えたけど、己龍さんにはあれが乙女の顔に見えたらしい。

 そんな響子さんはいつの間にか別荘の中に戻ったのかいなくなっていた。


「あれは間違いなく乙女の顔だ。誠司も面倒な人に好かれたな」

「誰が面倒な人だって?」

「あ、姉御っ!」


 いつの間に戻ってきたのか響子さんはプールサイドに立っていた。

 しかもその隣には奈美さんと有紗さんが立っていた。水着姿で。


「己龍。あんたにはお仕置きが必要なようね」

「や、やめてください!」

「有紗。己龍の相手をしてあげて」

「響子様の仰せのままに。清太郎君。いっぱい楽しいことしようね♡」

「断る!」


 己龍さんは僕の腕を離すと有紗さんから逃げるようにプールから上がっていった。


「さて、邪魔者はいなくなったし、私たちも楽しいことしよっか♡ せーじ♡」

「そうね♪ 楽しいことしようね誠司君♪」


 美人姉妹二人はそのおっぱいを見せつけるように前屈みになった。

 そして、そのままプールに飛び込むと綺麗な泳ぎで僕の元までやってきた。

 水色の水着の奈美さんと黒色の水着の響子さんに挟まれた僕。

 この後僕は二人にめっちゃくちゃからかわれた。


☆☆☆


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