第23話



 エイミーの裁判は、王の国葬の翌日に行われる事となった。


 リンゼは国葬に参列しながらも、国王の最期に立ち会えず、牢獄にいるエイミーを想って、胸が痛んだ。


 眠る国王の棺にせめてもと、侍女に頼んでエイミーの庭で育てた大量の花を摘んできて貰い、国王の顔を飾った。


 国王が好きだったイベリスの花で。

 国王はこの花がエイミーの様だといつも言っていた……。





 ――そして、国葬が終わった時、ジミルの父、最高裁判長から思ってもみない事を言われた。


 「明日の検察官はジミルがする事になった」と。


「な、何故ですか……?」


 最高裁判長は、口を噤み心苦しい表情をしている。

 何か言いたそうで、でも、ユリア王妃の視線を感じているせいか「とにかく」と話を続けて、


「王妃の御指名だ。儂に拒否権は無い。……息子は本気でお前とエイミー様に挑むつもりだ。覚悟していなさい」


 と告げて、逃げるように去って行く。


 何故――?

 ジミルを検察官に起用して、何のメリットがある?


 最高裁判長と語っていたのを見ていたユリア王妃は、リンゼを見てニヤリと微笑んだ。





 その夜。


 明日のための資料を纏めているリンゼの元へ、ジミルが現れた。

 しかしいつもと違って、執務室の中へとずかずかと入って来ず、入口に寄りかかり、ズボンのポケットに手を突っ込んだ姿でリンゼを見つめていた。


「――ジミルっ!

 話は聞いた「近づくな!」」


 ジミルはきつい口調で、歩み寄るリンゼに叫ぶ。

 声に驚き、書類が数枚床に落ちた。


 ジミルの目は怒りの炎をたぎらせて、リンゼを睨みつけている。


「……ジミル?……」


「僕は明日、君を全力で潰す」

「え……」


「いいね、僕はなあなあに裁判をする気は無いから……!」


「ジミルっ! 急にどうしたんだっ! 訳が分からないっ!」


 その目は涙で滲み、何か言いたげなジミルだったが、悔しそうに歯を食いしばって、去って行く。


 ――何故、急に明日、ジミルが……?


 ジミルは本気で潰すと宣言した。

 それは、エイミーがどうなっても良いと言う事に繋がる。


 何故――?


 リンゼは慌てて、手紙を書いた。

 そして、小間使いの少年に手紙を託す。


 リンゼは、少年が去って行くのを見届けてから、夜空を見上げる。


 ジミルの急変。

 きっと何かユリアが絡んでいる。

 けれど、こちらだって戦う準備は整えた。


 明日は、絶対に姫様を助けてみせる!


 そう夜空に誓い、リンゼは手を強く握りしめた。






 そして、運命の日が今、明ける――。


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