第24話 開廷


 ――そして話は冒頭へと戻る。



 光差す法廷にリンゼが入ると、中央の高い位置に設置された席に、イギル最高裁判長のジミルの父。

 その真下に書記官。


 左側の長机には黒いスーツの上に、検察官の潔白を模した法衣をまとうジミル。

 その机より奥に設置された、一段上の席にユリア王妃。


 そしてユリアと対の右側にエイミーが座っていた。


 リンゼはエイミーを見上げた。

 相変わらず、ひっつめた髪に眼鏡。

 やつれて細い身体が更に痩せて質素な灰色のワンピースがゆるゆるだ。

 エイミーもリンゼを見て、口元が緩み、涙ぐむ。

 リンゼは大丈夫と言わんばかりに強く頷いた。


 リンゼは、右側の長机に立つ。

 ちょうど、エイミーの真下の位置だ。


 法廷場はイギルの中で最も大きな第一法廷場を使っている。

 傍聴人はざっと100人を越えている。皆イギルの貴族や富裕層の人間で埋め尽くされていた。


 弁護人のリンゼが入場した事で、ざわざわと雑談が大きくなった。


「静粛に!」


 それを、裁判長が木槌ガベルをガンガンッと叩くと、傍聴席は静まり返り、法廷場が刺さる様な沈黙が流れた。

 

 裁判長は周囲が落ち着いた事を確認すると、宣言する。


「これより、開廷致します。被告人、エイミー・サウラ・イギル。前へ」


 裁判長の言葉に、エイミーは立ち上がり、俯きながら中央の証言台までやって来た。


 ゆっくりと天を見上げるエイミー。


 検察官のジミルも立ち上がり、エイミーの罪を朗読する。


「被告人、エイミー・サウラ・イギルは、一週間前の10月3日の夜半過ぎ、被害者であるアルベルト・ガレッド・イギル国王を国宝である短剣を使い、刺殺した事件です。……被告人、検察官が述べた事実について、何か述べる事はありますか?」


 皆の視線が、弱々しく自分の手を握るエイミーに集まる。


「……私はお父様を殺害などしていません!」


 言いきったエイミーに助言する形で、リンゼは立ち上がり、裁判長に言った。


「裁判長! 被告人には動機がありません!」


 裁判長はリンゼの言葉に頷き、


「確かに現時点では、被告人に動機はありませんが、その動機を立証する物もありません。では先ずは証拠調べを始めます。検察官」


 ジミルは再び立ち上がり、その日の事件を詳しく話し始める。


「被告人はここ数日、酷く傷心していました。理由は待ち望んでいたハンナ国王子との結婚を被害者である父親の一存で破棄されたためです。……被告人と被害者はとても仲睦まじい関係だと思われていますが、それは数年前まで。良好だった親子関係も、最近は数か月に一度会うだけとなり、我儘ばかり繰り返す被告人に手を焼いた国王は東の塔へと幽閉する始末でした。時折、国王の深い慈悲で東の塔へと赴いても、幽閉された事対しての罵倒ばかりで心臓の弱い国王はその度に倒れたり、体調を崩していました。今回も父親の一存で自分の結婚という自由が奪われ、思わずカッとなり、被告人だけが持っている凶器……王位継承者のみが所有出来る神器で、国王の胸を刺したと思われます」


 リンゼとエイミーはジミルが述べる陳述に、目を見張った。


 何故、そんな嘘を並べているのだ。


 全くでっち上げの陳述に、リンゼは思わずユリア王妃を見た。


 素知らぬ顔をして真っ直ぐ傍聴席を眺めるユリア王妃。


 再びジミルと見ると、彼の目に一瞬の動揺はあったが、それを払拭する様に、口を強く結ぶ。自分の行いに間違いは無いと言い聞かす様に。


「裁判長、異議があります。この陳述には事実と反した箇所が複数あります!」


 リンゼは素早く、ジミルの陳述に矛盾がある事を告げた。

 するとジミルは、


「裁判長、弁護人は被害者と親しいの間柄でした。彼が被害者の事実を認めたくないあまり、そう述べる事はこちら側としては想定内です。私の陳述には証人が居ますので、お呼び致します」


 そう言って、ジミルの証人として出て来たのは、ジミルの姉であり、エイミーの侍女のジルフィーヌだった。







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