第5-6話 二人目の四天王はキンクリです(前編)


 ドシュッ!

 ドゴォ!


 闘気を込めたフレイルの一撃が、骸骨戦士どもを粉々に吹き飛ばす。


「ははっ! 行ける、行けるぞぉ!!」


 あれだけ感じていた頭痛も胃の痛みもきれいさっぱり消え去っている。

 貴族勇者レナードは絶好調だった。


「パワーアップしたオレサマの力があれば四天王など鎧袖一触よ!」

「そうすれば皇帝陛下もオレサマが勇者候補筆頭であると認めざるを得まい!」


 ブオッ!


 レナードがフレイルを振り回すと、鎖の部分が赤く輝き大きく伸びる。


 ズドォオオオオオッ!


 フレイルの鉄球が、魔法を使おうと前に出てきたリッチの一団を叩き潰す。

 武器が勇者らしくないのが唯一の不満だが、成果を出せば皆も認めてくれる。

 虚栄心に取りつかれたレナードは戦場を突き進む。


「塔の攻略などまどろっこしい!

 一気に四天王の居城を落としてやる!」


「ぼ、ぼっちゃ~ん!」


 回復アイテムを持たせた使用人パーティメンバー共が必死について来るがどうでもいい。

 赤い旋風と化したレナードは、マッディの居城を守るべく集結したアンデッド軍団を蹂躙していく。


「城を守る魔法防壁など、このフレイルに掛かれば……ん?」


『ゲヒヒヒヒ……ずいぶん好き勝手してくれるな』


 ズオオオオオオッ……


 レナードの目の前で、どす黒い瘴気が渦を巻く。

 瘴気の中から現れたのは、漆黒のローブを目深にかぶった魔王軍四天王第三柱のマッディだった。


「お前は確か四天王の……ふん、大将自らお出ましか」

「オレサマのフレイルのサビにしてくれる!」


 大ボスが自ら殺られに出てきてくれるとは!


 オレサマにも運が巡って来たようだ。

 マッディの序列は第三柱とはいえ、1000年以上魔界に君臨する魔王軍の重鎮である。

 コイツを倒せば、勇者ルクアを上回る戦果を上げたことになる。


「はははは! 貰った、貰ったぞおおおおおぉぉ!!

 オレサマのために死にやがれ!」


 ブオン!!


 あらかじめチャージしていた闘気をフレイルに纏わせる。

 魔法主体で戦うマッディには躱せない必殺の間合い。

 レナードは自らの勝利を確信していた。


「必要なデータは取れた。

 お前はもう用済みじゃな」


 ぱちん


「……えっ?」


 マッディがその枯れ木のような指を鳴らした瞬間、レナードのフレイルを覆っていたオーラが消失する。


 ガコンッ!


 ただの鉄の塊と化した鉄球がマッディを直撃するものの、マッディの身体は微動だにせず、何のダメージも受けていないようだ。


「ば、馬鹿なっ!?」

「あれだけ満ちていた力が……貴様、一体何をしたあああああっ!?」


「ふん、下賤な者の魂は買い手すらつかんな」

「……死ぬがよい」


 ブアッ!


「ひいっ!?」


 ローブから突き出されたマッディの右腕が紫色に輝く。



 ***  ***


 同時刻。

 戦場近くの小高い丘の上。

 ポチコに跨ったルクアと俺はマッディとレナードの戦いの行方を見つめていた。


 フェルとポンニャは周囲への影響を考え、上空に待機してもらっている。


「やはりな……フェル、マッディはお前の耐性偽装に気付いている」


 俺は上空のフェルに向けて通信魔法を使う。


『マジですか!? いくら魔界宰相と呼ばれたマッディとはいえ、余の完璧な偽装を見破れるはずが……』


(これは【属性反転】か?)

(いや、少し違うな……魔界の住人にこのスキルは使えないはずだ)


 恐らく、マッディはレナードの攻撃属性を一時的に”女性”に変えることで、フェルの属性偽装を見抜いたのだろう。

 俺のスキルは世界唯一であり、神が与えた奇跡だと姉さんは言っていた。

 俺と似た力を持つマッディ……ヤツは危険だ。


 俺は脳内で修正プランを組み立てると、ルクアたちに向き直る。


「ラン、次はどうすればいいの?」


「そうだな……レナードのヤツを助けて恩を売るぞ」


「え? 四天王を倒しちゃっていいの?」


 不思議そうな表情を浮かべるルクア。

 マッディを倒してしまうとポンニャを除くと四天王はあと一人。

 ”時間稼ぎ”に支障が出るんじゃないかと思ったのだろう。


 だが、俺には考えがある。


「ああ、そろそろ次の四天王を倒してもいい進行具合だしな。

 ただし、適度に苦戦しながら最後は一撃で……に見せつけてやれ!」


「じゃあいくぞ、【属性改変:エビルスレイヤー】!」


 彼女の得物である、身長を遥かに超える槍が金色に輝く。


「うおおおおおっ! 漲って来たっ!」

「ラン、あとでいっぱい褒めてね!」


 彼女が大地を蹴って飛び出していった直後、フェルから通信魔法が届く。


『ランさん! 次はどうすればいいですか?』


「立て続けに四天王が斃されれば、人間たちは調子づくだろうしお前の軍勢は動揺するだろう」

「一度派手なイベントで引き締めるべきだ」


「”突如敵の軍勢が王都を襲う!” これで行こう」

「ただし、与える被害は最小限に!」


「いくぞ、【認識改変:爆発エフェクト10倍】!」


『らじゃーですっ!』


 通信魔法に使う水晶球の中で、フェルが了解のサムズアップを返す。


『ポンニャ! ポンニャは何すればいいにゃ!?』


「……王都を攻撃するフェルの背後でずもももんと巨大化しておけ」


『うおおおおおっ!? 伝説の裏ボスムーブ、かっこいいにゃん!』


 ポンニャが嬉しそうにひらひらと踊る。


「……ふぅ」


 彼女達がそれぞれの目的地に向かったことを確認し、俺は大きく息を吐く。

 勇者と魔王の冒険譚もいよいよ中盤……ここが踏ん張りどころである。

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