モブ村人俺、魔王と勇者を従え黒幕になる ~【究極属性付与】スキルで助けてあげたら彼女達は俺に夢中です。なので二人が戦わなくて済むよう八百長する事にした~
第5-7話 二人目の四天王はキンクリです(後編)
第5-7話 二人目の四天王はキンクリです(後編)
(嫌だ嫌だ! 死にたくない!)
グランリッチであるマッディの手のひらから膨大な魔力がほとばしる。
アレが直撃すれば自分の身体などチリ一つ残らないだろう。
有力貴族の跡継ぎとして生を受け、魔王の降臨が迫っているからと勇者候補として育てられてきたレナード。
家とスポンサーの期待を一身に受け、努力してきたオレサマの英雄譚がこんな所で終わって良いはずがない……!
それも、ぽっと出の田舎勇者ごときに勇者候補筆頭の栄誉を攫われるなど……!
くそっ、くそおおおおおおおっ!!
どんなに歯を食いしばっても、目の前に迫った残酷な運命を変えることはできない。
覚悟を決めたレナードが目を閉じた瞬間。
ドンッ!
「な、何じゃ!?」
「わ、ワシの腕がああああっ!?」
閃光一閃。
空から降り注いだ光がマッディの右腕を吹き飛ばす。
すたっ
「勇者レナード殿、御無事ですか?」
「なっ!? 聖槍のルクア!?」
さらさらとそよ風になびく黒髪。
空を覆っていた密雲が途切れ、差し込んだ日光が傷一つないラメラー・アーマーに反射しキラリと光る。
「行くよ! 神狼!」
ウオオオオンッ!
世界の救世主と呼ばれている勇者候補筆頭、聖槍のルクア。
聖槍ゲイボルグの穂先は金色に輝き、強力なエンチャント魔法が掛かっている事がわかる。
彼は傍らに控える銀狼に一声かけると、右腕を吹き飛ばされ片膝をついているマッディを横目に見ながら大きくジャンプした。
*** ***
(う、うおおおおおっ!?)
(今の登場シーンは完璧だったよっ! わたし、本当に伝説の勇者みたい!!)
(わふわふわふ~~んっ!!)
勇ましく駆けだしたルクアとポチコ。
尻餅をついて腰を抜かしているレナードからは見えないが、彼女達の表情は緩み切っていた。
志を同じくする勇者候補の危機に、さっそうと駆けつける黒髪のイケメン勇者と美しい神狼。
そのまま伝説の英雄譚の挿絵に使えそうなシチュエーションに彼女らのテンションは上がりっぱなしだ。
(えっと……最初はわたしたちの力を見せつけるように雑魚掃除だよねっ!)
「フォーメーション、ミストラル!!」
ばんっ!
ぐぐっ、と聖槍ゲイボルグ(イミテーション)を握りしめたルクアは、今適当に考えた作戦名を叫ぶとポチコの背に両手をつくと反動で大きく右にコースを変える。
彼女の意図を正確に把握し、頷いたポチコもその反動で左側へ。
「ナ、ナンダト!?」
そこには、主君を助けるため敵を包囲殲滅しようと展開していた骸骨戦士の大群がいた。
まさか少ない戦力を分散するとは思っていなかったのか、彼らの動きが乱れる。
「”認識改変”……部分解除!」
「行け! ポチコ!」
どこからか男の声が聞こえた瞬間、驚くべきことが起きた。
ズモモモモモ……
ガオオオオオオオンンッ!!
二回りほど巨大化したポチコは大きく口を開き、漆黒のブレスを吐きだす。
ブワワワッ!
闘気と魔力が混じり合った破壊の濁流は、左翼の骸骨戦士たちを跡形もなく吹き飛ばす。
「やるねポチコ、わたしも負けないぞっ!」
「究極奥義、ルクアスクライド・絶っ!」
ズガアアアアアアアアアッ!
ルクアが右手に構えた槍が纏う黄金の闘気がひときわ輝き、闘気の渦が右翼の骸骨戦士たちを粉々に粉砕する。
「……ふむ、やはりポチコの方が見栄えするな」
「ええ~っ!? ラン、ひどいっ!」
わふん!
数百体はいた骸骨戦士を殲滅し、ルクアたちは上機嫌だ。
*** ***
「ば、馬鹿な……あれだけの敵を一撃でだと!?」
腰が抜けたままのレナードは、目の前で繰り広げられた勇者候補筆頭の戦いぶりに改めて衝撃を受けていた。
(勇者の力も勿論だが、あの狼はいったい?)
(それに……あの男だ)
レナードの視線が岩陰に身を隠すランジットの方を向く。
勇者候補ルクアに付き従う目立たない付与魔術師。
勇者ルクアのサポートとは名ばかりの、売名目的のつまらぬ奴と思っていたのだが。
自分の事を棚に上げ、ランジットを睨みつけるレナード。
(ヤツはただの付与魔術師ではない?)
(それにこの違和感は……はっ!?)
レナードの視線がランジットとルクアを交互に行き来する。
その瞬間、天啓なのか悪魔の囁きか……レナードの脳内に電流が走った。
*** ***
(キヒヒヒッ……いったん仕上げじゃな)
()
尻餅をついたままポカンと虚空を見上げるレナード。
彼の瞳の輝きを確認したマッディは、満足そうに笑みを浮かべる。
「……ふん! たかが骸骨戦士どもを倒したくらいでいい気になるなよ、小僧?」
ブアッ!
どこか芝居が掛かった仕草でローブを脱ぎ捨てるマッディ。
ローブの下の貧弱な身体には、邪悪な紋様が描かれた魔獣の骨が絡みついている。
「あれは……魔獣ベヒーモスの骨っ!?」
「左様……ワシが若い頃に使役した魔獣でな?
ワシの魔界一と言われる魔力と永遠の命を支えているのじゃよ!」
「そこのヘルハウンド風情で敵うかのぉ?」
ブアアアアアアアアアアアアアアッ!
マッディの全身から、膨大な魔力が立ち上る。
*** ***
「ば、馬鹿なっ! これほどの魔力……まさか魔王すら超えるのか!?」
雑魚敵を一掃された後、奥の手を見せる四天王。
吹き上がる強大な魔力に焦りの表情を浮かべる勇者ルクア。
……うん、演出としては安直だが効果は完璧である。
魔王フェルーゼからマッディの秘密を聞いていた俺にとっては予想の範疇だ。
もちろんルクアとポチコに対策は授けてある。
「ルクア、ポチコ! いったんヤツから距離を取れっ!」
「了解っ!」
ガオンッ!
マッディはフェルの耐性偽装に気付いている。
ならば、ルクアの事も感づいていると考えるのが自然だろう。
俺たちはそいつを逆手に取る!
「……ヘルモード459」
ブオン!
「くっ!」
マッディの左手から放たれた漆黒の魔力球を、ギリギリでかわすルクア。
「無駄じゃ無駄じゃ! ソイツは地獄の底まで付いてゆくぞぉ!」
ギュンッ!
「!?」
魔力球は空中で鋭角ターンすると、がら空きの背中を狙う。
しまったという表情を浮かべるルクア。
だが、流石に勇者ルクアである。
とっさに身体をひねり、右腕に持った聖槍ゲイボルグの柄を魔力球の方に向ける。
バッキイイインンッ!
かろうじて魔力球を迎撃する事には成功したが、闘気を込めた穂先に比べ、柄の部分は脆い。
あえなく二つに折れ飛ぶ聖槍ゲイボルグ。
「ああっ!? ボクの武器がっ!?」
「ふん、ここまでのようじゃの!」
ズルッ!!
「なにっ!?」
一瞬生じたスキを見逃すほど甘くない。
吹き飛ばしたはずの右腕を一瞬で再生させたマッディは、間髪入れず巨大な魔力球を放つ。
「ルクア!?」
体勢を崩し、丸腰のルクア。
必殺のタイミング……マッディの醜悪な口元が、笑みを形作るのが見えた。
……さて、そろそろいいか。
俺は勇者候補レナードとそのパーティメンバーが呆然と戦いの様子を見つめていることを確認すると、とっておきのスキルを発動させる。
「ルクア! 剣を使うんだ!!」
(”属性反転”……ルクアの攻撃属性を男性勇者に!)
ここ数か月ひそかに練習していた俺の切り札。
以前は使うのを躊躇していたが、今後の事を考え効果範囲を局限して発動できるよう練習したのだ。
「ラン!!」
とっさに抜き放った聖剣アスカロン(本物)が蒼く輝く。
見た目はエンチャント魔法だが、ルクアの攻撃属性を一時的に男性勇者に変化させる。
「いっくぞ~っ!」
「ルクアスラッシュ!!」
ドンッ!
聖剣から放たれた闘気の奔流が、魔力球を吹き飛ばす。
「!!」
ブオオオオオオッ
叫び声を上げる暇もなく、ルクアスラッシュはマッディを飲み込み……。
ズガアアアアアアンッ!!
直径数メートルのクレーターを残し、四天王第三柱であったマッディの姿は跡形もなく消え去ったのだった。
『ま、マッディ様がヤラレただと……に、逃げろ!』
自分たちの主人が一撃で斃されたことに驚いたのか、散り散りになって逃げ去るアンデッド軍団。
「……ふぅ」
魔界の生き字引と言われたグランリッチの最期。
いささかあっけない気もするが、属性の反転は身体に大きな負担がかかる。
ヤツの防御力自体が大きく落ちていたのかもしれない。
「う、うおおおおお……ダンジョンで拾った剣にこんなパワーが?」
「もしかして凄い武器なの!?」
いや、その剣はフェルが用意してくれた聖剣アスカロンでな?
むしろお前がいつも使っている槍の方が偽物なんだが。
聖剣を掲げ感動に打ち震えているルクアに歩み寄る。
まあルクアの二つ名的に、イミテーションな聖槍も修理してやるか……。
「ん?」
いつの間にかレナードたちの姿が消えていた。
俺たちに助けられたことがそんなに悔しかったのだろうか。
まあ、幾ら奴が帝国貴族でも四天王を二人も倒したルクアの対抗馬にはなりえないだろう。
それより、次はフェルの番だ。
俺は通信魔法をフェルに繋ぐのだった。
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