第5-5話 八百長プロモーター俺、急展開に焦る


「とりあえず、お前に特攻がある武具を回収してきたぞ」


「はぁあああ~っ、疲れたよぉ」


 ドサドサドサッ!


 数か月に及ぶ長期遠征を終え、久々に魔王フェルーゼの私室に戻って来た俺達。

 大量の武器を背負っていたルクアは力尽きたように座り込む。


「お疲れ様ですっ、ランさんルクアちゃん」

「まずは甘~い魔界スイーツをどうぞっ!」


 とんっ


 フィルがテーブルの上に置いたスイーツ?は紫色に輝いている。


「う、うおっ!? なんかうねうね動いてない……?」


「エビルラフレシアの蜜線を新鮮なまま閉じ込めた魔界ババロアにゃん!

 美味しいにゃん!」


「ビジュアルはもう少しなんとかならんのか……美味いけど」


「躊躇なく食べてるし!?」


 スイーツの求道者としては、魔界スイーツに挑戦するのも使命と言えよう。

 舌にビリビリと謎の刺激が残るが、確かに美味い。


「回収できたのは聖剣エクスカリバーに魔剣カオスブリンガー……SSランクの武器ばかりだ」

「お前の大叔父はよほどの収集家だったのだな……って、どうした?」


 ライン王国には適当なAランク武器を戦利品として渡しておいたし、この遠征で3か月近い時間を稼げた。

 俺たちの”八百長計画”にとっては万々歳の成果と言えるのだが……なぜかフェルは浮かない顔だ。


「いえ……ランさんたちの成果は素晴らしいのですが、余には少し気になることがありまして」


 魔界スイーツをもぐもぐこくんと飲み込んだフェルは人差し指を柔らかそうな右頬に当てる。

 悩みがあるときの彼女の癖だ。


「ここ最近、マッディがめっきり居城から出てこないのは先日お伝えしたとおりですが」


 バサッ


 フェルが一枚の地図を机の上に広げる。

 人間界と魔界を網羅した地図で、四天王の居城と周囲を囲む”塔”の位置が記されている。


「ここ最近、ナントカという人間の勇者候補がマッディが管理する”塔”を攻めているのですが……」

「外縁部にある”海”と”空”をあっさりと攻略しちゃったのです」


「……なんだと!?」


 がちゃん!


 聞き捨てならないフェルの言葉に、思わずフォークを取り落とす俺。


 ルクア以外の勇者候補はすべて男。

 実は男性勇者耐性の強いフェルーゼの影響下にある”塔”が、そんな簡単に攻略されるはずないのだが。


「これが偵察ハーピィちゃんが撮って来た魔導写真です」


「!!」


 遠くから撮ったのだろう、ややボケ気味の魔導写真に写っていた”勇者候補”は、思わぬ人物だった。



 ***  ***


「レナード……?」


「あ、わたしたちのサポートに入ってた帝国の……もぐもぐ」

「そういえば、わたしたちがダンジョン探索を終える前にさっさと帰っちゃったよね~?」


 魔界スイーツを頬張ったルクアが首をかしげている。


(馬鹿な……レナードのレベルはそれほど高くなかったはずだ)


 噂ではスポンサーになっているディルバ帝国の巨大企業から提供される多額の献金を使って帝国勇者候補筆頭の地位を得たらしいが……。


「ん? ヤツが使っている武器は……」


 僅かに映っているレナードの得物は剣や槍ではないようだ。

 これはもしや……!?


「くそっ! 俺たちが戻って来た途端、ギルドや王国がやけに積極攻勢を主張すると思っていたら……こういう事か!」


 不吉な気配を感じ取った俺は、勢い良く立ち上がる。


「ら、ラン? いきなりどうしたの?」


「どうされましたか、ランさん?」


「ふにゃっ?」


 わふんっ!!


 いきなり立ち上がった俺に、不思議そうな表情を浮かべるルクアたち。

 ポチコだけが何かを察したのか、勇ましく吠える。


「フェルにルクア……ポンニャも!

 詳しくは後で話すから……今すぐ出るぞ!」


 俺の予想が確かなら、事態は一刻を争う。

 俺は彼女たちの返事を待たず、出撃の準備を始めるのだった。



 ***  ***


「ま、マッディ様!」

「海詠の塔だけではなく風詠の塔まで! あのレナードとか言う人間の勇者は規格外でございます!!」


 極端に照明を落としたマッディの私室。

 アラクネの生き血を発酵させたどす黒いワインを楽しんでいたマッディのもとに、塔の守備隊長であるシニアマミーが慌てた様子で駆け込んでくる。


「……ゲヒヒヒ」

「そしてお前は塔を落とされたにもかかわらず、おめおめと逃げ帰ってきたのじゃな」


「い、いえっ! 我がマミー軍団はまだ健在ですので、反攻の許可を……」


 ドシュッ!


 セリフを最後まで言い切ることが出来ず、右手のひと振りで血煙と化した部下を一瞥する事もなく、興味深げにあごひげをさするマッディ。


「ふむ……まさかと思いが……これは確定じゃな」


 いくらフレイルとはいえ、Aランク以上のアンデッドどもを守備に就かせていたのだ。

 レナードとか言う勇者候補のレベルで簡単に倒せるものではない。


(小娘のくせに小賢しいことをするのう……じゃが、これはワシにとってもチャンスかもしれぬ)

(”その時”が来るまで、しばらく裏で動くとしようか)


「……おい! もうすぐ勇者がここに来るぞ?」

「全軍上げて迎撃の準備じゃっ!」


 一人得心した表情を浮かべたマッディは、ゆっくりと立ち上がると

 代わりの部下を呼び出すのだった。

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