第3-3話 適度な中ボスダンジョンを作ろう
「ポックル族の皆、久しぶりだな」
「!?!?」
「魔王様だ魔王様だ!! もしかして、ダンジョンの新設だポックル?」
魔王フェルと側近のポンニャに連れられて、魔王城の外に出た俺。
由緒正しき魔王城らしく、高さ数百メートルの断崖の上に建っており、しかもその断崖は大きく内側にえぐれている。
歩くこと10分ほど、魔王城が立つ断崖の中腹にその洞窟はあった。
中にはツルハシを持った二頭身の亜人族がたむろしており、フェルの姿を認めると周りに集まってくる。
ギルドの記録で見たことがある……世界各地にあるダンジョン、大きいものでは数十階層はあるそれがどうやって作られているのか長年の疑問であったが、近年の研究でダンジョン作成に特化したモンスターがいることが分かったのだ。
それが彼らポックル族らしい。
「ああ。 近年は魔界資材の高騰により、諸君の力を十全に発揮させてやれなかったが……今回は10階層クラスの迷宮を3基! ムキムキ鉱も沢山あるぞ!!」
「う、うにゃ~っ……フェルーゼ様、重かったにゃん!」
ずずん!
鉱石の山を頭の上に乗せて運んできたポンニャが黒光りするムキムキ鉱を洞窟の入り口に置く。
「おおおおお! これはマカドイーナカ産の高純度ムキムキ鉱!」
「腕がなるポックル! ツルハシが鳴るポックル!」
与えられた大量の建築資材と仕事に、テンション上がりっぱなしのポックル族たち。
その気持ちは俺も非常によく分かる。
「それでは
「御意ポックル! 素晴らしいダンジョンを期待してるポックル!!」
ポックル族たちの様子に満足そうに頷いたフェルは、俺たちを奥の部屋に誘う。
5メートル四方ほどの小部屋の床には、複雑な魔法陣が描かれ、フェルが壁に埋め込まれたスイッチのようなものを押すと、青白い立体映像が部屋の空中に現れる。
「……さてランさん。 この魔法装置でダンジョンの設計図を作ります」
「余も魔王ですので、一通りの魔界ダンジョンデザイン基礎課程は修了しておりますが、せっかくなのでランさんの知見もお借りできればと」
人間ならではの知見か……勇者候補たちを引き付け、時間稼ぎを可能にするダンジョン……俺はギルドの資料で見たダンジョン攻略記録を思い出しながら、いくつかのアイディアを提示するのだった。
*** ***
「ふむふむ……最近は落とし穴・回転床などのパズル要素や、強制エンカウントは敬遠されると……」
「フロアごとにイベントを挟み、奥に待ち受けるボスや財宝の興味を引くのが肝要……勉強になりますっ!」
俺の提案に合わせ、ダンジョンの設計を進めていくフェル。
彼女のしなやかな指先が魔法陣をタップするたび、部屋の真ん中に浮かぶダンジョンの構造図が組み替えられていく。
ズームや回転、ギミックの動作テストが可能な魔法映像の精緻さに舌を巻く。
「最近の冒険者はダンジョンの攻略が面倒だとすぐに帰ってしまうし……オートマッピングに対応しろとうるさくてな」
俺個人は旧来の遊びの無いガチダンジョンの方が好きである。
次の角を曲がると何が待つのか……命を賭けたスリルがダンジョン探索の醍醐味だと思うのだが。
「ハハンだにゃ! 最近の人間族は甘ちゃんだにゃ!!」
無類の不器用であり、手伝えることが無いポンニャが部屋の端でふんぞり返っているが、彼女の言う事には100%同意である。
「むむむ……そうなると時間稼ぎをどうやってさせましょう?」
「ループ構造や一定回数踏まないと先に行けない床などは敬遠されちゃいますよね?」
10階層分のダンジョン……おおよその通路設計を終えたフェルは思案顔だ。
コイツを基本にギミックを仕込んでいくことで完成度を上げるらしい。
「そうだな……できるかは分からないが、ダンジョンに入るたびに各階層の後半部分を変えてしまうのはどうだ?」
「そのたびに手に入るアイテムが変わる……いっそのこと、各階層で同時に挑戦できるのは1パーティのみにするとか」
「これなら挑戦する勇者候補の順番待ちが出来るし、時間稼ぎ的には好都合じゃないか?」
面倒くささと射幸心煽りのバランスを取る……見たことのないタイプのダンジョンだが、彼女の技術で可能だろうか?
ダメもとだった俺の提案に、ぴこん! とケモミミと尻尾を立てるフェル。
「な、なななな……なるほどっ!!」
「先代魔王時代にポックル族の長から提案された”通路組み換えギミック”!」
「低コストで設置できる回転床やループギミックでいいじゃんと放置されてましたが……ランさんのアイディアに使えそうですねっ!!」
「同時侵入制限は”一定回数踏まないと先に行けない床”で実現できそうですし……さすがランさん!! 魔王軍ダンジョン整備卿に採用したいくらいですっ!!」
「それは勘弁してくれ」
興奮して俺の手を取るフェルに苦笑する。
どうやらここ数百年ダンジョンを使いまわしていた魔王軍にはイノベーションマインドが足りなかったようだ。
そんな怪しげなコンサルみたいなことを考えている間に、魔王フェルの手によって俺の提案をふんだんに取り入れた新ダンジョンの設計図が完成するのだった。
「そういえばランさん。
ダンジョンのボスと、クリア時に入手可能な財宝はどうします?」
「そうだな……財宝は四天王に”効くかもしれない”伝説の武具を置くのが定番だろう」
「ボスは……」
ちらりと視線を部屋の隅に移す。
そこではすっかり退屈したポンニャが床に寝転びポリポリと腹を掻きながら大あくびをしている。
イラッ☆
「四天王の影……という事で”シャドーポンニャ”とかでいいんじゃないか?」
「勇者候補は男ばかりだから……ご褒美イベント付きで」
「はいっ! ぐっちょんぐっちょん(ピーーーー)ですね!」
「うむ!」
「ちょちょちょちょ、ちょいあんたら!! ポンニャのコピーを弄ばないで欲しいにゃん!!」
「んふふ~……よいではないか~」
ばばっ!
お仕置きイベントのテストをするのです、とフェルに襲い掛かられるポンニャ。
超ハイレベル魔族同士のじゃれ合いに赤面した俺は思わず目を逸らす。
「……ん?」
空中に展開されたままになっていたダンジョンの設計図に僅かにノイズが走る……赤い光がダンジョンのとある場所に灯ったと思ったら、すぐに消えてしまった。
何だったんだ?
一瞬おかしな挙動が気になったものの、人間を遥に超越するレベルの魔法装置である。
分かるわけないかと思いなおした俺は、魔王様と四天王の少し淫靡なじゃれ合いを堪能することにした。
しょせん四天王であるポンニャが魔王にかなうはずもなく……ご褒美イベント付きの最強ダンジョンが世界各地に設置されるのだった。
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