第23話「代金はしっかり払ったぜ」

 

 ◇ ◇ ◇


「ごほっ、ごほっ。う゛えぇ」

「俺の方に吐くなよ……人の吐き気とか貰うタイプなんだから」

 俺は汚い音を出すガキの背中をさすって、吹っ飛ばした跡地に向かう。

 ちなみにナナマキさんは、既に魔石化している。

 出したままも考えたが、遺体を確認しなくちゃならない。

 濛々と立ちこめる砂塵で前が見えないが、大体の位置へと進むと……。

「あったあった。コイツらだな」

「置いてかないでっ!」

「目を閉じて、俺の服を摘まんで付いて来い。見たらチビっちまうぜ」

 ひっでぇな。ミンチだ。

 ディーノは強い恐怖からか、魔石化されている……ライダーは即死だな、良かった。

 軍属ライダーは好きじゃないが、苦しませる気も無い。

 俺はネバネバしている遺体のボロ服を漁って、お目当てのモノを探す。

 コイツらがE2連合の兵士なら……そう思った矢先、死体から声が響く。

「猟兵第二小隊っ!! 聞こえてんのかっ!! てめぇら、勝手な事を……」

 胸に付けている機械が、緑に点滅している。

 まだ使える通信機だろう。

 昔の知り合いから、使い方を教えて貰った事があった。

 俺はボタンを押して、声に応答する。

「どぉ~も。ライダーギルドでぇす」

「……」

「E2連合か? あん?……こっちからの声届いて無ぇのか?」

 通話先の声が途絶えたな。女の声だから、気になってたんだけど……。

 俺は通信機をガンガン叩いて、女の声が聞こえないかと試みる。

 すると俺の服をつまんでいたガキが、挙動不審に話かけてきた。

「ねぇ……誰か居るの?」

「おう、通話先にな。ただ反応が無ぇなぁ?」

 そう思った矢先に、ポツリと通信機が唸りだす。

 動揺しているのか、その声は震えていた。

「……リージア。リージア=ファナティ」

「あん?」

「ファナ……ティ?」

 俺の名字だ。正確には師匠の名字で、弟子達が名乗る流派の名に近い。

 お兄ちゃんは貴族の娘に婿入りしたから、名字を捨てたけどな。

 あれ……ちょっと待てよ。

「おいお前、何で知ってる?」

「……」

「俺のフルネームを知ってる奴なんて、この大陸にゃ片手の指も居ねぇぞ」

 その大半もぶっ殺している。

 居るのは……まぁ三人くらいだろう。

 俺の質問に対して、通話先の相手は答える気は無い様だ。

 勝手な女軍人だぜ、好きだ。気の強い女軍人ってロマンがあって良い。

「ソチラに敵対した、奴らは?」

「俺の部屋に、弾丸のデリバリーをしてくれた奴らか? 代金はしっかり払ったぜ」

「そう……」

 俺の爆笑ギャグをスルーしやがったな。コイツ。

 首を捻ってると、ガキが俺の服の裾を強く引っ張った事に気づく。

 どうもさっきから、ガキの様子がおかしいな。

 軍人共がまだ居ないか不安なのか?

 一般人が、銃を持った軍人に襲われればこうもなるか。

 正直。怖いって感情が俺には良く分からないから、何とも言えない。

「止めろ、伸びるだろ。そんなに怖いならくっついてろよ」

「そう言って、くっついたら怒るじゃん……」

「男ならなぁ~、ガキでも女なら許してやるよ」

「サイッテェェ……」

「うっせぇ。男なら当然なんだよ」

 女と男。どっちに抱きつかれたいと思う?

 まぁメスガキにゃ、興味は無いけどな。

 男に引っ付かれたら、殺意が湧くだけだ。

「そうそう、それでお前らの事だよ。俺に吹っ飛ばされたの、もう忘れたのか? それとも主義替えでもしたか?」

「そいつらは軍規違反者達よ……どっかの貴族に、金で雇われたってだけ」

「そうかい」

 だから自分達は関係無いって? 俺には知ったこっちゃ無ぇ。

 あるのはE2連合が、俺達に手を出した事実だけである。

 通話先のE2連合からしても、兵士殺しを許す事は無いだろう。

 軍隊ってのはそういうもんで……俺はそういう男だ。

 こりゃ戦争かな? なんて思っていると、続く女の言葉は予想外のモノだった。

「……子供は隣に居る?」

「あん? それがどうした」

「主義替えしているのは、お互い様ね」

 何を言ってるんだコイツ? 俺はロリコンじゃねェぞ……。

 というか何だってんだ。俺について、何か知ってる素振りを見せてやがる。

「アンタも街中で暴れたくはな……い事もないか」

「まぁな」

 この街に思い入れなんざねェし、むしろ兵士共に協力してやがったからな。

 殺す程の事じゃないが、気にしてやる程の事でも無ぇ。

 でも人間は同胞を殺されると、鬱陶しくなるからなぁ。

 なるべく殺す事は控えるが、必要ならしょうがない。

「別にこの街の奴ら、皆殺しにしても構わねェぞ?」

「……」

「おっ、困ってる困ってる。見ろよガキ。コイツ交渉材料探してやがるぜ」

「……挑発しちゃダメだよ」

 ガキがボソボソと、俺の体に引っ付いたまま耳元で呟く。

 俺は面白くて、思わずニヤニヤしてしまった。コントかっつーの。

 最終的に通話先の女軍人は、交渉材料が見つからなかったらしく逆ギレしてきた。

「はぁ……こっちはやっすい税金やりくりして街作ってんのよ? 納税者に被害を出したく無いの。分かる?」

 知らねェよ。でもその啖呵は気に入った。

 声も可愛いしな。言う事聞いてやろう。

 こういうコツコツした積み重ねが、モテモテになる秘訣だ。

 ……モテた事無ぇけど。

「あ~、続けてくれ」

 俺の気の無い返事に、通話先の相手はイライラしている。

 何だよ、頷いてやっただろ?

「明日の正午。そこで会いましょう?」

「いつでも来いよ。でも寝てる間以外な……寝間着まで汚されたら、それこそ俺が世界を滅ぼすぜ?」

 その言葉を、どう受け取ったのかは知らない。

 だが通話から漏れた声には、溶岩よりも粘っこく熱い情念が篭もっていた。

「次こそ、逃げんなよ。クソ野郎」

「あん……ぁっ、お前。マリィちゃんか!?」

 通話が一方的に切られる。

 俺は通信機を睨んで舌打ちをすると、立ち上がった。

 隣ではガキが胡散臭げな表情で、俺を見上げている。

「えぇっ、何なんだよ……」

「リージア。何かしたの?」

「……数年前にE2連合を半壊させて、速攻で逃げたな」

「それじゃんっ!」

「あ”ぁ”!? うっせぇなぁ~ッ!」

 振り返り、ホテルを見る。

 窓から顔を出している、顔を引き攣らせたホテル野郎と目が合う。

 俺が軽く手を振ってやると、そいつは恐怖で顔を歪めながらカーテンを閉める。

 さてと……ホテル代をタダにして貰おうか。


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