第22話「踏み付けの刑だぁああああっ!!」

 

 ◇ ◇ ◇


 俺はほかほか茹だっているガキを懐に抱えて、部屋から窓へ飛び出した!

 飛び出した後で、眼下を確認する。

 一本の道路の左右を挟む様に、店が並んでいる通り。

 簡単な舗装がされた道路には、飛んで来たのだろう砂が散って居る。

 人気の無い街だからか、店の明りも付いていなかった。

 ……ホテル前にも誰も居ないな。ドアボーイもだ。

 家々には何人かの視線を感じるが、立て籠もってるのか?

 俺達の部屋に撃ち込んできた奴を探すと……見つけた。

 道路の反対側に三名の銃手が、店を背にして銃を構えている。

 銀の装飾が輝く白と茶の迷彩服。手には長銃……E2連合の兵士かっ!

 どうやら兵士達三人へ、真っ直ぐ突っ込む形で飛び出したらしい。

「無傷っ!? バケモノめっ!!」

「撃てぇっ!?」

 兵士達が俺の姿を視認すると、やたらめったらに発砲してくる。

 中々良い反応だけど……遅ぇな。コイツらはライダーじゃない。

 降り注ぐ硝子。硝煙の粉。弾丸。その全てがシャボン玉程度の脅威しか感じ無い。

「リージアっ」

「頭引っ込めてろォ!!」

 銃弾が全身に当たる衝撃はあるが、問題は感じなかった。

 こんな衝撃、数千トンの大型怪獣の激突の余波に比べれば小雨も良い所だ。

 コイツらは何で科学兵器が廃れたのか、今だに分かっていないらしい。

 迫撃砲でさえ、千度の炎でさえ。

 俺達ライダーには、生温すぎるってのに。

「てめぇらのッ!」

 俺はガキに迫る注射弾だけを、手首のスナップで弾いて鹵獲する。

 不思議な事に弾丸は、鉛製どころか硝子製の注射針状だった。

 躊躇っている暇は無い。銃弾を放つ兵士達に……返球っ!

 適当に投げた弾丸は、二人の兵士に直撃して貫通したっ!

「血でぇっ!!」

 痛みに硬直した兵士の一人めがけて、両足で頭部に着地する。

 両足が泥にめり込む様に、兵士の頭部を胴体にメリ込ませた。

 ガキの悲鳴が耳障りだが、地面に置く訳にもいかねぇか。

 続いて頭を引っ込めた亀みてぇな死体を盾に、隣に立つ二人目に突っ込む!

 二人目の兵士が銃口を俺に向けるが、引き金は引かれなかった。

 死体に当たらねぇか、躊躇したな?

 良いぜお前。仲間思いは好きだ……殺しやすい。

「軍服を染めてっ、やらぁあああっ!」

 俺の右腕が奔り、盾にした死体の胴体を貫くッ!! 

 それでも貫手の勢いは、止まらないっ!!

 人間サイズの百足に等しい、俺の身体能力ならば止まる筈が無い!

 貫いた腕が、二人目の喉仏に届いた瞬間……。

 弾丸を弾く要領で、スナップを効かせて兵士の首を弾くッ!

 一瞬の抵抗。だがもう二度と抵抗なんて出来ねぇな。

 首を跳ね飛ばした。

「ヒィぇっ!?」

 投擲した弾丸で貫いた、最後の生き残りが尻餅を着いて転ぶ。

 ソレに合わせて……俺は右脚で、三人目の胴体めがけて踏み抜くっ!

 水風船をゆっくり踏んだ事があるなら、分かるだろう。

 ゆっくりと潰れて、次に抵抗が消える感覚である。

 アレの人間大の肉風船を潰した感触だった。

「あ”ぁ”っ!? 俺の脚が汚れちまったじゃねぇかっ!!」

 貫いた右脚が、腿まで真っ赤に血と肉と内臓で汚れる。

 折角、旅塵を綺麗にしたってのによぉ~~ッ!

 見れば俺の上半身の寝間着も、ガラスで裂かれて半裸になっていた。

「ったくよぉ、困るぜ本当……殺しに来るなら、ホテルに入る前にしろよなぁ」

「リ、リージア……」

「おう、ガキ。無事か?」

 俺の声がかき消される。

 首を跳ね飛ばした死体から吹き出した、噴水の様な汚い水音が原因だ。

「……うぷ」

「あぁ、吐くなら後にしとけよ」

「ぇえ?」

 獣臭がする……そうだよな、国家権力が俺を襲撃に来たってなら。

 ただの兵士で終わる筈が無い。

 舌舐めずりをして、俺は視線を彼方へ向ける。

「今回のメインディッシュが来たぜ」

 大通りの突き当たり。T字路の左右から激しい足音がする!

 現われた八体の影は、俺の足元に転がっている兵隊達と同じ軍服を着ていた。

 そいつらは良い。問題は兵士を載せている存在だ。

 体高は二メートル。体長は四メートルはあるだろうか?

 丸々とした胴体で四足歩行……胴体に直接頭がついているフォルム。

 その雄々しさは、誰もが保証する事だろう。

 鼻が顔の半分まで垂れ下がってる、特徴的な猪型怪獣。ディーノだ!

 国家が運用しているのは初めて見た……成程。中々サマになってやがる。

「な、何あれっ!?」

「軍属ライダーだな。ギルドは中立だが、軍人をライダーにしている国もある」

 俺はガキを背中に庇うと、両手を十字に構えて網膜を守った。

 ディーノは速い。機動力はともかく、直線速度は目を見張るモノがある。

 すぐに接敵する……肉弾戦は良くないな。

「俺の背中に隠れてろ!!」

 軍属ライダー共の装備は……さっきと同じ型の長銃。注射針を放つタイプだろう。

 薬物を注入する弾丸だが、そもそも硝子針な意味が分からない。

 怪獣の骨でさえ火薬を使うなら、ライダーの肌には突き刺さらないのに。

「居たぞ!! 目標の奴らだっ」

「ッ、死んでるっ!?」

「そりゃ、殺しに来たんだ。殺されもするだろ」

 ディーノに乗っている軍属ライダー共が、死体を見て叫んだ言葉に返す。

 軍属ライダー共に、俺の言葉は聞こえる筈が無いが反応が返ってきた。

 兵士共は歯噛みと共に、俺に向かって長銃を発砲される。

 銃身横の排出口から、飛び出す蒸気。

 銃口からそれ以上の速度で、放たれる弾丸。

 目標はガキを庇っている俺である。

 弾丸を掴む事は簡単だが、今は視界を塞ぎたくない。

 ガキを庇う俺に、注射針が当たっては背後へと砕け散っていく。

 全身に当たる注射針は、一つも俺の外皮を貫く事は無かった。

「おいっ、待て…・・コイツッ!?」

 ディーノは速い。

 遠くの突き当たりから、あっという間に距離を詰めてくる。

 奴らが走る車道幅は、十メートル程の車道で……隊列は三組三列。

 俺と軍属ライダーまでの距離は、既に五十メートルを切っていた。

 見事なもんだ。良い教官が付いてるんだろうが、既に俺の照準は済んでいるっ!

「お前らはここで死ぬんだよォオオオオ!!」

 左手の薬指。填められたクォーツの魔石から突風が吹き荒れた。

 突風は怪獣の肉体を具現化させる前兆であり、その風力で怪獣の体格も測れる。

 ナナマキさん程になると、いともたやすく細い木でも折れる程だ。

 更に具現化は体の一部が手元にさえあれば、どういう姿勢でも可能である。

 例えば巨体を前方に押し出す形で、尻尾を手元にするとか……。

 高度だって、地表から十メートル上空に出す事もできる。

 自らの末路を悟った、軍属ライダーの表情が恐怖に竦む。だがもう遅い。

「ヒィッ、ハァアアアッ!!」

 ナナマキさんが顕現する。その怒りを瞳に宿して。

 彼女はその節足を軍属ライダーに向けて、真っ直ぐに伸ばす。

 俺の部屋に弾丸の雨をくれたんだ……俺達は攻城矢の雨を、降らせてやろう!

「踏み付けの刑だぁああああっ!!」

 重力に従って、真っ直ぐ落ちる巨体が……八人の軍属ライダー達を呑み込んだ。

 


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