第17話 出会いと進展3

 高校からの卒業後、僕は医学部へ進んだ。そこは地元埼玉県にある私立の医科大学だった。迷いに迷い、揺れに揺れ、考えに考えた結果、医師の道を志すことを、最終的には夢見た。

 高校時代、君歌のことは忘れよう・・・・・・と努力した。だからそれなりに友だちも作り、それなりの淡い恋もした。それは君歌に対する反面教師、悪く言うならあてつけだったかもしれない。努めて明るく社交的に、少なくともいじめにだけは合わないよう、自分を変えた。が、その一方で、医者になると言い続けたものの国立大学に受かるほどの実力は発揮できなかった。言い訳するわけではないが、そこはやはり君歌に裏切られたという気持ちが尾を引き、もしかしたら心の底では“もう医学部なんかに行っても意味がないのでは”と思っていたのかもしれない。最後の踏ん張りが利かなかった。

 だから、男子校での三年間は、ひたすら幻想を追うために存在していた。心臓移植で患者を救う、戦地で銃弾を取り除く、貧困国へ無償ボランティアに赴くという崇高な想いから、キャンパスで白衣を翻(ひるがえ)しながら歩く、女子大との合コン三昧の日々を送る、ナースとセクシャルな体験を重ねるという俗な精神まで・・・・・・、テレビの見過ぎ、妄想を抱き過ぎと思われるかもしれないが、君歌の姿なき後、僕にとって医者を目指すということは、これくらい自分モチベーションを高める必要があった。

 

 ただ、こんなことを言うとひんしゅくだが、進んだからには医者になるしかない。いずれにせよ僕は、実習がはじまると帰宅が遅くなるという理由をもち出すことによって、病院近くに安アパートを借りて、そこで一人暮らしをはじめた。自分の弱さや脆(もろ)さ、そういう部分をきちんと見つめ直し、できれば鍛え直したいという、良く言えば前向きさがあったということかもしれないが、本当のところは単に独りになりたかっただけだった。両親は、医学部に行ったのなら仕方がないということで、一人暮らしを認めてくれた。

 予想されたとおり、医学部だけあって勉強というものを疎かにするわけにはいかなかった。案の定、実習なんかは特にたいへんだったし、すべての科目が必須だった。単位を落とせば容赦なく留年が決定する。それはそれで大きな負担になるので、学生たちは定期試験の及第点をなんとかクリアすべく、それなりの勉強を余儀なくされていた。

 ただまあそうは言っても、一〇代最後のキャンパスライフを満喫させたい。クラブ活動を充実させ、恋だってできればしたい。それはみんなそう思っていた。僕にとっての唯一の趣味は漫画を読んでアニメ映画を観ることだったが、中学から高校にかけてはきっと君歌の影響だろう、そこに音楽鑑賞が加わった。だから“軽音学部”に入った。それははじめての試みで、楽器を手に取ることで僕は夢中になってバンド活動をはじめた。

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