10話 ヴォルフガングの話

「これはどういうことなのでしょう、ポイ先生? 」


美しい銀髪の髪、端正な顔立ち、明るい緑色の瞳。


細身の割に筋肉質な体つき、線が細いと感じさせるその雰囲気はまるで機会のような平坦な喋りかたから来るものだろうか。


アドル先生も平坦な喋り方だが、どこかその言葉には血が通っているように感じる。


だがこのヴォルフガングという生徒には全くもって人間味を感じない。


「こ、これはその…… 」


ポイ先生額から脂汗をかきながら、アタフタとしている。


「ちょ、ちょうどいい時間だな! みんな教室に帰って休み時間だ! 」


そう言うとポイ先生はそそくさと生徒達をなかば強引に教室に連れ戻して行った。


残されたナナリと7組の生徒達は唖然した様子で誰も喋らなかった。


「今日は1組は魔の森での実習だったのでは? 」


その沈黙を破ったのはアドル先生だ。


「そうですね、ただ学校の方で異様な魔力を感じたので、転移してきたのですよ」


ヴォルフガングはアドル先生とは目も合わさず、自身の両手を見ていた。


そしてゆっくりと首を動かすと視線をレイナさんの方へ向ける。


「君名前は? 」


凍てつくような視線が真っ直ぐ見つめられレイナさんは思わず目を伏せる。


「レイナ・クレオと申します」


上目でヴォルフガングの様子を伺いながらレイナさんは質問に答える。


「クレオ家の人間か…… それでナナリとね」


ヴォルフガングは何かを納得したかのように軽く頷くと、今度はナナリの方へ視線を向ける。


「負けたのか」


ヴォルフガングはただ一言そう言った。


だがそれだけでナナリを怒らせるには十分だった。


「私が負けた? レイナに? 」


ナナリの肩が震える。


顔の筋肉が固くなっているのを感じる。


「私は負けてない、7組のやつなんかに私は負けていない!!!! 」


ナナリは聖勢をとり杖を再びレイナさんに向ける。


「もう一度だ! レイ― 」


そう言いかけた時、ナナリは糸が切れたように倒れた。


「ナナリ! 」


レイナさんは思わず駆け寄り、体を抱き上げる。


「ナナリ、大丈夫! 」


ナナリはレイナさんの呼び掛けに答えない。


7組のみんなも騒然とする。


「安心しろ、気を失っているだけだ」


ヴォルフガングは落ち着き払った様子でそう言った。


「何をしたんですか? 」


レイナさんは少しだけ息を荒らげた声で問いかける。


「なんだ? さっきまで本気の殺り合いをしていた相手を心配するのか? 」


「ナナリは私の幼なじみでもあるんです」


「そうか、クレオ家とリスト家がね… 」


おもしろいっとそう呟くとヴォルフガングはゆっくりとレイナさんの元へ近づきナナリの持っていた杖を取り上げる。


「見てみろこれを」


ヴォルフガングがそう言って杖を振ると、杖は粉々に砕け散っていった。


「召喚魔法なんてこの杖が耐えられる訳が無い。つまりあれ程の魔法が使える君にこの程度の杖で挑んだ時点で、ナナリの敗北は決まっていた」


そして一瞬にしてレイナの手からナナリを奪い取るとヴォルフガングが去っていった。


「待っ待ってください! 」


レイナさんは聞いたこともないような大声でヴォルフガングを呼び止める。


「ナナリはどうなるんですか? 」


その質問に彼は振り返ることなく


「5組でありながら、7組の生徒に負けたのだ。それ相応の報いを受けてもらうことになる」


なんだと?


この学校では上のクラスが下のクラスに負けると罰則があるのか。


生徒間で競走意識を無くさないための対策なのだろうか?


「ちゃんとした杖を使っていたら私はとっくに負けています。それに5組のみんなが持っていたシラギの杖の刻印はリスト家のものです。これは私の推測に過ぎないのですが、恐らく私達7組に大きな怪我を負わせないようにナナリがポイ先生にハンデとして提案してくれて、自分を指名するように差し向けたんだと思うんです。だからナナリは私達のことを思って―」


「それがなんだと言うのだ? 」


レイナさんの言葉はその場を凍りつかせたかと思うほどのヴォルフガングの冷たい一言で遮られてしまった。


「いや、だから」


レイナさんはめげずに言葉を紡ごうとする。


「優しいから許してあげてくださいと、そう言いたいのか? 」


「そうじゃなくて―」


「なぜクラスに番号をふられているのか分かるか」


「え? 」


突然の問いかけにレイナさんは困惑する。


「それは冒険者になった時の責任というものを学ぶためだ」


「冒険者の責任…… 」


「冒険者にはF~Sのクラスが存在する。上位クラスになれば多額の報酬や権力をら得ることができる」


ヴォルフガングは向き直り、全体を見回す。


「だが、それは責任を全うした者だけが得ることの出来るものだ。高ランクになればなるほど失敗の許されない高難易度のクエスト任されることになる。上位ランク冒険者とはその緊張感や重圧に耐えながら成果を出す者のことだ。つまり、今回ナナリがやったことは自分より格下のクエストを受けておきながら失敗したという、冒険者にとってあってはならないことなのだ。だからそんな奴この学園には必要ない」


そう言い切るとヴォルフガングは再び学校の方へ向かって歩き始める。


確かにそうだ。


でも、レイナさんの言ったことが本当だとしたら…


「待ってくれませんか? 」


僕は木陰から出てヴォルフガングを呼び止める。




<あとがき>

遅くなってごめんなさい!

できるだけ高頻度にしたいですが、3日に1回がベースです!

水曜日、金曜日、月曜日です!(土日もするかも)

投稿時間は20時です!


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