第3話:平和

早朝。置時計のアラームの音が部屋中に鳴り響く。10秒、20秒と…未だに止むことを知らない時計は、主を起こそうとひたすら鳴り続け……


「うるせぇよ」


やがて、キレた主によって強くスイッチを止められ静かに鳴り止んだ。時計からしたらあんまりである。


そんな時計の不満は蒼真に届くこと無く、無情にも時計への不満はありありと伝わってくる。時計じゃなかったら悪態ラッシュ待ったなしの攻撃ができたが、こいつは時計。何も出来まい。


くそ、時計の野郎…こんな時間に起こしやがって…誰だ設定したやつ!


お前だよ。


何やら声が聞こえてきたが、空耳だな。と思うことにして、取り敢えずベッドから抜け出す。時間に余裕があるのでゆったりと制服に着替え、朝食を取るためにリビングへ向かった。


「あ、お兄ちゃんおはよー」

「おはよ」


リビングのソファで制服姿で座っていたゆなは、俺と挨拶を交わすと、俺が座った椅子の隣に座って笑顔を浮かべた。


「そういえばね〜、今日ね〜」


朝からご機嫌だな可愛い。と感じながら話を聞きつつ、時々相槌や言葉を挟んで朝食のトーストを齧る。


「ゆなは先に食べたのか?」

「うん、ごめんね」

「いいや、別に大丈夫」


それからも会話をしていると、ふと気になった事を訊いてみる。


「あれ、そう言えば親父達は?」


トーストを咥えた状態でゆなに尋ねる。


「あれれ、お兄ちゃん聞いてなかった?お父さん達は今日から出張らしいよ」

「マジで?」

「マジで」


いや聞いてねぇよ…。あのオヤジども、何故俺に言わなかった。


「まぁ、お兄ちゃんはガサツだからね。すぐ忘れるだろうから言わなかったんだよ」


実の妹にそんな風に思われてたんだな、お兄ちゃん泣きそうだよ。悲しい事実を知った俺は心の中で泣きながら無性になってトーストを食べた。



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朝食を取り終えた俺は玄関で靴を履き、立ち止まる。肩に掛けていたバックの中身を探りつつ忘れ物が無いかと確認を行う。


「忘れもんは……ないな」


これで処刑人…ゴホンゴホン、陽香先生に叱られずに済むな。と、その時。視界の縁に影が映った。


「おまたせ、お兄ちゃん!」

「じゃあ行くか」


そう言って正面を向けば制服姿のゆなが微笑んで立っていた。俺達はいつも、二人で登校して学校に向かっているのだ。途中まで同じ通学路だからな。


基本的にはいつも二人で登校してる。…これは余談だが、通学路を通る俺達兄妹の仲睦まじい姿は町内で大変評判らしい。




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あれから、途中までゆなと一緒に通学路を歩いていたが、別れた後は借りてきた猫のように静かになった俺は今、眠気と戦いながら独り歩いている。


(ねみぃ…なんでこんなに眠いんだ)


眠気という名の宿敵と会敵して間もない頃、どこからか不意に誰かの声が耳朶を打つ。


「おーい!蒼真ー!」


俺の真正面から元気に手を振って近づく一人の男が視界に入る。親友の木場だった。


「よ、眠そうだな相も変わらず」

「あぁ、ねみぃ…いつも10時には寝てるんだけどな」


俺の横に並び歩いた木場と会話を交しつつ、歩いていると校門が目に映る。


「お、もうそろか」

「早いねぇ…もっとのんびり行こうよ」


それもそうだな、と。笑いながら答える木場だったが…次の瞬間には何故か顔を強ばらせて冷や汗を垂らした。


「どうした?」


俺の声にも反応しない。何があったん───


「あら?奇遇ね。こんな所で会うなんて…」


────天は私に味方したようね。


俺の疑問を繋ぐ前に優雅に歩いて来る一人の女性が視界に入る。


黒いロングヘアに、整端な顔立ち。桜色の唇は男を吸い込むかのような魅了を持ち、異性や同性をもうっとりさせるその美貌はまるで女神のよう。


優等生、清楚…etc。どの言葉もその女性の前には及ばない。表現し得れない、理外の存在。その碧眼は、己の中すらも見通される錯覚を覚える。


実際、彼女には人の心理を見通す瞳を持っている為それは事実である。だが、それは相手の心理状況に依存する力であり、使い勝手が難しい…。


だと言うのに、その力をまるで手足のように扱い、その美貌と合わせる事によって生まれた美の女神。


才色兼備、頭脳明晰、文武両道、高嶺の花…この学校に置いて最強の異名を持つ美神────


「───蒼葉 美嘉…!!」
















「変なナレーションは要らないわ」

「あ、すんません…」

「何だこの茶番は」















「じゃなくてっ!何勝手に終わる雰囲気なのよ!まだ続くわよ!?」


そう言って俺に身を乗り出して訴えてきた。


「あ、ごめん…ってそうじゃない。なんで美嘉がいるんだよ」

「なんでって…それは、この学校の生徒だからに決まってるじゃない。バカなの?」


そういう意味じゃない。


「違うからな?美嘉、お前異能学園に行ったんじゃ無かったのか?」


俺の問いに何故か「え?」と呆けた美嘉。


「え?」

「いいえ?私異能学園にはまだ行かないよ?行くのは8月からだよ?」


あ、そすか。……って、出てるぞ。という意味を込めて指を指す


「…?あ、ち、違うの!こ、これはまだ寝ぼけてただけだわ!」


一瞬首を傾げたが、徐々に分かったのか顔を真っ赤にさせて否定する。あれ?口調変わった?と思ったそこの君。実はこの美嘉はガワなのだ。自分の理想とする姿を外で演じているんだよ。


家と外ではまるっきり違う人物だから違和感しかないが。


「…オホン。と、所で…」

「ぶふっ…」

「ちょ、何よ!?」


オホンってリアルで言うやつ初めて見た。急に変な事するから思いっきし笑っちまった。


「…むぅ…」


ムスッとした顔で俺を睨む美嘉。これはそろそろやめた方がいいかも。あのムスッ顔をする時はキレる寸前の合図。可愛らしい見た目だが怒れば般若。


俺の目に涙を溜める行為を見過ごすわけにはいかん!


「ごめんごめん」

「まぁ…別にいいけれど」


許しを得た俺は何とか一息ついた…がしかし。未だに黙りを決めてる男に視線を向けた。


「…」


何故か全身バイブスを決めていた。…青いぞ、顔。幽霊かよ。


「…さてと。そろそろ本題に入らせて貰うわよ─────木場く・ん」


語尾に♡が付く勢いなのだが…俺から見たら完全に怒りマークよろしくなんだけど…。


「な、なななんだ!?ど、どした!?」


完全に動揺している木場を他所に詰め寄って肩に手を置く。


「昨日…言ったわよね?生徒会の仕事があるから生徒会室に寄ってって…なのに、な・ん・で…来なかったのかなぁ?」


笑顔。そう、笑顔だ。満面の笑み…女神の微笑みと形容出来るソレは万人を魅了してしまうだろう。


だけど、今回のは人を堕とすよりも脅すの方が合っている。どす黒いオーラが背後から見える。そんな力一体いつ手に入れたんだ君…。


「え、えー…と…いや、ま、待て!ち、違う」

「なーにが、違うのかなぁ?」

「そ、それは……」

「ふふ…」


更に微笑んだ美嘉の笑顔は、一瞬時を忘れる程の魅力を発し…


「お仕置ね」


呼吸を忘れる程の威圧で告げた。



あの後、目も当てられないお仕置をされた木場の凹み具合は幼少期に玩具を壊した時以来の凹み具合だった事をここに記述しておく。



次いでに「正門の前で何やってんだ貴様ら…!!」と、処刑…陽香先生に正門で三人仲良く正座させられ説教されたのは、言うまでもない…。


完全なとばっちりだよ俺。「問題が起きたら何故貴様がほぼほぼの確率で居るんだ…!?」とか、知らないですよ!!


今回は違いますよ!?と訴えた…のに、全く信用されず課題を今日も増やされた。


二人にお詫びとして帰りにスターコーヒー店のフラペチーノを奢ってもらった。美味しかった。





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