第17話 自分以外の人間が寝静まった時にすることは一つだけ(水上飾視点)

 消灯してから、一時間、二時間は経っただろうか。

 部屋主が寝静まったのを見計らって、私は身体を起こす。

 シオさんの起きる気配がないので、私は立ち上がる。


 居酒屋からずっと寝ているフリをしたので、精神的に疲弊している。

 タクさんとシオさんが別れたという話を聴いてから、起きようにも起きられなかったのだ。

 けど有益な情報を手にすることができ、そして、家に来られたのは僥倖だ。

 住所が知れたので、これで家にまた遊びに来ることができる。


「ん」


 物音を立ててしまったせいか、シオさんが寝返りを打つ。

 未だに起きる様子がないので、私は慎重になりながら物を漁る。

 なるべく音を立てずに、2人の今の関係性がどれほどのものか調べたい。

 2人写真や思い出の品があれば、ただのファンとして押収もしたいところだ。

 失敬してバレるようなものであれば、スマホのカメラで写真を撮ってもいい。

 シャッターの消音機能があるカメラアプリを使うのもアリなのかも知れない。


 でも、どうせ連れ込まれるなら、タクさんの部屋に行きたかった。

 寝顔を写真で撮ったり、添い寝したりと、やりたいことがいっぱいあったのに。


 ベッドの下やバックの中など探したけど、特におかしいものはなかった。

 クローゼットの扉を開けると、背後から視線を感じる。


「――――ッ?」


 バッ、と振り向くが、シオさんは寝ているままだ。


 気のせい?


 私はクローゼットを漁っていると、無数の男物の服が出て来た。

 まさか、男装趣味やコスプレ趣味があるんだろうか。

 疑問に思いながら、奥にあったものを取り出して息を呑む。


 男物の上着がビニール袋に入っていた。

 私のキスマーク付きの上着で、私とタクさんが初めて会った時の服だ。

 ゴミに出そうとしているけど、隠すようにクローゼットの奥に置いてある。

 しかも、クローゼットを開けてもバレないように、上から布がかけられていた。

 明らかに、これはタクさんに見つからないようにしている。


 ここにある男性服は、タクさんの私物だ。

 クローゼットに入れて鑑賞でもしているんだろうか。

 どのような用途で使おうとも、シオさんの異常性が浮き彫りになった。


 やっぱり、別れたというのは本当のことなのだ。

 そして、私とタクさんとの仲を嫉妬してシャツを捨てるまでしている。


 タクさんは指輪を外しているし、ここまで束縛されていて窮屈に思っているはずだ。

 私が、タクさんの心をもっと癒すことができたらいいのに。

 もっと傍に居ることができたら、きっとその願いも叶うだろう。


「…………」


 振り返ると、シオさんは横向きになって顔が見えないけどまだ寝ているだろう。

 だから、宣言しておきたくなった。

 私はシオさんのファンでもあるから、横恋慕に葛藤があった。

 でも、恋愛感情じゃなく、束縛する為だけにタクさんを繋ぎ止めるだけに、今の相方という立場を利用しているとなると、話は変わって来る。

 私は、好きな人の為なら、どんな手段でも講じることができる。


「私があなたの代わりにタクさんを幸せにしますね」


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