第51話 学園祭、本番だよ!

 やっぱり、祭りの日は、自然と気持ちが高揚してしまう。


「あー、やべ、何かボッ◯して来たかも」


「バカじゃないの?」


「なあ、千冬。本番まで、少し時間があるから……」


「し、しないわよ、学校でなんて」


「えー、でも憧れるじゃん」


「それは……って、憧れません!」


「あ、森崎さーん」


「ひゃいッ!?」


「そろそろ、始まるから、ユーレイさん、スタンバイよろしくね」


「え、ええ」


「ぷぷ、焦る千冬、おもろすぎ」


「勇太、あとで覚えておきなさい?」


 こんな感じで、俺たちの学園祭は始まった。




      ◇




 我が2年A組のおばけ屋敷は、想像以上に盛況だ。


「おい、メッチャ美人のサ◯コが出るんだろ!?」


「ていうか、森崎だろ!?」


「あの美人でデカパイの!?」


「でも、同じクラスの奴と付き合っているんだろ!?」


「もう、今はそんなの関係ねーから!?」


「楽しもうぜ!?」


 主にエロ男子たちが鼻息を荒くしていた。


「おい、大丈夫か、勇太?」


「何がだ、明彦?」


「お前の彼女、下手すりゃ、逆に襲われるかもしれないぞ?」


「それは……ちょっと、興奮するかも」


「おい、サイコパス」


「嘘だよ、いざとなれば、ちゃんと助けるし。てか、お前の彼女もヤバくね?」


「あかりちゃん?」


「千冬とはまた別の層が鼻息を荒くしているぞ?」


「ああ、うん……まあ、オタクはみんな紳士だって信じているから……」


「……こ、こっそり、あのスカートの中を撮ってやるんだなぁ」


「テメェ、ぶっ飛ばすぞぉ!」


「アハハ、落ち着け、明彦」


 こんな感じで、賑やかに進んで行く。




      ◇




 そして、午後の部。


 ステージ発表の時間がやって来た。


 ちなみに、俺たちの番は最初の方だ。


 漫才でマイク1つで出来ちゃうから。


 他のバンドとか演劇に比べると、準備の手間がかからないし。


「いや~、トップバッターかぁ~、緊張するなぁ~」


「ゆうたん、微塵みじんも緊張感が伝わらないよ~?」


「そういうあかりこそ、随分と余裕だな」


「うん、だってずっと楽しみにしていたから」


 あかりはニコッと笑う。


 ちなみに、今は猫又の衣装から、ラフなTシャツ姿になっている。


「あ、やべッ」


「どうしたの?」


「俺、何だかんだ、緊張しているかも」


「というと?」


「また、シ◯りたくなって来た」


「って、おい! どこが緊張やねん」


「いや、人って生命の危機に陥ると、性欲が増すらしいからさ。つまり、今の俺はそれくらい緊張していて……」


『では、トップバッター、漫才コンビ「勇太とあかり」お願いしまーす!』


「ほら、ゆうたん、呼ばれたよ!」


「おい、あかり」


「なに?」


「ツッコミ、ちょいゆるめで頼むわ。あまり強くされると、興奮で漏れる」


「あは、ゆうたんって、本当にサイコ♡」


 そして、俺たちはステージに立つ。


「「はい、どうも~!」」


 パチパチと拍手をしながら、マイクの前に立つ。


「勇太と」


「あかりです♪」


 観客も拍手をしてくれる。


「夫婦漫才しまーす♡」


「なあ、あかり」


「なによ?」


「てか、お互いに別の彼氏、彼女がいるんだから。夫婦っていうか、浮気じゃね?」


「って、おい! 今それ言っちゃう!?」


「「「「「アハハハハハハ!」」」」」


「あ、ごめん。不倫漫才だ」


「もっとあかんやん!?」


「「「「「アハハハハハハ!」」」」」


 のっけから、観客を温めた。


「ていうか、おたくの彼女さん、学園イチの美少女でしょ?」


「うん、そうだな」


「ぶっちゃけ、みんなから妬まれているでしょ?」


「うん、たぶんな」


「何でずっと笑顔なの?」


「お前と漫才しているからだよ」


「きゃんッ♡……って、浮気やんけ!」


 ベシッ!


「おふッ……気持ち良い」


「って、おい」


「大丈夫、俺は彼女ひとすじだから」


「ちょっと感じといて、説得力が薄いけど……例えばどういうところが?」


「四六時中、彼女のことを考えています」


「お~!」


「老後のことまで」


「って、先ながっ!? それは重いというよりも、ご利用は計画的に!?」


「そう言うあかりさんは、彼氏とどうなの?」


「えっ? あたしは、その~……ラブラブです♡」


「このリア充が」


「いや、そっちの方がでしょ。ていうか、ちょっとみんなに聞いてみない?」


「何を?」


「はい、緊急アンケートでーす! 今この場にいる人で、『勇太もげろ』って思っている人、挙手してくださーい!」


 バババババババババババババババババババッ!


「いや、これ全校みんな敵じゃん!」


「いや、何で嬉しそうに言うの?」


「まあ、ドMだから」


「てか、サイコパスでしょ?」


「否定はしません☆」


「めっちゃキメ顔やんけ!」


 ビシッ!


「おふッ!」


「その反応するのやめなさい!」


「ごめん、ドMで」


「もうええわ!」


「「……どうも、ありがとうございましたー!」」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチ!




      ◇




 正座をしていた。


 目の前には、黒髪美人で巨乳の女がいる。


 腕組みをして、俺たちを見下ろしながら……


「……ねえ、聞いてないんだけど?」


「え、何を?」


「漫才、私のことに触れるって」


「ああ、ごめん。自然と、ああいう芸風になったよ」


「ええ、そうね。随分と、下品な芸風だったわね?」


「そうだよ、ゆうたん。あんな大勢の前で、感じちゃってさ~」


「だって、あかりのツッコミが気持ちいから」


「やん、照れちゃう♡」


 ピキリ。


「……私、常日頃から言っているわよね? 浮気したら……コロスって?」


「あぁ~、惜しいなぁ~。その表情、ユーレイコスのままやって欲しかったわ~」


「勇太、おふざけ言っている場合じゃないのよ?」


 ずいと伸びた千冬の手が、俺の頬をホールドする。


「ひょ、ひょめんははい……(ご、ごめんなさい……)」


「あかりも、中野くんに悪いと思わないの?」


「う~ん……明彦くん、メンゴ☆」


「もっと真剣に謝りなさい」


「あいひゃひゃひゃ!」


「も、森崎さん、俺はそんなに怒っていないから」


「はぁ~、全くこの2人は」


 ようやく俺とあかりを解放した千冬は、ため息をこぼす。


「怒るなって、千冬。そうだ、せっかくだし、打ち上げしようぜ」


「打ち上げ……まあ、良いけど」


「イエーイ、打ち上げ♪」


「じゃあ、隆志と三郎も誘うか」


 こうして、楽しい学園祭は、幕を閉じた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る