第49話 似た者同士

 道着に袖を通すのは初めてのことだから、緊張してしまう。


「そんな固くならないで、リラックス、リラックス」


 女師範の東雲紅葉しののめくれはは微笑んで言ってくれる。


 彼女は私服というか、スポーティーな装いだ。


 もしかしたら、師範らしく道着に袖を通すと、こちらが緊張するからという配慮かもしれない。


「今日は夜の部まで、他の門下生さんは来ないから、マンツーマンで指導できるわ」


「あ、はい。よろしくお願いします」


「ちなみに、夜の部は主に社会人の方ね。夕方を含む昼の部は、主婦の方とか」


「へぇ……色々な方がいるんですね」


「うん。ちなみに、みんな女性ばかりだから」


「そうなんですね」


「まあ、あまり男性と離れて、嫌悪ばかりしていると、社会で生きて行くのが苦しくなるから。その内、男性の門下生も受け入れようかと考えているけど……」


「師範は、色々と考えて下さっているんですね」


「ふふ、ありがとう。それから、師範だと堅苦しいから、名前で良いわよ」


「えっと……紅葉さん?」


「あら、下の名前?」


「あっ、ごめんなさい」


「いえ、良いのよ。その方が、嬉しいし」


「は、はい」


 千冬は年上の素敵な女性を相手に、ドギマギしてしまう。


「じゃあ、まずはストレッチから行きましょう」


「お、お願いします」




      ◇




「そういや、最近のトレンドって、『ヤンデレ』らしいですよ」


「え~、そうなの? でも、ヤンデレって何か怖いイメージだよ?」


「ちなみに、俺の彼女もヤンデレ気質なんだ」


「マジで? ちなみに、彼女のお名前は?」


森崎千冬もりさきちふゆって言うんだけど」


「ちーちゃん草ぁ!」


 あかりがノリ良くツッコむ。


「……って、これだと思い切り身内ネタというか、各方面から叩かれそうだね」


「ああ、そうだな」


「そして、ゆうたんは漫才後、ちーちゃんにころされるね」


「嬉しいけどな、惚れた女にやられるなんて」


「あんたも大概やな」


 ベシッ。


「おふっ……今のツッコミ、めっちゃ気持ちえぇ~!」


「って、感じるな!……あっ」


「どした?」


「ねえ、あたし達の漫才のスタイル……ちょいエロ漫才にしない?」


「ちょいエロ?」


「うん。例えばいまみたいに、ゆうたんがいちいち感じちゃう、みたいな」


「おー、面白そうだけど。キモがられないかな?」


「良いじゃん、ゆうたんはどうせ、キモいんだし」


「おい」


「まあ、たまにすごくカッコイイけど」


「おっ、例えば?」


「えっと~……何だっけ?」


「いや、覚えてないんかい」


「あっ、ほら、ちーちゃんをナンパから助けたんでしょ? かっこいいね~」


「うん、まあ……」


「あれ、浮かない顔して、どうしたの?」


「いや、俺ってほら、NTRもイケる口じゃん」


「うん」


「だから、もう少しだけ、泳がせれば良かったなって……」


「フライングチョーップ!」


「おぅふ!?……きもちえ~!」


「もうええわ!……どうも、ありがとうございました~!」


 あかりが元気よく締めてくれる。


「これ、賛否両論って感じだね」


「ああ、メッチャウケるか、メッチャスベるか」


「滑ったら、地獄じゃない?」


「いや、大丈夫。それはそれで、死ぬほど興奮するから」


「真性エロめ。まあ、頼もしいけど」


「エロと言えば、あかり」


「んっ?」


「明彦とは、週どれくらいでエッチしてんの?」


「って、もうええわ! どうも、ありがとうございました~!」


「いやいや、ネタじゃなくて、普通にトークしてんだけど」


「あ、えっと……週3、4くらいかな?」


「適度なバイトって感じだな」


「どんな例えよ」


「で、どんなエッチしてんの?」


「いや、それは……コスプレとか」


「あ~、あいつオタクだもんな~」


「うん、そう。でもね、最後には、せっかくのコスプレ衣装も、みんな脱がして……『そのままのあかりちゃんが、やっぱり1番かわいいよ……どんなアニメキャラよりも』……って、言ってくれてさ~!」


 バシバシバシ、と俺は叩かれる。


「おうおうおぅ~ん!」


「って、いちいち感じるなぁ!」


「はぁ~、やっぱり俺ら、仕上がっているというか、相性いいな」


「じゃあ、1度くらい、エッチしてみる?」


「おい、彼氏ラブ発言の直後に、クズ過ぎるだろ」


「ふん、ゆうたんには言われたくないよ」


「てか、千冬は今頃、どうしてんのかなぁ? 俺がいなくて、寂しくて、1人でオ◯ってんのかなぁ?」


「明彦くんも、あたしがゆうたんとばかり一緒にいるから、寂しくて、嫉妬して……シ◯ってんのかな~?」


 結局、俺たちは似た者同士。




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