第45話 告白

 楽しかった夏休みも、もうすぐ終わる。


 だから、その前にちゃんと、決着をつけておかないと……


「……ごめんね、明彦あきひこくん」


「えっ……」


 静かな喫茶店にて、テーブル席を挟んで、彼と向かい合っている。


「あたし、君を利用していたの……隆志くんと、三郎くんも」


 自業自得とはいえ、辛い。


 けど、吐き出してしまわないと……それは、自己満足。


 ただ、これ以上、白くきれいな彼らを、黒い自分が汚す訳には行かない。


 あかりは、うしろめたさに苛まれつつも、明彦を見た。


「だから、これ以上の関係は……」


「……知っていたよ」


「えっ?」


「あかりちゃんが、今でも勇太のことが好きで、俺たちを利用していたって」


「だ、だったら、どうして……?」


 目を丸くして聞き返すあかりのことを、明彦はジッと見つめる。


 胸がドキリとした。


「……今年の夏は、あかりちゃんのことで頭がいっぱいで、大事な夏のアニオタイベント、ことごとく逃しちゃったんだ」


「へっ?」


「だから、さ……最後に、責任を取ってくれない?」




      ◇




 彼の部屋にお邪魔するのは、初めてではない。


 けど、2人きりなんて、初めてだから……


 相変わらず、アニメグッズで埋め尽くされている。


「えーと……あった、コレコレ」


 彼にとっての宝の山から、何かを掘り当てたようだ。


「はい、これ」


「これって……衣装?」


「うん、コスプレ用。着てみて」


 元より、あかりはノリが軽い性格。


 だから、本来なら苦じゃないのだけど……


 今この場においては、色々な感情がい交ぜになって、躊躇してしまう。


「お願い、あかりちゃん」


 けど、彼の純粋な瞳にほだされて……


「……ちょっと、向こうの方を向いていて」


 ゆっくりと、服を脱いでいく。


 衣擦れの音がするたびに、こちらがドキドキしてしまう。


 まあ、どうせ、起伏に乏しい自分の体なんて、親友ほどの魅力はないだろうけど……


「……出来たよ」


 ゆっくりと振り向いた彼は、目を見張った。


 今のあたしは、ネコミミの魔女っ娘だ。


「……ピッタリだね」


「うん……変態くん」


「ご、ごめん……でも、あれだけカラダを重ねれば……」


「エッチ」


「ご、ごめんなさい……」


 彼はうなだれる。


「……ねえ、これからどうするの?」


 あたしは小首をかしげて言う。


「……写真、撮っても良い?」


「……うん、良いよ」


 最初はお互いに、遠慮がちに、ぎこちなく。


「い、いきまーす」


「う、うん」


 パシャリ、パシャリ、と。


 けど、回数を重ねるごとに、お互いに緊張がほぐれて……


「あかりちゃん、行くよ~」


「うん、イエイ♪」


 お互いに、いつもの調子を取り戻していた。


「よし、次はベッドの上でお願い」


「やん、エッチ♡」


「じゃあ、まずはちょこんと座って……うん、可愛いよ!」


 パシャリ。


「良いね~!」


 パシャリ。


「じゃあ、次は寝転がって」


「え~、恥ずかしいな~」


 とか言いつつ、あかりはノリ良く彼の要求に応える。


「良いね、可愛いよ!」


 パシャリ、パシャリ、と。


 カメラを構えた彼は、どんどん迫って来る。


 近い……けど、怖くない。


 むしろ、何だかドキドキが増して……


 もっと、もっと……


「あっ」


「えっ」


 前のめりになりすぎた彼は、バランスを崩した。


 そのまま、ベッドにダイブする。


「……いてて。あかりちゃん、大丈夫?」


「う、うん、平気……」


 とは言ったものの。


 お互い、肌が触れ合って、至近距離で見つめ合う。


 吐息が頬にかかった。


「……ご、ごめん」


「う、ううん……」


 こそばゆい距離感のまま。


「……ねえ、明彦くん」


「な、なに?」


「最後に、夏の終わりに……恋人みたいなエッチ……しよっか?」


「……い、良いの? 隆志と三郎はいないけど」


「恋人は、2人きりでしょ?」


 あかりがニコッと微笑むと、明彦は照れながらも、頷く。


 そのまま、2人は重なった。




      ◇




 今までのエッチの中で、1番気持ち良かった。


 さほど、経験がある訳ではないけど。


「「はぁ、はぁ……」」


 せっかくの可愛いコスプレも、よれよれだ。


 だって、彼が激しくするから……


「……あかりちゃん」


「んっ?」


「これが最初で最後だなんて……嫌だ」


「えっ?」


「俺は出来ることなら、これからも……あかりちゃんと、恋人として……エッチがしたい」


「明彦くん……良いの? あたし、ひどい小悪魔だよ? ビッチだよ?」


「ううん、あかりちゃんは……天使だよ、俺にとっての」


 胸がキュン、と締め付けられる。


「おっぱいも、小さいよ? 親友のゆうたんのことが、羨ましくならない?」


「確かに、森崎さんのナイスバディは魅力的だけど……それでも、俺にとってはあかりちゃんが、1番だから」


 彼の瞳には、一切の濁りがない。


 以前からずっと、そうだったけど……


「……うん、良いよ」


「ほ、本当に? 俺の彼女になってくれるの?」


「明彦くんが、良ければ……」


「も、もちろんだよ」


 彼はベッドの上で起き上がる。


 そして、再びあかりのことを四つん這いで見つめて来た。


「じゃ、じゃあ、今度は本当の恋人として、もう1回だけ……」


「1回だけと言わず、好きなだけシても良いよ?」


「いや、そろそろ母親が帰って来るから……」


「そっか、じゃあ急がないとだね。あたしも、本気を出すから」


「お、お手柔らかにお願いします」


 マジメにそう言う彼のことを見て、あかりは笑う。


 心底、彼のことが愛しいと思った。




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