第36話 とうとう……

 盛り上がった体育祭が終わると、その反動でまた少し、みんなが憂鬱になる。


「はぁ~、期末テストかぁ~」


「怖いわ~」


「でも、乗り越えたら、夏休みっしょ♪」


 みんなそれぞれ、一喜一憂している。


 そんな中で、俺は静かにモチベを上げていた。


「おい、勇太ぁ。期末テスト、行けそうかぁ~?」


 短髪ツンツン頭の明彦が声をかけて来る。


「ああ、行けるさ。行くしかない」


「何かすごい気迫を感じるけど……どしたん?」


「すまない、明彦。今は俺に集中をさせてくれ」


「お、おう。何か知らんけど、がんばれよ……」


 明彦は苦笑しながら、サッと離れて行く。


 俺は静かに笑顔で佇みながら、千冬の方に目を向けた。


 友達と話していた千冬は、ふっと俺の方に気が付き、視線を向けて来る。


 目が合うと、サッと照れ臭そうに逸らされた。


 俺はふっと笑う。




      ◇




 夜遅くまで、ノートにペンを走らせていた。


 ピロン♪


 スマホが鳴る。


「んっ、千冬か」


 届いたメッセの内容は……


『勉強中だった?』


『ああ』


『お邪魔かしら?』


『いや、大丈夫だよ』


『ねえ、本当に今回は、私が教えなくても良いの?』


『何だ、そんなに心配なのか? 俺とセッ◯ス出来るかどうか』


『こ、この変態! それに、セッ◯スよりも先に、やることが……』


『ああ、分かっているよ。ちゃんと、優しいキスから始めるから』


『……うきゅぅ』


『とりあえず、お前は安心して、そのデカい乳を洗って待っていろ』


『色々とツッコミどころがあるけど、もう寝る時間だからやめておくわ』


『ああ、おやすみ、ハニー』


『うるさい……がんばってね』


『おう』


 千冬とのやり取りを終えると、俺は二カッと笑う。


「さて、もうひと踏ん張りだ」


 今どき、気合のハチマキなんて巻かないけど。


 心の中ではキュッと身を引き締めるようにして、結んだ。




      ◇




 とても緊張する時のはずなのに、俺の心は静寂に満ちていた。


 それは、確かな自信に裏打ちされている。


「では、始め」


 全員が一斉にバサッと問題用紙をめくる中、俺はふっと呼吸を整えてから、落ち着いて答案用紙をめくる。


 瞬間、脳内を理路整然とした回答のイメージが駆け巡る。


 どうやら、俺は既にゾーンに入っているらしい。


 勉強もスポーツだ。


 行ける、そう確信した。


 俺はペンを持つ。




      ◇




「ありあっした~」


 俺たちはコンビニを出る。


「はぁ~、残念だったなぁ~」


 お菓子がいっぱい入った袋を下げながら、俺はため息を漏らす。


「千冬、俺は悲しいよ」


「そんなに? 別に、今回がダメだって、またいくらでもチャンスは……」


「だって、記念すべき初めてなんだぞ? やっぱり、0.1ミリの極薄じゃないと俺は認めん……ぐほッ!?」


「公衆の面前で叫ばない!」


 俺に手刀を食らわせた千冬はキーッと睨んで来る。


「えっ、千冬はなるべく直に、俺のことを感じたくないの?」


「変態、死になさい!」


 可愛く怒る千冬をなだめつつ、我が家にやって来た。


 そのまま、俺の部屋に行く。


 バタン、とドアを閉じた瞬間、それまでのおちゃらけた空気が消えた。


「ね、ねえ、勇太。あの……」


 ドサッ、と音がした。


「……きゃっ」


 ふわっ、と千冬を抱き締める。


 背後から、優しく。


「……やっと、お前を抱けるよ」


「バ、バカじゃないの……気取った風に言わないで」


「じゃあ、お前とヤレる」


「死になさい」


 間近でギロッと睨まれてしまう。


 けど、そんな顔も可愛いでしかない。


「千冬、約束したよな?」


「えっ?」


「最初は、ちゃんと優しく……キスするって」


「あっ……」


 俺は千冬の頬に触れる。


 白く柔らかいそれの感触に驚きながら……


「…………んっ」


 もっと柔らかい、千冬の唇と重ね合わせた。


「ぷはっ……」


「本当はベロチューしたいとこだけど、最初だから爽やかな青春っぽいキスにしておこうぜ」


「あんたみたいなエロ助が言っても、説得力がないのよ」


「てか、今日は直でも良い?」


「えっ? いや、だって、ちゃんと着けないと……」


「そっちじゃなくて、おっぱいの話」


「へっ?」


「今まで、直接は触ったことなかっただろ?」


「そ、それって……生でってこと?」


「その言い方エロ」


「刺すわよ?」


「ごめん、ごめん。で、どうなの?」


「……どちらにせよ、するなら……そうなるんじゃないの?」


「いや、着たままでも出来るからさ」


「あ~、もう……頑張ったご褒美なんだから、好きにしなさいよ!」


「イエーイ、マジで~!」


「もう、ムードが台無しじゃない!」


「千冬、可愛い、可愛いよ~!」


「本当にこの男、ムカつく~!」


 とか言い合っている内に……


 ドサッと。


「……あっ」


「へへ、千冬をベッドに押し倒したぜ」


「……変態」


「てか、毎日ここで、俺が寝ているんだけど。良い匂いする?」


「臭いわよ、入った時から、ずっと」


「嘘だろ? テスト期間中、ずっとオ◯禁していたのに!」


「あー、もう!……緊張しているんだから、するなら早く……シてよ?」


 千冬は頬を赤く染め、瞳を潤ませながら、そう訴えて来た。


「……千冬、俺のこと好き?」


「は、はぁ? 何の確認よ?」


「俺は千冬のこと大好きだけどさ。ほら、お互いに気持ちが通い合っていないと、セッ◯スしても虚しいだけだろ?」


「そんなの……」


 千冬は口元に手を添えて、モジモジとする。


「……好きじゃなきゃ、あなたみたいな変態に付き合っていないから」


「おぅふ……俺のヨメが想像以上に可愛いぜ」


「ま、まだお嫁じゃないから」


「まだって?」


「あっ……うぅ~、さっさとしなさい!」


「何だよ、そんなに俺とセッ◯スしたかったのか~?」


「股間、蹴り上げるわよ?」


「ゾクゾクする~!」


「……もうやだ、この男」




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