第37話 インタビュー

 人は人生において、転機というか、変わる瞬間がある。


 物心がついた時とか、己の体内で女性としての営みが始まったこととか。


 そして、今まさに、明確な変化を感じていた。


「…………」


 正直、まだ実感が湧かないところがある。


 ふわふわ、ほわほわとした気持ちだ。


 それにも関わらず、確かに自分は変わったと実感させられる。


 何とも不思議な状態だ。


(……私、本当に勇太と……シたんだ)


 昨日からずっと、下腹部にじんわりとした温かみを感じる。


 ちゃんと着けるべきものは着けて行為に及んだのに……不思議だ。


 彼の温もりが、今でもお腹の奥にいてくれる。


 それでいて、大事なところは、まだ少し痛みを感じる。


 この甘さと毒の加減が、また何とも言えない。


 頭がボーっとしてしまう。


 いや、ポーっとだろうか?


「ねえ、ちーちゃん」


「へっ?」


「もう、お昼休みだよ」


 友人のあかりに声をかけられて、千冬はハッとした。


「ご、ごめんなさい」


「別に良いんだけど……今日はせっかく天気も良いことだし、ちょっと中庭でランチしない?」


 あかりは可愛らしく小首をかしげて言う。


「えっ? まあ、構わないけど……」


「じゃあ、レッツゴー♪」


 自分よりも小柄な彼女のパワーに引っ張られる。


「ちょ、ちょっと、あかり。落ち着いて」




      ◇




「てか、ゆうたんとセッ◯スしたっしょ?」


「へっ!?」


「ああ、ごめん。ちょっと言い方が生々しいね。エッチしたでしょ♪」


「……そ、それは」


「ちーちゃん、分かりやすいなぁ~」


 あかりは笑って言う。


「……やっぱり、分かっちゃうものなの?」


「まあ、同じ女同士のカンってやつかな?」


「そう、すごいのね……」


「で、どうだったの? ゆうたんとのエッチは?」


「ど、どうって……」


「ちゃんと、気持ち良かった?」


 あかりに問われて、千冬は答えに困ってしまう。


「え、えっと、その……って、どうして教えないといけないのよ?」


「だって、あたしはまだ処女だから。後学のために、知っておきたくて」


「そ、そんなこと言われても……私だって、よく分からなかったし」


「じゃあ、ゆうたんのおち◯◯んはどうだった?」


「な、何でそんなことを聞くのよ?」


「いや、1番気になるポイントじゃん。おっきかった?」


「お、大きさは普通だと思うけど……」


「けど?」


「何ていうか、その……すごくきれいだったし……何か可愛らしかったわ」


「あー、分かるわぁ。ゆうたん、純粋だもんね~」


「まあ、純粋というか……」


「やっぱり、おち◯◯んって、その人柄が出るんだね~」


「だ、だから、そのワードを出さないで」


「で、ゆうたんの純粋キラキラくんに、いっぱい気持ち良くしてもらったの?」


「…………」


 千冬は長めの沈黙の後、頷く。


「いつもは笑顔のサイコパスで鬼畜な勇太なのに……すごく優しくて」


「へぇ~?」


「その、入れる時とか……入れ終わった後も……ずっと、私のことを気遣ってくれて……か、彼が動くと、私の胸がどうしても揺れちゃって……で、ずっと見つめて来るから『どうしたいの?』って聞いたら、『吸っても良い?』って言うから……ちょっとだけ、吸わせてあげて……それが何だか、赤ちゃんみたいで可愛くて……」


 千冬は照れて身をくねらせつつも、勇太とのノロケをがっつりと語る。


 あかりは白くなっていた。


「……ちーちゃん」


「へっ、何かしら?」


「1回だけで良いから、ゆうたんをレンタルしてくれませんか?」


「レ、レンタル?」


「正確には、ゆうたんのおち◯◯んを……」


「ダ、ダメよ、そんなの!」


 千冬はつい、声が大きくなってしまう。


 ハッとして口を押えると、あかりがじーっと見て来た。


「そんなに嫌なの?」


「あ、当たり前でしょ? う、浮気したら、コロスって決めているんだから……」


「ヤンデレか。じゃあ、ちゃんと宣言しなよ」


「せ、宣言って?」


「ゆうたんのおち◯◯んは、私だけのモノです……って」


「い、言える訳ないでしょう、そんな恥ずかしいこと」


「じゃあ、あたしが奪っちゃおうかな~?」


 あかりが首をかしげて、ニヤッと笑う。


 まるで、小悪魔のように。


 経験がないと言った彼女だけど、その底知れないオーラに、千冬は動揺してしまう。


 勇太のことは信じているけど、この小悪魔、小娘が相手だと、下手をすれば……


「……わ、分かったわよ」


「おっ?」


「その代わり、ここだけの話にしてよね?」


「もちろんだよ、あたしとちーちゃんの仲だし」


 あかりはニッコニコして言う。


 千冬は半信半疑ながらも、スッと息を吸った。


「ゆ、勇太の……は」


「え、何だって?」


「ゆ、勇太のおち◯◯んは……私だけのモノ……です」


 言った直後、顔からボッと火が噴き出しそうだった。


「う~ん」


「えっ、何よ?」


「ちょっと、それだけだと物足りないから、もうちょっと語ってくれない? ゆうたんのおち◯◯んに対する愛を」


「そ、そんなこと言われても……」


「あー、今とってもソーセージ……ううん、極上のフランクフルトを食べたい気分だな~?」


「わ、分かったわよ、言うから!」


「ふふ、じゃあ、どうぞ♪」


 笑う小悪魔に対して、千冬は苛立ちつつも、


「……ゆ、勇太のおち◯◯んは、彼の純粋な人柄のまま、きれいで可愛らしくて……だから、ずっと私だけのモノにしたいっていうか」


「そういえば、その大きなお胸で挟んだりとかしたの?」


「へっ? あ、それはまだ……」


「ふ~ん? ゆうたんめ、あえての楽しみに残しておいたなぁ~、やりおる」


「ね、ねえ、もう良いでしょ?」


「ちなみに、ちゃんと奥に届いた? あと、何回くらいイ◯ましたか?」


「ね、ねえ、何でインタビューみたいになっているの?」


「いや、面白いかなって」


「じゃあ、もう言わないわよ」


 千冬はぷいっとそっぽを向く。


「NTR」


「何よそれ?」


「寝取られって意味だよ。体験したい?」


「そ、それって……だから、ダメだってば!」


「じゃあ、ちゃんと答えてよ」


「うぅ……た、体勢によって……届いたり、届かなかったり」


「あぁ、じゃあ、大きさは本当に平均的なんだ。でもまあ、エ◯マンガの主人公みたいなマジカルチ◯ポよりも、現実ではそっちの方が良いんだろうね」


「マ、マジカル……」


「で、何回イッ◯の?」


「そ、その感覚はよく分からないけど……最後、しばらく体のビクビクが止まらなかったわ」


「へぇ~、じゃあ初めてで、ちゃんと気持ち良くなれたんだ。ちーちゃん、良かったね」


「どうもありがとう……ねえ、本当にここだけの話にして……」


 ピッ。


「えっ?」


 何か電子音がしたと思ったら、あかりがスッと胸ポケットから、スマホを取り出す。


「あ、あなた、まさか……」


 動揺する千冬に対して、あかりはニヤけ顔でスマホを突き出す。


 ボタンをタップすると……


『……ゆ、勇太のおち◯◯んは……私だけのモノ……です』


「ひやああああああああああぁ!?」


 千冬は思わず絶叫した。


「あー、ヤバ。この音源だけで、クソほど稼げるわ~」


「ちょ、ちょっと、あかり! あなた、それ犯罪よ!?」


「冗談だって。これはまあ、あたしが個人的に楽しむために取っておくから」


「消して、今すぐ消して」


「じゃあ、代わりにゆうたんのレンタル、オーケー?」


「だから、それはダメなの!」


「ちっ、強情なちーちゃんめ」


「あかりこそ、強情じゃない。ていうか、しつこいわよ?」


「まあ、あたしはちーちゃんと違って、淡泊じゃないからね~? その内、本当にゆうたんを寝取っちゃうかもよ~?」


「……ぐす」


「って、マジ泣き? 冗談だって、友達の彼氏を奪ったりしないよ~」


「だって、あかりも勇太と同じでクズ系統の人だから」


「まあ、否定はしないけどね~」


 あかりは小さく吐息をこぼしつつ、スマホを操作した。


「ほれ、消したよ」


 千冬はその画面を確認する。


「ありがとう」


「じゃあ、今度は改めて、正式にインタビューさせてくれる?」


「絶対にお断りよ!」




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