第33話 爆発ブルンバルン!
「あ~、もうお腹パンパンで動けないわ~、千冬のせいで」
「何で私のせいなのよ?」
「だって、お前の手作り弁当が美味くてさ~」
「ふん、バカな男ね……」
ベンチに2人で座って、そんな風に話す俺たちに対して、ずっと殺意のこもった視線が剥けられている。
まあ、その対象は主に俺だけど。
「千冬、俺は近い内に殺されるかもしれないけど、その時はごめんな」
「え、縁起でもないこと言わないでよ。もし、その時は……」
「その時は?」
「……ううん、何でもない」
千冬は誤魔化すように、パクッとおかずを食べた。
「さてと……午後もドヤ顔の千冬ちゃんを楽しむかな~」
「いや、さすがにもうしないから。あとは無事に、ケガなく終えることだけを考えましょう」
「てか、せっかくだし、サービスでちょっとくらい、揺らせば?」
「あなた、それが自分の彼女に言うことなの? 本当に神経を疑うわ……」
「だってさ~、仕方ないじゃん。千冬ほど可愛い女の巨乳は、みんな拝みたいんだよ」
「この前、散々いやらしくイジめてくれた変態くんが、何か言っているわね」
「でも、気持ち良かっただろ? またやってやろうか?」
「そしたら、今度は私があなたの目を潰すから♪」
「え~……まあ、千冬なら許すけど」
「ちっ、ちょっとは焦りなさいよ」
そんな風に半ばエキセントリックな会話をしている間もずっと、周りからギリギリと歯ぎしりの音が聞こえていた。
◇
午後も天気が崩れることはなく、順調にプログラムは進んで行く。
「……ねえ、恵美」
「んっ?」
「やっぱり、あんなことしない方が、良かったんじゃない?」
「何よ、今さらあたしにだけ、責任を押し付けるつもり?」
「そうじゃないけど……」
「もうやったことだから、仕方ないわよ。それよりも、いつ爆弾が炸裂するか……楽しみにしていましょう」
彼女はニヤリと笑った。
◇
体育祭、最後のメインイベント。
学年別クラス対抗リレー。
クライマックスとあって、この競技への点数配分は大きい。
「千冬ぅ~、がんばれよ~」
「応援するなら、もっとシャキッとしてくれる? やる気が失せるのだけど」
「俺のジュニアはいつでもシャキッとしているんだけどな、特にお前の前では……」
「踏み潰すわよ」
「おほっ」
「もうやだ、この男……行って来ます」
「いってら~♪」
ゲンナリする千冬を見送る時。
「……んっ? おい、千冬」
「えっ、何よ?」
「いや……何かちょっと、変な音がした気がしたから」
「気のせいでしょ。もしかして、みんなに散々と言われて、被害妄想が芽生えちゃった?」
「それはないと思うけど……」
千冬は肩をすくめて、呆れたように去って行く。
その背中を俺はジッと見つめていた。
確かに、ミチッ、ミチッって音がしたんだけど……
そうこう考えている内に、リレーが始まった。
周りがワッと盛り上がる。
「まあ、森崎さんの乳揺れは拝めなかったけど、何だかんだみんな、体育祭を楽しんでいるよなぁ」
「俺も年甲斐もなく、ハシャいじまったよ」
「いや、お前も同じ歳だろうが。老け顔だけどさ」
「血が滾るぜファッ◯!」
「あはは、良かったなぁ」
3バカの言葉は適当に流しつつ、俺はずっと千冬を見つめていた。
「いけー、がんばれー!」
レースは終盤、間もなくアンカー対決となる。
現在、我がクラスがトップだ。
いよいよ、千冬の番となる。
「「「「「「神様、どうかお願いします。森崎さんのスポブラが、はち切れますように」」」」」」
一部のあきらめの悪い男子たちが、まだそんな願い事をしていた。
スポブラ、はち切れる……
「……あっ」
顔を上げた時、千冬にバトンが渡った。
「ちーちゃん、いけー!」
あかりを筆頭に、クラスの女子たちが盛り上げる。
その期待に応えるように、千冬はまるで風のごとく、疾走して行く。
このまま行けば、間違いなくトップでゴールだろう。
だが、しかし――
パァン!
「えっ? 今の、何の音?」
「空砲じゃないだろ?」
「アキレス腱が切れると、大きな音が鳴るらしいけど……」
「おい、痛い話はやめろ」
とか周りが少しザワついた時――千冬に異変が生じていた。
「……ッ!?」
それまで快調に飛ばしていたのに、急に胸元を押さえてペースダウンしている。
「千冬ちゃん、どうしたの?」
「まさか、具合が悪くなったとか?」
「そんな、大変!」
女子たちが慌てるが、
「……いや、あれは」
あかりだけは、何かに気付いたようだった。
当然、俺も気が付いている。
千冬、お前、まさか……
「…………っ」
千冬は両手で胸を押さえながら、キュッと目を閉じている。
でも、背後から他の選手が迫った時――意を決したように、目を見開き、再び駆け出す。
その時――
「「「「「「なッ……!?」」」」」」
男子たちがギョッと目を剥いた。
なぜなら、それまで
ブルンバルン!
今にもちぎれてしまいそうなくらい、激しい揺れ方をしている。
「千冬、お前……」
あれだけ、恥ずかしがっていたのに……
そして、大歓声に包まれながら、千冬はゴールを決めた。
「……はぁ、はぁ」
千冬は両手をひざに置いて、息を荒げている。
一方で、周りのボルテージは上がる一方だ。
今まで抑圧されて、半ばあきらめていた分、その爆発力が凄まじい。
「こらー、エロ男子ども! 見せ物じゃないぞー!」
あかりを初め、女子たちが千冬を守ろうとするけど……
「……千冬」
ひと足先に、俺が彼女のそばに寄った。
「勇太……」
千冬の目には、ジワッと涙が浮かぶようだった。
そんな彼女に、俺は体操着の長袖をかけてやる。
「おつかれさま」
「……うん」
俺は落ち込んだ様子の彼女の肩にそっと触れて、一緒に歩いて行った。
◆次回予告
「千冬、覚悟は良いか?」
「えっ……?」
「今から、お前にマーキングするから」
「マ、マーキングって……」
そして、ついに……
「ひぎっ!! ゆ、勇太……苦しい」
「我慢しろよ、これくらい」
痛みに震える千冬を、勇太は容赦なく攻め立てて……
乞うご期待!
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