第31話 ドヤ顔の千冬さん

「ねえ、知っている? 2年A組の森崎さん、彼氏がいるんだって」


「えっ? あの高嶺の花の森崎さんに?」


「今まで、どんなイケメンの告白も断って来たんでしょ?」


「うん……同じクラスの、川村勇太って男子と付き合っているみたい」


「イケメンなの?」


「まあ、悪くないけど……でも全然、矢吹やぶきくんの方が、かっこいいよ」


恵美めぐみ、好きだったもんねぇ」


「バスケ部のイケメンくん」


「うん……」


 彼女は小さく拳を握った。


「……ここだけの話にしてくれる?」


「えっ、何よ?」


「あたしさ……あの女に、ちょっと痛い目を見せてやろうと思うんだ」


「恵美、あんた……」


「大丈夫、暴力とかしないから……ただちょっと、全校生徒の前で、恥をかいてもらうわけ」


「恵美……いや、畔上はんじょうさん。あんた、怖い女だねぇ」


「そういうみんなは、止めないの?」


「まあ、森崎さんは性格が悪いってことはないけど……ぶっちゃけ、気に食わないなって、思っていたし」


「美人で巨乳で、何でも出来ちゃうなんて……ムカつく」


「うん、そうだよね……大丈夫、あの女に泣きっ面をかかせてやるから」




      ◇




 体育祭、当日――


「いや~、良い天気だなぁ」


 俺は手でひさしを作りながら、空を見上げて言う。


「ええ、そうね」


 となりで千冬が頷く。


「あれ、千冬さん? 何か随分と、余裕の顔しているね」


「何よ、いけない?」


「いや、だって照れ屋のお前は、これからみんなの前で、そのでっかいお乳をブルンブルンって揺らすの、恥ずかしいだろ?」


「安心してちょうだい。あなたみたいな男が彼氏という方が、よっぽど恥ずかしいから」


「うわ、ゾクる」


「それに、この私が何の対策もなく、臨むと思っているの?」


「んっ? あれ、ていうか、何かいつもよりもおっぱいが小さいような……」


 俺が首をかしげた時、ピピーッ!と笛が鳴った。


「じゃあ、まずはウォーミングアップということで。100m走、行って来るわね」


「お、おう」


 いつになく、自信ありげな千冬を、俺は黙って見送った。


「おい、森崎さんが走るぞ」


「あの巨乳の揺れ、絶対に見逃せねえ」


「ていうか、彼氏いんだろ?」


「マジで? くぅ~! あの巨乳を好き放題できるとか、うらやまッ!」


 さすが、千冬。


 エロ男子からの注目度が抜群だ。


 まあ、元から高嶺の花として、みんなから注目を集めている訳だけど。


 そして、みんなが期待する我が千冬さんが、スタートラインに立った。


「位置について、よーい……」


 パァン!


 空砲が響き渡ると、ダッと選手たちが駆け出す。


「「「おっほ!」」」


 早速、エロ男子たちが反応する。


「てか、このグループ森崎さん以外も、結構おっぱいデカい女子が多いじゃん!」


「C組の山瀬って、結構いい乳してんだなぁ~」


「いや、B組の丸山ちゃんの、ちっぱいの健気な揺れも良いぞ~」


「ボイン、ボイ~ン♪」


 そんな風に盛り上がっている。


「つーか、真打ちの森崎さんは……」


 エロ男子どもが、グッと集中力を高めた。


 その時、千冬は――


「「「「「「……えっ?」」」」」」


 ……何と、一切揺れていなかった。


 長袖を羽織ってガードしている訳ではない。


 他の女子と同じく、半袖姿。


 それなのに、一切の揺れがない。


「バカな、あの巨乳がなぜ……!?」


 エロ男子たちが愕然としている間に、千冬はトップで駆け抜けた。


「千冬ちゃん、すごーい!」


 男子たちが絶望する一方で、女子たちはキャッキャと迎える。


 千冬はそれに応えつつ、俺と視線が合うと、ふふんと得意げな顔をした。


 ドヤ顔で俺を煽っているのかもしれないけど、可愛いでしかない。


 けど……


「……おい、勇太」


 同じクラスのエロ男子どもが寄って来た。


「んっ、どうした?」


「お前、まさか……森崎さんに、スポブラとかさせた?」


「えっ? あっ、だから揺れなかったのか!」


「とぼけんな!」


「自分の彼女だからって、あの巨乳を独占するつもりか!」


「あのデカパイを拝ませろぉ!」


 必死の形相でエロ男子どもが迫って来る。


「いや、お前ら落ち着けって。俺も知らなかったんだよ」


「本当かよ?」


「おい、お前らは信じてくれるだろ?」


 親友の3バカに聞く。


「いや~、勇太は嫌らしい男だからなぁ」


「あっさりしているようで、ネチネチしているかもしれない」


「ファッ◯な野郎だからな……シット!」


 同じく憎々しげな顔で言われてしまう。


「あはは、お前らもう親友やめようかな」


 とか言っていると、


「勇太、どうだったかしら?」


 得意げな千冬さんが戻って来た。


「こらー、ちーちゃん! スポブラでおっぱい隠すなんて、サービス精神に欠けるぞぉ!」


「って、何であかりが怒るのよ、男子目線で」


「ゆうたんもがっかりでしょ?」


「んっ? ああ、まあ……」


 俺はジーッと、千冬のスポブラおっぱいを見た。


「何かドヤ顔の千冬が可愛いから、別に良いや」


「なっ……あー、この男は本当にムカつく。たまには悔しがりなさいよ……」


 千冬はブツブツと呟きながら、俺のことを睨んで来る。


「でも、アレだな。千冬、やっぱりメッチャ速いじゃん。ラストのクラス対抗リレーも期待しているぞ」


「ふ、ふん……別に褒められても、嬉しくないんだから」


 千冬はそっぽを向きながら言う。


「てか、スポブラだと高かったろ? 俺に言ってくれれば、さらしを巻いてやったのに」


「絶対に嫌よ、この変態」


 千冬がベッと舌を出す。


「可愛いなぁ」


「うるさい!」


 すると、


「「「「「「もげろ」」」」」」


 またみんなに言われてしまった。




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