第19話 乱れる千冬ちゃん

「……それで俺、千冬に告白をしたんですよ。せっかく、みんな憧れのマドンナである彼女に告白しないとって……でもまあ、あっさりフラれちゃって」


「まあ、そうなの」


「いや、あっさりしていたのは、むしろ勇太の方でしょうが。清々しく、ムカつくくらいにね」


「だって、初めからダメ元の精神だったし。そこで変に粘着しても、気持ち悪いだろ?」


「うっ……どうせ、私は気持ち悪い粘着女よ」


「え、どういうことかしら?」


「いや、その……」


「俺が千冬にフラれた後、何か意外と千冬の方からグイグイ来たんですよ。まあ、俺としては、フッたフラれたで気まずい関係のままいたくなかったから、ありがたかったですけど。クラスメイトなんだから、やっぱり仲良くしたいですし。例え付き合うことが出来なくても、千冬みたいな可愛い子とは仲良くしていたいから」


「……きゅぅ」


「千冬ちゃん?」


「な、何でもないわ……」


「で、その後、一緒にラーメンを食べに行って。後日、千冬の方から告白して来たんだよな、俺に」


「まあ~、千冬ちゃん、やるわねぇ。見た目に反して、奥手のくせに」


「う、うるさいから」


「で、俺は速攻でオーケーしたんすよ」


「それもまた、清々しいくらいに、あっさりした返事でムカついたけどね」


「だって、千冬の気が変わったら嫌だし。俺みたいな平凡な男が、こんな可愛い子と付き合えるチャンスなんて、滅多にないだろ?」


「あらぁ、平凡だなんて、謙遜を。勇太くんは、面白くてステキな子よ。ねえ、千冬ちゃん?」


「面白いというか、サイコパスというか……失礼な男よ」


 千冬は頬杖を突きながらそっぽを向きつつ、ふんと鼻を鳴らす。


「うふふ、よほど勇太くんのことが好きなのねぇ」


「なっ、何でそうなるのよ」


「千冬、俺も愛しているぞ」


「バカ! アホ! 黙りなさい、勇太!」


「うわ、ゾクゾクするわ~。もう1回、今度はゴミを見るような目で、凍てつくトーンで言ってくれる?」


「もうやだ、この男ぉ~……」


 千冬は両手で顔面を覆ってうなだれる。


「うふふ。普段、人前では完璧な千冬ちゃんが、こんな風に取り乱すなんて」


「安心して下さい、由里子さん。俺、日常生活だけでなく、夜の生活でもきっと千冬を乱して……」


「お黙りなさい!」


 お茶菓子のクッキーをありったけ口にぶちこまれた。


「むぐぐ……」


「だから、お母さんの前で失礼な下ネタ発言はやめなさい!」


「あら、私は気にしないわよ?」


「お母さんも、このバカ男を甘やかさないで」


「そうね。将来は、私の息子になる訳だから……ちゃんと、教育してあげないとね」


 俺はゴクン、と紅茶でクッキーを流し込む。


「え、教育って、どんな教育ですか?」


「ちなみに、失礼だけど……勇太くんは、性行為の経験はあるかしら?」


「いや、ないです」


「じゃあ、今から指導を……」


「ちょっと、お母さん!」


「うふふ、冗談よ~」


「もう、この変態男は、私よりも大人の魅力が溢れるお母さん狙いなのかもしれないのに……」


「あはは、確かに、由里子さんみたいな、素敵なお母さんとそんな体験が出来たら、夢みたいだけど……俺、初めてのエッチは、千冬とって決めているんで」


 俺が言うと、千冬は目を丸くして、すぐに顔をうつむけた。


「……バカ、変態。もう喋らないでちょうだい」


「じゃあ、またクッキーぶち込んでくれよ」


「ドM、変態」


「ちょっと、千冬ちゃん、ダメでしょ」


「あ、ごめんなさい。いくらなんでも、私こそ暴言が過ぎて……」


「そこは、私にぶち込んでって言って、勇太くんを興奮させるべきでしょ?」


「あれ~? 私のお母さんって、こんなに頭が悪かったかな~?」


 そんな風に言う千冬の肩に、俺はポンと手を置く。


「千冬」


「な、何よ」


「大丈夫だよ。俺、そんないきなり、ぶち込むなんて乱暴なことはしない……いっぱいキスとかして愛し合って、ちゃんと準備をしてから、優しくするからな?」


 ゴチン!


「おおぉ~……千冬のアムハンが……」


「バカ、変態! もう絶対に、あなたとはその……エ、エッチなこと、してあげないから」


「ふふふ、焦らしプレイか。まあ、それも良いだろう」


「だから、たまにはめげなさい!」


「千冬ちゃん、本当に楽しそうね~」


 この後もしばらく、楽しい会話が弾んだ。




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