第18話 美人のお母さん

 午後の良い日差しが照らす中を、俺はテクテクと歩いて行く。


 今日は以前に約束した通り、千冬の家に遊びに行くことになっていた。


 ちなみに、そのことを親友たちに話したら、


『その日って、森崎さんのお母さんにも会うんだよな?』


『ああ。千冬のお母さんって、千冬と同じく美人で、胸は千冬よりも大きいらしいよ』


『……頼む、勇太。そのお母さんの写真を……1枚で良いから、撮って来てくれ』


 と、隆志に血走った目で頼まれてしまった。


「でも、彼女のお母さんを盗撮する訳にはなぁ……普通に頼んでみるか」


 俺の親友が、エロマニアの熟女好きなので、1枚ピースをお願いします♪


 うん、サイコパスだって自覚しているけど、そんなこと言ったらさすがに自分にドン引きするよ。


「ここか」


 教えてもらった住所を訪ねると、そこには立派な佇まいのお家があった。


「おぉ~」


 とか感心しながら、俺はインターホンを鳴らす。


『……はい』


「あ、その声は千冬? 俺、勇太だけど」


『待って、すぐに開けるから』


 ほどなくして、玄関ドアが開く。


「い、いらっしゃい」


 千冬が姿を見せる。


「よう、千冬。しかし、お前ってデカいよな~」


「はっ!?」


 千冬はギョッとしながら、両手で胸を覆い隠す。


「あ、間違えた。お前の家ってデカいよな~」


「大事な所を抜かすんじゃないわよ、バカ! 変態!」


「ごめん、ごめん。そんな可愛い顔で怒るなよ」


「うっ……きゅ~」


 千冬は喉の奥から搾るような声を出した。


「――あらあら、お客さんかしら?」


 澄んだ良き声が響いて来た。


 千冬の背後から、彼女よりも少し背が高くて、けど同じ顔立ちの美女がいた。


 髪はほんのり染めており、結んで垂らしている。


「千冬ちゃん、噂の彼氏くんかしら?」


「ま、まあ……」


「初めまして、お母さん。川村勇太と言います。千冬さんとは、良きお付き合いをさせてもらっています」


「まあ、ご丁寧に。千冬の母の由里子ゆりこと言います」


「由里子さん。千冬から聞いていましたけど、本当に親子そっくりですね」


「あら、そうかしら?」


「けど、胸は由里子さんに軍配が上がっていますね」


 ピシリ、となった。


 千冬の顔が。


「……って、このおバカ! いきなり、彼女の母親にセクハラする男がいる!?」


「あっ、いっけね……千冬の美人ママの話を隆志にしたら、延々と熟女の素晴らしさについて語られたから、つい」


「つい……じゃないわよ、バカ!」


「まあまあ、千冬ちゃん。落ち着きなさい」


 由里子さんがなだめる。


「面白くて、良い彼氏じゃない」


「いやぁ、由里子さんみたいな美人に言われると、照れちゃいますよ」


「あら、若いのに口が上手い子ね。どうぞ、上がってちょうだい」


「お邪魔しまーす」


 俺が玄関から足を踏み入れる際、千冬がジト目を向けて来た。


「勇太、これ以上は恥さらしなこと、しないでちょうだいね」


「大丈夫だって。こっからは、ビシッと締めるからよ」


 俺はグッと親指を立てながら笑って言う。


「その笑顔が1番信用ならないんだけど?」


 とか小言で背中を突かれつつ、俺はリビングに入った。


「うわぁ、中もご立派ですね~」


「まあ、旦那が頑張って稼いでくれているから」


「高給取りってやつですね。ちなみに、由里子さんは専業主婦ですか?」


「いいえ、パートに出ているわ。近所のスーパーで働いているの」


「うわぁ、エロいっすね~」


「こら!」


 ビシッ、と千冬に背中を叩かれる。


「だから、私のお母さんにセクハラしないでよ!」


「あ、ごめん。隆志の影響で……」


「とか言って、本当はあなたの趣味なんじゃないの?」


「違うよ、俺は千冬一筋だし」


「うっ……うるさい」


「あらあら、可愛いわね~、若いカップルさんは」


「お母さん、からかわないで」


「さあさ、立ち話もなんだから、座ってちょうだい」


「ありがとうございまーす」


 俺はソファーに腰を下ろす。


 その座り心地で、すぐに上質なモノだと分かった。


「勇太くん、紅茶はお好き?」


「はい、普通に飲めます。あ、そうだ、お茶菓子を持って来たんですよ」


「まあ、わざわざ買って来てくれたの?」


「親に彼女の家に行くって話したら、持って行けって言われたので」


「あら、そうなの。ご両親にもお礼を言っておいてね」


「分かりました」


「千冬ちゃん、お茶の用意を手伝ってちょうだい」


「うん」


 森崎さん家の美人な母娘が、そろってキッチンに立つ光景は素晴らしい。


 ずっと見ていられる絵面だ。おっと、いけない。


 千冬に気を引き締めろって言われたからな。


「お待たせしました」


「あ、どうも」


 目の前にティーカップが置かれる。


「じゃあ、いただきます」


 俺は紅茶を飲む。


「うん、美味い。やっぱり、金持ちの家は違うなぁ~」


「ちょっと、金持ちって言い方はやめなさいよ」


「ああ、ごめん、ごめん。美人が淹れると美味しいのかな?」


「あら、嬉しいわ。その紅茶、淹れたのは私なの。ただのティーバックなんだけどね」


「何だ、由里子さんでしたか、あはは」


「ねえ、さっきから、お母さんのことを名前で呼んでいるけど……やめてくれない?」


「え? ああ、そっか。やっぱり、失礼だったかな?」


「良いのよ、むしろ嬉しいから。でも、千冬ちゃんと結婚したら、ちゃんとお義母さんって呼ばなきゃかしらね?」


「うわ、お義母さんって響き、エロいっすね~」


「セクハラ!」


「ああ、ごめん」


「千冬ちゃん、そんなにカリカリしないの」


「だ、だって、この男が……」


 母の由里子さんに叱られて、千冬はシュンとしてしまう。


「ねえ、勇太くん。せっかくだし、もっと色々なお話をしましょう?」


「はい、喜んで」


 俺と由里子さんがニコニコ向かい合う一方で、千冬は紅茶をすすりながら不満気にこちらを睨んでいた。




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