第17話 気まずい修羅場……?

 ファミレスでランチを済ませた後、路上で千冬と痴話ゲンカをしていたら、あかりと遭遇した。


「ねえ、どうして2人きりなの?」


 あかりは小首をかしげて言う。


「そ、それは……」


 対する千冬は、何だか気まずそうだ。


 だから、俺が代わりに答えてあげる。


「ああ、俺と千冬は、付き合っているんだよ」


「なっ……」


 驚いたのはあかりよりも、千冬だった。


「ゆ、勇太! あなた、またあっさりと、そんな風に……」


「えっ? だって、千冬とあかりって仲が良いんだろ? 俺も友達だし、隠しておく理由が無くないか?」


「それはそうなんだけど……」


 千冬は声が尻すぼみしてしまう。


「あのね、勇太くん。実はあたし……前にちーちゃんに、勇太くんのことが好きだって、言ったの」


「えっ? あかりが、俺のことを?」


「うん。けど、そっか……」


 あかりは、顔をうつむけた。


「あ、あの、あかり……」


 千冬が気遣うように声をかける。


「……ちーちゃん、ひどいよ」


「ご、ごめんなさい! わ、私は……」


「……なーんちゃって」


「えっ?」


 目をパチクリとさせる千冬に対して、あかりは顔を上げてニコッとする。


「てか、最初から、何となく察していたし。あ、この2人は、デキているなって」


「そ、そうなの?」


「でも、あたしも勇太くんのことが好きだから、頑張ってアプローチしてみたけど……やっぱり、巨乳には敵わなかったか」


 あかりは自分の胸に手を置いて、少し悲しげに言う。


「あかり、顔を上げろ」


「えっ?」


「胸が小さくても、お前は十分に魅力的だ。むしろ、背も小さくてロリ体型だから、きっと需要があるよ」


 俺はグッと親指を立てて言う。


「ちょっと、勇太。あなた、またそんな最低なこと言って! ダメじゃないの!」


「え、何で?」


「あのねぇ~」


 ポカンとする俺に対して、千冬が眉根を寄せてまだ何か言いたそうにしている。


 けど……


「イエーイ! あたしって、魅力たっぷり?」


 あかり本人は、至って気にしない、むしろ喜んでいた。


「えっ?」


「おう、そうだぜ」


「その内、おっぱいもたっぷりになるかな~?」


「そしたら、ロリ巨乳でますます魅力度が上がるぞ!」


「きゃっほ~い!……って、結局は乳かーい!」


 ベシッ!


 あかりのツッコミが、俺の胸に叩き込まれる。


「おお、見事なツッコミだぜ! あかり、センスあるな!」


「えっ、本当に?」


「ああ。良ければ、俺と漫才やらないか?


「漫才? マジ?」


「千冬に夫婦漫才やろうって言ったんだけど、嫌って言われてさぁ」


「じゃあ、あたしと夫婦漫才をやるってこと?」


「んっ? いや、俺の彼女は千冬だから、あかりとはやるとしたら普通の漫才コンビだな」


「え~! あたしのことを、彼女に……いや、奥さんにしてよ~!」


 などと話していたら、


「ちょ、ちょっと、2人とも!」


「「へっ?」」


「わ、私を差し置いて、勝手に話を進めないでちょうだい」


「ああ、ごめん、ちーちゃん。でも、あたしとゆうたん、波長が合うからさぁ」


「ゆ、ゆうたん?」


「うん。勇太くんよりも、そっちの方が仲良しな感じかなって」


「おお、何か可愛いあだ名だなぁ。嬉しいなぁ」


「えへへ~」


 とか言っていると、


「うぅ~……勇太!」


「えっ?」


「……これって、浮気かしら?」


「何で? 俺とあかりは、友達だぞ? そして、お前とも友達だろ?」


「そ、そうだけど……でも、何だか……」


 千冬は顔をうつむけたまま、口ごもってしまう。


「ゆうたん、落ち込む彼女に、愛の言葉を囁いてあげなよ」


 あかりにポン、と背中を叩かれる。


「まあ、日頃から言っているけどな。俺の千冬は、世界一って」


「そ、それは初めて言われたのだけど……」


「確かに、波長はあかりとの方が合うかもしれない」


「うぅ……」


「でも、だから、友達って感じなんだよなぁ。その点、千冬は俺とは正反対だからさ。何ていうか……ちょっと話すだけで、ドキドキする」


「そ、それは……こっちのセリフよ。あなたと話していると、いつも心が休まらないわ」


「え、俺って、そんなに甘い言葉を吐いちゃっている?」


「違います! いつも、いつも、あっさりサイコパスな発言ばかりで、困っているんです!」


「じゃあ、千冬。サイコパスで社会不適合者の俺を育ててくれよ」


「そ、育てるって……私、あなたのお母さんじゃ……ハッ……やっぱり、そっちが趣味なの?年上の……私のお母さんを狙っているのね!?」


「今のはお前の方がひどいぞ~、千冬」


「だ、だって……」


 千冬はまた顔をうつむける。


「でも、ちーちゃん。最近の女は強いから、男を育てるのって、割とよくあることだよ」


「そ、そうなの?」


「うん。まあ、あたしは今、自分のおっぱいを育てるので忙しいけど」


「またそんなこと言って……でも、そうね」


 千冬は、何か決意したように、俺を見た。


「勇太、あなたを真っ当な男に育ててあげるから」


「はいよ~」


「適当な返事をしない!」


「くぅ~! やばっ、興奮して来た……千冬が、まるで美人教官のように見えて来る……それっぽいコスプレしたら、もう脳汁のうじゅうが溢れまくりだよ」


「ゆうたん、溢れるのは脳汁だけ?」


「いや、下の方も大洪水……」


「下ネタ禁止!」


「良いね~! よし、美人教官のコスプレ衣装を買いに行くか~」


「全然へこたれないし、ちゃんと分かっているの!? それと買いになんて行かないから!!」


「土下座してもダメか?」


「やめなさいよ、こんな人通りの場所で」


「そうだな。千冬、今日はロングスカートだから、パンツ覗きづらいし」


「今すぐ、土下座しなさい。踏みつけてあげるから」


 千冬は頬をピクピクとさせながら言う。


「ねえねえ、ちーちゃん」


「えっ?」


「何ていうか……ちーちゃんって、そんな人だったっけ?」


「へっ?」


「いや、今までは、誰もが憧れる完璧な美少女だったのに……何かすっかり、キャラ崩壊しているなって」


「うっ……」


「でも、今の方が魅力的だろ? 千冬は見た目もそうだけど、それ以上に中身が鬼カワだからな」


「うるさい、黙りなさい!」


「良いな~、ちーちゃん。こんな素敵な彼氏が出来て」


「あかり、あなたの感性が心配だわ。ちゃんと、まともな男を見つけなさい」


「え、ちーちゃん、ゆうたんが彼氏じゃ不満なの?」


「そ、それは……」


「だったら、別れてあたしに譲って?」


 あかりが笑顔で小首をかしげながら言う。


「……い、嫌よ。だって、この男は、私がちゃんと教育してあげないと。このまま社会に出したら、間違いなくやらかす男だから……再教育してあげないと」


「ふぅ~ん? そんなにゆうたんのことが好きなんだ?」


「べ、別に……」


「千冬はツンデレだな~」


「ビンタするわよ?」


「じゃあ、今度は本気でしてくれよ? その方が、きっと気持ち良いから」


「何でそんな変態チックなことを、これでもかって爽やかに笑って言うのよ!」


「ねえねえ、いつまでこのノロケを見てれば良いの?」


「ノ、ノロケてなんかないから……」


「けど、とろけているだろ、千冬?」


 俺はそっと、彼女の耳元で囁く。


「ひゃッ」


「おぉ~、ゆうたん! 今の愛の言葉、ゾクゾクしたよ~!」


「おう、サンキュー!」


 俺とあかりが盛り上がっている一方で、千冬はピクピクと震えながら睨みを利かせて来た。


「……その内、絶対に泣かせてやるんだから」


「だから、ビンタしてくれれば、一発だって」


「それは、あなたが喜ぶだけでしょうが!」


 一生懸命に怒りまくる千冬が、可愛すぎた。




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