第12話 仲良く(?)お弁当タイム♪

 キーンコーンカーンコーン。


 待ちに待った、昼休みの時間がやって来た。


「さてと」


 俺は席から立ち上がると、


「千冬ぅ、じゃあ、行こうぜ」


 彼女の席に歩み寄って、俺は声をかけた。


 すると、ピクッと肩を揺らしてから、振り向く。


 またしても、睨まれてしまう。


「ちょっと、声が大きいわよ」


「ああ、ごめん。千冬と2人きりの弁当タイムが楽しみで。千冬にも、楽しみにしておきなさいって言われたし」


「……皮肉の通じない男ね」


「えっ?」


「何でもないわよ」


 千冬はため息まじりに立ち上がる。


「で、どこで食う?」


「中庭に行きましょう」


「オッケー」


 俺たちが、連れ立って教室の出入り口に向かう間、


「おい、何で川村のやつが森崎さんと……」


「まさか、付き合っているのか?」


「いや、でもあの森崎さんだぞ?」


 周りのクラスメイトがざわついていた。


 やはり、千冬は周りの注目を集める存在らしい。


 ただそのせいか、千冬は眉根を寄せて、早足で教室から出て行く。


「千冬、そんなに急ぐなって。昼休みはまだ始まったばかりだぞ?」


「うるさいわね。誰のせいだと思っているのよ?」


「あれ? もしかして、怒っている?」


「別に怒っていません」


 そんな風に会話をしながら廊下を歩く間も、すれ違う生徒たちの注目を集めていた。


「え? 森崎さん、男と2人で歩いているぞ?」


「まさか、彼氏か?」


「いやいや、そんな……」


 周りがざわつくほどに、千冬の顔は怒るというか、赤く染まって行く。


 なるほど、照れているのか。


「可愛いなぁ、千冬は」


「はぁ? ちょっと、ビンタしても良い?」


「ふふふ、変わった愛情表現だな。しかし、受け入れよう」


「もうやだ、この男……」


 千冬は頬を赤く染めたまま、顔をうつむけて廊下を歩いて行く。


 俺はそんな彼女を可愛いなと眺めつつ、となりを歩いて行く。


 やがて、玄関を出て、中庭にやって来た。


「お、あそこのベンチが空いているぞ」


 俺たちはそのベンチに腰を下ろした。


「いや~、今日は良い天気だなぁ」


「ええ、そうね」


「じゃあ、食べますか」


 俺は弁当箱を巾着から出して、パカッとふたを開ける。


「いただきまーす!」


 パクパクと食べ始める。


 となりで千冬も弁当箱を開けた。


「おっ、千冬の弁当、美味そうだな」


「そう?」


「おまけにきれいだし。やっぱり、美人は弁当もきれいなんだな」


「べ、別に、作ったのはお母さんだから」


「そっか。千冬のお母さんも、きっと美人なんだろうなぁ。今度、会ってみたいなぁ」


「何よ、あなた。もしかして、私のお母さんのことが……」


「えっ? いやいや、違うよ。隆志みたいに、人妻好きじゃあるまいし」


「どうかしらね? 類は友を呼ぶって言うじゃない?」


「まあ、そうかもしれないけど。俺はちゃんと、千冬だけのことが好きだぞ?」


 笑顔で言うと、千冬がむせた。


「ぐふっ……」


「おい、大丈夫か?」


「……本当にムカつく男ね。1度、敗北を味あわせてやりたいわ」


「んっ? 何の勝敗だ?」


「何でもないわよ」


 千冬はぷいとそっぽを向いて、弁当のおかずを頬張る。


「モグモグしている所も、可愛いなぁ」


「むぐっ!?」


 うめいた千冬が、胸を叩く。


 その際、豊かなそれが、たぷん、たぷんと弾んで……って、言っている場合じゃないな。


「千冬、お茶」


 俺はサッと差し出してやる。


 千冬は受け取ると、ゴクゴクと飲んだ。


「ぷはっ……」


「大丈夫か?」


「……お茶をくれたのはありがとう。けど、あなたのせいだから、プライマイゼロ……いえ、むしろマイナスよ」


「ごめん。もしかして、俺が可愛いって言ったから?」


「だ、だから、どうしてそんな風にあっさりと……もう、バカ!」


「あ、千冬、ごめん」


「えっ?」


「とっさのことだったから、俺の飲みかけのお茶を渡しちゃった」


「えっ?」


 千冬は俺が渡した、ペットボトルのお茶の口を見つめる。


「悪い、間接キスになっちった」


 俺は片手を立てて詫びる。


 千冬はまた顔を赤く染めて、ワナワナと震え出した。


「……ねえ。1回だけ、ビンタしても良い?」


「えっ? うーん、可愛い彼女の千冬にされるなら、一向に構わないけど」


「って、そこはちゃんと拒否しなさいよ。まさか、ドMなの?」


「時と場合によるな」


「その顔がムカつく」


「千冬の顔は可愛い」


「きゅ~!」


 千冬は頭を押さえて叫んだ。


「どうした、またそんな可愛い声を出して?」


「はぁ、はぁ……バカ」


 キッ、と鋭く睨まれる。


「ていうか、大事な話があったのに、あなたのせいでロクに出来ないじゃない」


「おう、何だ大事な話って?」


「……あかりのことよ」


「んっ? あかりがどうした?」


 俺が聞き返すと、千冬がムッとした顔になる。


「あかりは私のお友達だし、仲良くしてくれるのは良いけど……あまり距離が近すぎると、心配になっちゃうのよ……」


「ああ、そっか。ごめん、千冬に心配かけちゃって」


「いや、良いんだけど……あかりは、私にはない明るさと可愛さを持っているから、どうしてもね……」


「まあ、確かに千冬とあかりはタイプが違うな。まあ、俺は千冬派だけど」


「うっ……か、彼女なんだから、選んで当然よ」


「まあ、ここだけの話、胸の大きさはお前の圧勝だから、自信を持てよ」


 すると、また睨まれる。


「あなた、最低ね。もしかして、それが理由で私を選んだの?」


「まあ、否定はしないけど……でもやっぱり、美人だし。あと話してみて、思った以上に可愛いからさ。最初に告白した時よりも、ますます好きになったよ」


「だ、だから……いちいち、そんな風に真っ直ぐ、私を褒めないでよ」


「ごめん。でもやっぱり、言葉にしないと伝わらないしさ。変にかっこつけて、ウジウジしている時間がもったいないし」


「……勇太のそういう所、ちょっとだけ尊敬するかも」


「あれ? くん付けじゃなくなってるな?」


「だって、あかりも名前で『勇太くん』って呼んでいたから。彼女として、少しは差をつけておきたいのよ……悪い?」


「いや、メッチャ興奮するよ」


「はぁ? この変態! ドM!」


「でも、困ったな」


「何がよ?」


「だって、千冬もドMだろ?」


「だ、誰がドMよ!?」


「え、違うの?」


「う~……ていうか、やっぱりあなたはドSよ!」


「おっ、じゃあちょうど良いじゃん。ドSとドM同士、仲良くしようぜ?」


「もう、あなたなんて大嫌いよ!」


「えっ、じゃあ、別れちゃう?」


「そ、それは……まだ付き合ったばかりだし、もう少しくらい様子を見てあげても……良いわよ」


「はぁ~、良かった。まだキスもエッチもしていないのに、別れるなんてあんまりだからなぁ」


「ま、また、そんなことばかり言って」


「とりあえず、今度の週末にデートするか」


「……まあ、良いけど」


「また、ラーメン行くか?」


「どんだけラーメンが好きなのよ」


「はは、冗談だよ。ラーメンを食べる以外の千冬の顔も、見てみたいしな」


「……変態」


「え、どこが?」


「あなたの存在がよ」


「いや、俺の親友3人の方が、よほど変態だぞ? キモオタにエロマニアにメタラーにと」


「そして、あなたはサイコパスだもんね」


「まあ、否定はしないな」


「少しは否定しなさいよ」


 千冬はため息を漏らす。


「う~ん、千冬はどんな顔も可愛いなぁ。怒ったかも、疲れた顔も」


「変態」


「でも、たまに見せる笑った顔が、また可愛いんだよなぁ」


「うっ……うるさい!」


「ていうか、俺の前ではあまり笑ってくれないよね。俺、けっこう面白いこと言っているつもりなんだけど?」


「腹が立つ一方よ、あなたに対しては」


「じゃあ、今度のデートまでに、爆笑ネタを作りまくって来るわ」


「どこの芸人よ」


「あ、芸人って良いかもな。千冬、何気にツッコミ上手いし。夫婦漫才でもやるか?」


「やりません」


「面白いと思うけどな~」


「はぁ……お願いだから、普通にデートして」


「うん、そうだな。最初からいきなり、アブノーマルじゃ飽きるもんな。ノーマルから徐々に、シフトして行こうか」


「ずっとノーマルにしなさい!」


「我慢できるかな、俺」


「やっぱり、変態じゃない」


 こうして、彼女と過ごす楽しい昼休みが過ぎて行く。




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