第11話 キモい奴ら

 便所は臭いし、他の人の迷惑になるから、人気の少ない階段の踊り場で話すことになった。


「で、お前……森崎さんと、どうなってんの?」


 まず尋ねるのは、ツンツン頭の奴。


 中野明彦なかのあきひこと言う。


 見た目からして活発、スポーツタイプかと思いきや、オタク。


 美少女フィギュアをコレクションしている。


 俺も何度か見せてもらったけど、ぶっちゃけキモかった。


「どうって言うのは?」


「もったいぶった言い方をするな」


 今度は老け顔の奴が言う。


 小林隆志こばやしたかし


 性欲が強いエロ男。


 けど、未成年だから、あくまでも全年齢の中でエロを模索している。


 いつか俺が『将来の夢は、AV監督?』と聞いたら、『いや、俺はあくまでもユーザーだから』というこだわりの強さを持つ男だ。


 とりあえず、キモい。


「別にもったいぶってないけどさ」


「良いから、さっさと教えやがれ」


 ロンゲにメガネの、いかにもオタクっぽい奴。


 竹本三郎たけもとさぶろう


 こいつは見た目に反してデスメタル好き。


 一緒にライブに行った時は、フィーバーし過ぎてキモかった。


 つまり、俺が仲良い3人とも、キャラが濃くてキモいのだ。


 まあ、好きな奴らだけど。


「「「で、どうなんだ?」」」


 キャラ濃い3人に迫られて、俺は笑いながら、


「ここだけの話にしてくれる?」


 と前置きをした。


「まあ、事と場合によっちゃ、お前の命がここまでだけどな」


「じゃあ、俺と千冬が付き合っているって言ったら、終わりってこと?」


 ピキリ。


「「「その言い草は、もう付き合ってんだろうがああああああああああぁ!」」」


 キャラ濃い3人が同時に叫ぶ絵面はすごい。


「ああ、付き合っているよ」


 俺があっさり肯定すると、奴らは一気に勢いを失い、ガクリとうなだれる。


「……何でお前みたいなサイコパスが、森崎さんと付き合えるんだよ」


「おい、誰がサイコパスだよ」


 どうやら、キモいと思っているのはお互い様のようだった。


「だってお前、道端で犬におしっこかけられても『可愛いなぁ』って笑っていたじゃん」


 明彦がゲンナリして言う。


「普通は怒る所だろ?」


 隆志が呆れたように言う。


「俺なら、逆にツバを吐きかけるぜ?」


 三郎もギラつく目で言う。


「だって、そんなことで怒ったり、落ち込んだりしても仕方がないだろ?」


「でもそういえば、飼い主の女の人、美人だったなぁ。ちょっと、年齢が高いけど」


「いや、あれくらいの年齢が1番良いだろ。半熟女ってやつか」


「お詫びにお前のケツに◯ックさせろや!」


「あはは、お前ら最低だな。まあ、確かに美人さんだったけど」


「ていうか、勇太って……面食いか?」


「んっ? まあ、彼女が美人に越したことはないけど」


「うわ、こいつ余裕をぶっかましてやがるよ。勝者の余裕ってやつを」


「まあ、森崎さんは確かに美人だけど、所詮はまだ少女だからな。俺のドストライクからは外れているな」


「上品ぶったメスに用はねえんだよ」


「あはは。お前ら、千冬の前でそのゲスな発言の数々はやめとけよ」


 俺が笑いながら言った時、


「――随分と、楽しそうね」


 俺たちは、ハッとして振り向く。


 そこには、腕組みをする、黒髪の美少女がいた。


「あっ、千冬。何でここに?」


「何となく、あなた達の様子が気になってね」


「そっか、何か嬉しいなぁ」


「何でニヤけているのよ? ムカつく男ね」


 俺と千冬が話す一方で、先ほどまで賑やかだった3人は、すごすごと下がっていた。


「んっ? お前ら、何でそんなにビビっているんだ?」


「いや、美人が怒ると怖いって言うから……」


「ああ、確かに。千冬はすごく美人だから、怒るとすっごく怖いよな」


 俺が笑いながら言うと、千冬は動揺した顔になりつつも、


「ま、またそうやって、ふざけたこと言わないでくれる?」


「いや、別にふざけていないし、ただの事実を言ったまでだけど?」


「だからね~……」


 千冬は頭をガシガシとする。


「おい、やめとけよ。お前のきれいな髪が台無しだぞ」


「う、うるさいわね! 誰のせいだと思っているのよ?」


「あはは、怒るなって。まあ、怒った顔も、死ぬほど可愛いけど」


「くっ……じゃ、じゃあ、死になさい! 今すぐ!」


「え~……じゃあ、せめて、死ぬ前に1回だけ、エッチしてくれる?」


「はっ?」


「そうすれば、悔いは無いよ」


 俺が言うと、千冬の顔が真っ赤に染まって行く。


「エ、エエ、エッチだなんて、そんな……バカ、変態!」


「いや、この3人の方が変態だから。なぁ?」


「「「俺らを巻き込むな」」」


「そうだ。みんなして、ラーメン食べに行くって言ったじゃん? 今日の放課後とかどうだ?」


「お前、どんなタイミングでぶっこんでんだよ」


「空気を読め」


「ファッ◯!」


 親友3人が焦った顔で口々に言う。


「……今日のお昼休み、楽しみにしておきなさい」


 ふいに、千冬が静かな声で言う。


 こちらにくるっと背中を向けてから、


「勇太くん?」


 と言った。


「あっ、ちゃんと名前スムーズに呼んでくれたな! 嬉しいぞ!」


「う、うるさいわね! このあっさりマン! サイコパス!」


 千冬は赤面顔で怒りながら、階段をズンズンと上って行った。


「あはは、彼女にまでサイコパス認定されちゃったよ」


 俺は笑いながら親友3人に振り向く。


「お前、バカだな。せっかく、森崎さんと付き合えたんだから、もっと自重するというか、擬態しろよ」


「そうだよ。それこそ、さっき言ったように、せめてセッ◯スするまでは、大人しくしておけ」


「もうこうなったら、強引に行くしかねえよなぁ?」


 3人がアドバイスをくれる。


「ありがとう。まあ、千冬は胸だけじゃなくて器も大きいから、きっと大丈夫だと思うけど」


「「「お前、そんな下らない冗談を言っている場合かよ」」」


「まあ、もしフラれたら、またラーメン付き合ってくれよ」


「勇太……ていうか、お前がそんなに余裕なのって、もし森崎さんにフラれても、須藤さんとも良い感じっぽいからか?」


「なるほど、勇太……さすが、サイコパスだぜ」


「クソファ◯◯ン野郎だな!」


「おいおい、違うって。俺は千冬だけのことが好きだから。童貞を捨てる……いや、捧げるのは千冬が良いし」


「お前……まあ、がんばれよ。本番前には、俺のフィギュアでイメトレさせてやるよ」


「俺の秘蔵コレクションも貸してやる」


「俺もメタルな極意を叩き込んでやるよ」


「ううん、どれもいらない」


 俺は笑顔でそう言った。




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