第13話 変態と罵られつつも……

 休日。


 街はワイワイ、ガヤガヤと賑わっている。


 人が多いけど……


「あっ、千冬ぅ」


 俺が手を振りながら駆けて行くと、ちょっと嫌そうな顔をされた。


 そこもたまらない俺は、やっぱりドMの素質があるのかな?」


「よっ、元気か?」


「……ええ、そうね。あなたが来る数秒前までは」


「はは、照れんなって」


「この明るいサイコパスめ……」


 恨めしそうな目で睨まれる。


「あ、ごめん。やっぱり、彼氏がサイコパスとか、無理かな?」


「えっ?」


「俺、千冬みたいな美人で可愛い子とキスとかエッチしたいけど、でも千冬のことが本当に好きだから。千冬が苦しむくらいなら、別れるのもやむなしかなって……」


「……って、このおバカ! 何で初デート開始数秒で別れ話になっているのよ!」


「あはは、確かに。俺、やっぱり千冬と別れたくないから、死んでも離さないよ」


「へ、変態」


 そう言いつつも、千冬は頬が赤く染まっていた。


「さてと……いきなりだけど、今日はノープランなんだ」


「ちょっと、ちゃんとしなさいよ」


「だって、千冬と一緒なら、どうせ何をやっても楽しいし」


「きゅ~!」


「出た、それ可愛いやつ」


「いちいち触れないで!」


「あー、千冬のおっぱい触りてぇ~!」


「いきなり何よ!?」


「ねえ、お願い。ちょっとだけ、触っても良い?」


「い、嫌よ。いくら彼氏だからって、そう簡単に触らせないんだからね」


「じゃあ、せめてカップ数を……あ、いや、やめておこう。それは自分で揉んで行く中で、予想する楽しみがあるからな」


「もう嫌だ、この男……」


「あ、じゃあ、別れる?」


「別れません!」


 赤面しながらキレられる。


 本当に可愛い女だな。


「じゃあ、ここ最近ずっとラーメンだったからさ。メシはちょっと置いておいて、街ブラするか?」


「ええ、良いわよ」


「んで、軽く何か食べると」


「あら、楽しそうね」


「へぇ、珍しい。素直に褒めてくれるなんて」


「べ、別に、私はそんな意地悪な性格じゃないから。いつも、あなたがおかしなことばかり言うからいけないのよ」


「だって、千冬が可愛くてエロい体しているから、イジり放題なんだもん」


「変態、バカ!」


「照れるなって」


 俺がたしなめると、千冬はキッと睨んで来る。


 けど、やはり可愛すぎるので、俺はニヤけるばかり。


 だから、千冬はますます怒った顔になる。


 そして、俺はなおさらニヤけると……そのエンドレスだった。




      ◇




 俺たちは下町の商店街をブラつく。


「オシャレな街も良いけど、たまにはこっちも悪くないだろ?」


「ええ、そうね。ノスタルジックって言うのかしら? 良い雰囲気だわ」


「俺たちも、良い雰囲気かな?」


「知らないわ」


 ふい、とそっぽを向かれてしまう。


「あっ、千冬。アレ見ろよ」


「えっ?」


 俺が指差す先にあるのは、コロッケ屋だ。


「あれ、食べるか?」


「ええ、良いわよ」


 俺たちはそちらに向かう。


「すみません、コロッケ2つ」


「あいよ」


 俺たちは出来たてホカホカのコロッケをいただく。


「じゃあ、歩きながら食べようか」


 そう言って、俺はパクッとする。


「あふっ」


 すると、


「ふふっ」


「あ、千冬が笑った」


「ごめんなさい。ちょと良い気味だなって思って」


「千冬、ドSな面もあるんだな。じゃあ、俺は安心してドMになれるよ」


「ちょっと、食べている最中に変なこと言わないでちょうだい」


 文句を言いつつ、千冬もコロッケをかじった。


「……あふっ」


「あ~、そのコロッケになりたい」


「は、はぁ~?」


「千冬の口の中を焦がしたいぜ」


「ねえ、あなたってあっさり系というか、サイコパスというか……ただの変態?」


「いや、俺ってエッチの体勢は、ちゃんと顔が見えるやつが好きだから」


「変態!」


「ついでに、千冬の揺れる巨乳が……むぐっ!?」


 何と、俺の口に千冬のコロッケが突っ込まれた。


「あ、あふあっ!?」


「これは罰なんだからね」


「おぅふっ……いや、むしろご褒美だよ、ありがとう」


「ドM、変態、サイコパス」


「けど、やられっぱなしの勇太くんじゃないぜ? ちゃんと、千冬にも仕返ししないと」


「うっ、や、やめなさい」


「良いから、黙って口を開けろよ」


 俺が少し声のトーンを落として言うと、千冬は妙に大人しくなった。


 やっぱり、こいつ……可愛いな。


「や、優しくして……」


「大丈夫だから。ほら、目を閉じて……」


 俺に反抗してばかりだった千冬は、大人しく言うことを聞いてくれる。


 俺はそんな彼女の口元にそっとコロッケを近づける。


「ちゃんと、ふーふーしておいたから、安心して」


「やだ、汚いわ」


「ひどいな、興奮するけど」


「バカ」


 サクッ、と一口。


「あふっ……あ、でも平気」


「美味いな、このコロッケ」


「ええ、そうね」


「何か、カレー食いたくなって来たな」


「はぁ? まあ、気持ちは分からなくもないけど」


「じゃあ、昼メシはカレーにするか?」


「カレーは美味しいけど……でも、お洋服が汚れちゃうから。また今度にしましょう?」


「じゃあ、今度は千冬の家で、千冬の手作りカレーをごちそうになるか」


「って、何で勝手に決めているのよ?」


「良いじゃん。千冬の美人のママにも会いたいし」


「あなた、やっぱり……」


「だから、俺は千冬だけだって」


「本当かしらね? 言っておくけど、お母さんは私よりも巨乳よ?」


「マジで? てことは、千冬もここからさらに、成長するってことか……」


「ジ、ジロジロ見ないでよ!」


 千冬は両手で胸を隠す。


「ハハハ、おっぱいデカくて、隠しきれていないぞ?」


「……変態」


「そんな風に可愛く睨んでも、俺を調子づかせるだけだぜ? むしろ、堂々と見せつけられた方が、萎えるかも」


「こ、こうかしら?」


 千冬は俺が言った通り、その立派な巨乳を見せつけるようにした。


「うわ、でっけぇ~」


「って、どちらにせよじゃない!」


「あ、でも、やっぱりそれやめて。他の奴に、千冬の見せたくないし。千冬のおっぱいは、俺だけのモノだからさ」


「……バカ」


 照れる千冬は、やはりどこまでも可愛かった。




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